ハケンハゲ

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7/30/2024, 4:12:35 AM

嵐が来ようとも


14日 土曜日 曇り

たとえ嵐が来ようとも私は二人を家に上げるつもりはなかった

私の娘は昨日から入院している

理由は玄関前で佇んでいる大男にバイクで轢かれたからだ

アクセルとブレーキを間違えたと言うが…

本当にそんなことが?

巨漢の男はおそらく中年…バイクの事はよく知らないがアクセルとブレーキを間違えるほどの年齢とは思えない

おそらくと言うのは男は仮面を付けており顔が見えないからだ

男は数日前にまぶたの手術をしてダウンタイム中?だからと母親から説明を受けたが…

いい大人が母親同伴で仮面を付けたまま謝罪と言うのはどうにも誠意が感じられない

菓子折の厚切りバウムクーヘンも強い意志で突き返し帰って貰った

母親にジェイソンと呼ばれていたあの男…

これで終わる気がしない

家は知られてしまった

いいさ、来るなら来い

その時はアクセルとブレーキを間違えずにお前を轢いてやる

そう誓った私は娘の見舞いに行く途中、アクセルとブレーキを間違え事故を起こし入院した

4/15/2024, 4:47:40 PM

「届かぬ想い」


みんなの安全守ります♪全米ライフル協会♪

流れるCMを見て実感がわいてきた

ほんとにアメリカにいるんだ…

僕は難しい手術を受けるためにアメリカに来てさっきその手術が終わったばかりだ

腕には点滴、嬉しいアメリカンサイズ

さすがアメリカ…何もかもスケールが大きいや

今日を迎えるまでにずいぶん時間がかかった

手術が怖くてゴネていたら親がプロ野球選手を呼んでくれたりもした

「プロなら僕の為にホームラン打ってよ」

結果は3三振で途中交代、3打席目、バットを短く持ってヒット狙いに切り替えた事に腹が立った

結局みんな自分が大切なんだ……そうか、それなら僕も自分を大切にしなきゃ

逆にそう思えて手術を受ける気になれた

「バタン」

執刀医がドーナツを食べながら病室に入ってきた

よれよれのシャツ…ぼさぼさの髪…とても天才ドクターとは思えない

「良いニュースと悪いニュースがある、どっちから聞きたい?」

アメリカにいるんだ…

「じゃ、じゃあ悪いニュースから」

「お前の手術は失敗した、残念だったな」

えっ?…こいつ、ドーナツ食いながら?

「そんな…嘘でしょ!?じゃあ良いニュースってなんだよ!?手術また受けられるの!?」

「大谷の容疑は晴れた、よかったな」 

「………」

こんな人間がゴロゴロいるアメリカ…そりゃライフルが売れる訳だ

僕はため息をつきヤレヤレと肩をすくめた


11/12/2023, 9:17:22 PM

「スリル」


ガシャン!

思いっきり屋根瓦を踏み抜いてしまった

早く逃げないと…

異変に気付き犬がけたたましく吠える

腰まで埋まってなかなか抜け出せない

となり近所の犬まで吠えだして大合唱が始まった

だから犬はキライなんだ


私の名は「キャッツアイ」この道20年のベテラン怪盗だ

表の顔は平凡な二児の母で万引きGメンの仕事をしている

絶対的な立場から万引き犯に説くモラルや人格否定ほど気持ちの良いものはない

その後、優しい言葉で語りかけ理解を示し、心からの謝罪を受け取ったあと優しく微笑み警察を呼ぶ

安堵から絶望そして怒りへと変わっていく表情がたまらなく面白い

もし捕まって万引きGメンの私がキャッツアイとバレたら袋叩きにあうだろう

いや待て…今は逃げることに集中しないと

私は屋根から飛び降り走り出した



あの公園でしばらく身を隠そう

身を隠すのに丁度いい遊具のトンネルがあった

ようやく落ち着ける

もうキャッツアイは引退しないと…さすがに潮時だ

………

安心したら眠気が襲ってきた…少しだけ寝よう…少しだけ


外がずいぶん騒がしい…子供たちの声がする

外を覗くと沢山の子供と数人の大人達

……ラジオ体操か!くそ、6時間も寝てしまった!

どうする?トンネル内で見つかれば完全に不審者だ

しかし出て行っても……いや待てよ…むしろ堂々と出て行けば…


「おはようございます!」


目を丸くする子供たち

笑顔、笑顔、堂々と振る舞え

「アハハ」

「気合いスゲー」

「おばさん面白い」

よかった…

夏休みでよかった

ラジオ体操でよかった

レオタード着てて本当によかった


11/8/2023, 4:58:13 AM

「あなたとわたし」


「久し振りだね…あれからもう二年が経ったね…実はわたし……今度結婚するんだ」

かつて結婚を誓ったあなたへ…ようやく結婚の報告が出来たよ

「すごく優しい人でね、人柄に惹かれたんだ。きっかけはあの事故で私の担当になってくれた医者の―」

あなたを裏切った事になるのかな?

天国のあなたは「そんなことないよ」って優しく微笑んでくれると思うけど…

「…あの人待たせてるからそろそろ行くね。あなたが大好きだった甘栗、お供えしたから沢山食べてね…さようなら」


大きな栗の木の下で

あなたとわたし

栗の木の下敷きに

大きな栗の木の下Dead


11/5/2023, 1:02:05 AM

「哀愁をそそる」


「綺麗だよ、エッチだね」

大根にそう語りかけるのは真っ黒に日焼けした寡黙で不器用な男だ

セクシー大根を作り続けて20年が経つ

実を言うとニュースやネットで取り上げられるセクシー大根はすべて彼の作品だ

彼自身が褒められることはない、それでも世間の評判は彼に届いている

「あんな男と別れちまえよ、あいつにお前はもったいないぜ」

彼の褒め方によって様々なセクシー大根が生まれる、団地妻大根が好評だ

出て行った妻のことも少しは褒めていたら…しかし結婚してすぐに50キロも肥えた妻に言葉は出てこなかったという…

離婚後、イタリア人の甘言を真に受けた彼女が下町のモニカベルッチと呼ばれるまでに変貌しようとは…

仲睦まじく歩く二人を商店街で見かけた事がある、彼女は背中の大きく開いたイブニングドレスを着ておりその美しい姿にまたも言葉は出てこなかったという…

「私にはこの子達がいますから」

そう答えた彼の背中は切り干し大根のように痩せ細っていた


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