「秋🍁」
医師「アキレス腱断裂ですね」
…事故は秋の運動会で起こった
運動会と言っても会社の運動会だ
会社の運動会は子供の運動会と違う
会社のお偉方に忠誠心を見せる場だ
お偉方に笑って頂けるように面白く転ぶ者、借り物競走でカツラを渡して笑いを取る者など様々だ
真面目が取り柄の私は最後のリレーで存在をアピールするしかない
そして絶好の機会が訪れた
四位で渡されたバトンだが前を走る三人は少し言い方は悪いが、上司のご機嫌とコピーを取ることしか出来ない鈍足で無能な3匹の社畜だ
私は違う、出世レースの真っ只中を走る企業戦士だ
あっという間に3匹との距離を詰める
しかしジャージのゴムが緩んで、ずり落ちてしまいそうだ
それでも何とか最終コーナーにさしかかったその時
ブチン!
足首から何かが弾けるような音がした
私は転げながら若い女性グループに突っ込んだ
悲鳴を上げる女性たち
深いため息を残して立ち去る社長とその取り巻き
パンツまでズリ落ちている…
…アキレスと亀が…
私は出世レースからもコースアウトした
「窓から見える景色」
地球が見えてきた
私たちは歓迎されるだろうか?
窓に映る私の顔…大きな目、小さな鼻と口…そして灰色の肌
地球人がまず思い浮かべる宇宙人の顔、そのものだ
そしてこの宇宙船…子供から大人までみんなが知ってるアダムスキー型のUFO…もう300年以上モデルチェンジしてない
笑われないだろうか?
舐められたら終わりだ
実はもう地球人と科学力の差はほとんどない
抜かれてからでは遅いのだ
星を失った今、地球で生きていくしかない
頭の中でシミュレーションしてみる
コテコテのUFOから降りてくるコテコテの宇宙人
ダメだ…笑われそう
気を強く持たなければ…
こちらの手札は三枚
UFO、STAP細胞、リアルな映像のゲーム機
この三つで驚かせて永住権を勝ち取る
だいじょうぶ、笑顔、笑顔
鏡の前で作るその笑顔は地球人が見たこともない恐ろしいものだった
「夜景」
夜景の見えるレストランに着いた時、プロポーズされると感じた
この時を待っていたはずなのに…
料理を注文するときタッチパネルをぐっと押す彼を見て醒めてしまったのだ
操作ミスで目玉焼きハンバーグが四つ来た事も拍車をかけた
私…この人で良いのかな?
そう思った瞬間、記憶が堰を切ったように溢れ出した
髪を切りすぎて風邪を引く彼
車酔いする彼
交差跳びが出来ない彼…
ふと顔を上げた時、そこには居たのは醜悪なガマガエル
これが蛙化!?
私は悲鳴をあげて逃げ出した
蛙化はある日突然やって来ます
愛する彼が突然カエルになっても貴方は愛せると誓えますか?
「命が燃え尽きるまで」
セームシュルトは楽しそうにずっと喋ってる
周りがつまらなそうにしてることなどお構いなしだ
くそっ…誰がセームシュルトなんて呼んだんだ
さっきまで盛り上がってたコンパが台無しじゃないか
子供の頃、夢中で見てたK-1もセームシュルトが参加するようになってつまらなくなった、それはコンパでも変わらないようだ
「えっ!有名人なの!?」
急に女子たちが色めき立つ
セームシュルトはここぞとばかりにバッグからチャンピオンベルトを取り出す
くそっ…なんで持ってきてんだ
女子たちはすでに落ちてしまったようだ
1時間後、両肩に女子を乗せて、お持ち帰りするセームシュルトを見送ってから何気なく彼のウィキペディアを見た
そこには格闘家生命が燃え尽きるまで戦った男の歴史が刻まれていた
「胸の鼓動」
あとは待つだけだ
午前4時30分…5分後、彼はこの道を通る
「私たちはこれで」業者は空気を察したように消えた
改めて見るとその高さに驚く
24段の巨大跳び箱、通称モンスターボックス
24段…そう、これを飛べば世界新記録である
23段の世界記録保持者は5人
彼がこれで満足してるはずがない
たこ焼き屋など始めてる場合ではないだろ、目の前のモンスターに立ち向かってくれ!
彼がやってきた、当然モンスターに気付く
相対する両雄
彼が笑ったように見えた
そしてゆっくりと助走を始める
私の胸の鼓動も徐々に早まっていく
そして彼が十字路にさしかかったその時
横から飛び出してきた新聞配達のカブが彼を飲み込み闇に消えた