笹の葉に
たわむ願いを
数えては
まだ死ねないと
筆を執る
星空に手を伸ばす。くらぁい空に、ちらちらと輝く綺麗なもの。息の詰まりそうな夜に開放感を与えてくれるもの。いくら手を伸ばしても掴めやしない、遠い、遠い存在。
たとえば、と考えてみる。視界いっぱいに広がるアレは、空気なんかじゃなく黒い沼。キラキラしているのは一部分で、沼に浸かる部分は黒く汚れている。綺麗な一部分だけを皆がちやほやして、でも本当の顔は裏にあったら?
それでも、キレイなだけいいじゃないか。
ちやほやして、愛される部分があるだけいいじゃないか。
羨ましい。妬ましい。ボクも、あんなふうにキラキラしていられたら、いつかは誰かが愛してくれるのかな?
この道の先に何があるだろう?右へ左へ、気の向くままに進む。見通しのいい明るい道と、木がうっそうと生い茂った暗い道。おばけが出てきそう!と暗い道を選んだのに何も出て来なくて、その先の分かれ道では蜂が右側に飛んでいったので巣があったら怖いなと左を選んだ。曇り空で影から方角を推測することも出来ない。自分の位置も分からない。私を呼ぶ声が聞こえたので向かったら植え込みの壁を隔てて誰かが後方へ走り去っていった。止める間もなかった。気にせず気の向くまま、足の向くままに進む。この迷路も無限ではないのだからいつか何処かには出るでしょう。
「見つけた!」
後ろから大きな声が聞こえて振り向く。よく知った人が肩で息をしながら駆け寄ってきてガシッと手首を掴まれた。力が強くて振りほどけそうに無い。
「迷子は安易に動き回らないで下さい!」
「探す声が聞こえたから追いかけたんだけど、おいてかれて……もう元の場所に戻れないからいいかなって」
「良くありません。次からは迷ったと思ったらその場から動かないで下さい。こちらで必ず見つけますから。いいですね?」
「探されるにしてももう少し分かりやすい場所に移動できればと…」
「いいですね?」
「……はーい」
次は晴れた日にこの迷路を散策したいなぁ。
日差しが眩しくて手で遮る。昼寝をしていたら日差しの位置が変わったらしい。遮った筈なのにまだ瞼に日が当たっている感覚があり、なんでだと両目を開けた。左目にかかる影と、右目を燦々と突き刺す太陽。
ああ、これは夢か。
赤い糸の話は知っちゃあいたが、無縁のものだと思っていた。守りたい大事な人も失い、教えを守りながら、あとは死ぬまで生きるだけの人生。それでいいと思っていた。
ところが長生きはしてみるもんだ。絶望の果てに、再度大事な人が出来てしまった。息をするだけだった毎日に色が満ちた。
今度こそ、守らなければ。今度こそ、奪わせはしない。
だから、赤い糸なんてものがあったとしても。もし、あんたの赤い糸が俺以外の人に繋がっていたとしても。あんたの隣は、俺がいい。
俺をここまで変えたんだから、そのくらいは許してくれるよな?