「時を告げる」
ピーー……
「18時22分、ご臨終です」
医師のその一言でみんな一斉に泣き出した
昭和のドラマでよく見た光景だ
遺族がドラマで聞いたことがあるようなセリフを吐く
「あなた、私をおいてかないで!」
「くそっ!もっと俺が早く気付いていたら!」
「おとっつぁん!おとっつぁん!」
おとっつぁん?…娘のやり過ぎたアクションに空気が壊れそうになる
「現代医学の敗北です、私たちにもっと力があれば…」
ベテラン医師がすぐに空気を戻す
92歳の老衰だがそこは察して誰も突っ込まない
ピッ………………ピッ………ピッ
「えっ?」
皆の表情が固まる
妻89歳 弟87歳 娘73歳
医師75歳
気持ちをココカラファインに持っていくにはみんな歳を取り過ぎていた
ピッ………ピ「お父さーん!」
心電図の音をかき消す娘の泣き声
医師はそっとコンセントを引き抜いた
「貝殻」
夏休み最後の週末、クラスの仲良しグループ30人で海に遊びに来ている
私はリーダーの前で披露したウミガメの産卵シーンがウケてグループの仲間入りを果たせた
どうしても仲間入りしたかった理由がある
そう、三年間想い続けた彼へ告白するためである
クラスで2軍の彼と接触できるチャンスは今日が最初で最後だと思い、恥を忍んでナミダを流して卵をたくさん産んだのだ
彼の水着姿が見られるなんて…私は体の芯を熱くした
これで満足してはいけない…今宵、彼と一つになるのだ
私以外、みんな海で楽しんでいる
チャンスがきたっ…ここでジャージを脱ぎ捨てこの大胆な水着で彼のもとへ駆け寄ればイチコロのはず!
貝殻を拾い耳にあてる…波の音が私を落ち着かせた
「セックス」
貝殻がそう呟いてくれた
恥を捨てろ、私は新人グラビアアイドルだ、どんな仕事でもやるんだ
私は満点の笑顔と貝殻ビキニで彼のもとへ駆けだした
「些細なことでも」
「バース、岡田、掛布じゃなくてバース、掛布、岡田バックスクリーン三連発」
………沈黙が流れる
彼は些細なことでも見逃してはくれない
「はははっ…そうだ、甲子園と言えばやっぱり松井秀喜の4打席れんぞ…」
「4打席連続じゃなくて5打席連続敬遠」
「…どうして些細なミスでも指摘するの?そのくせ私がポニーテールからベリーショートにした事には全然気付いてくれないじゃない!」
「ベリーショートじゃなくて丸坊主…とても似合ってる、好きだよ」
「ば…ばかぁ!」
彼の胸で泣いた、高校球児みたいに
「開けないLINE」
私をのぞいてみんな開けているようだ
どうしよう…バレてしまう
授業が始まる前にこれからクラスメイトとなる皆と少しだけ話したが誰も私より知識があるとは思えなかった
一人は「何もしてないのに動かなくなる」と
もう一人は「寂しかったから」と
最後の一人は「腰痛で毎日つらい」と愚痴をこぼしていた
そんな人達だったからつい自分は充実したスマホライフを送っていると吹聴してしまった
それなのに…
様子のおかしい私に気付き頬に大きな傷がある教官が近付いてくる
私は頭が真っ白になりスマホ教室を飛び出した
「言葉はいらない、ただ…」
渾身の右ストレートはもっといらない
僕がキスしたかったのは地面じゃなく君だったんだけどな…
呼び出した夕暮れの体育館裏
人生初の告白
人生初のOK…ではなくKO
薄れゆく意識の中、僕は願った
早く気付いて、用務員さん