ライフハックお姉さん👩🏫<貝殻は細かく砕くと肥料になるけど、問題はどうやって細かくするかなのよね。まあ、どこのご家庭にもある、一般的な薬研なんかを使うといいと思うわ。
お題『貝殻』
「きらめき……は、どうだろうか」
ぽつりと漏らされた言葉に、場が「いいじゃないか!」などと賑わった。
十年近くかけての一大プロジェクトの締め、命名作業である。
地元の大学と提携し、新たなコメの品種を開発したのだ。
その命名権を、大学の先生が「これから皆さんが作られるのですから、愛着が持てるように」と、農家のおっちゃんらに託したのだ。
「いいな、『きらめき』!」
確かに悪くない。
ただ悪くないだけに、先に商標を取られている可能性はある。
「ちょっと調べてみるわ」
一番の若手(四十代半ば)の耕作が、スマートフォンで検索する。
「んーと……『ナントカのきらめき』みたいのはあるけど、きらめきだけってのはなさそう……」
「そう言われると、『きらめき』だけってのは弱い気がするな……」
一人が言い出すと、他のおっちゃんたちも「そうだな……」などと頷きだした。
「『きらめき』、か……」
一人のおっちゃんが何かを考えつつ、ぼそっと呟いた。ややしておっちゃんは顔を上げると、その場の一人をビシッと指差した。
「『きらめき』の『き』‼︎」
「『き』⁉︎ き……えっと、き、キラキラ光って!」
突然のあいうえお作文が始まった。
それを一番の若手である耕作は、突っ込みたい気持ちを堪えつつ見守っていた。
「『ら』‼︎」
「ら、ランランルー‼︎」
「おい、ちょっと待てぇ!」
思わず突っ込んでしまった。
ストップをかけた耕作を、皆が不思議そうな顔で見る。いや、そんな顔で見られる謂れはない。
「なんでランランルーだよ!」
「ダメか? 楽しそうでいいじゃないか」
このおっちゃんらに説明するのも骨が折れる。もういいや、好きにやらせとこう。
耕作はそう考え、口出しをやめることにした。
「じゃあ次だな。『きらめき』の『め』!」
「『めだか』!」
指さされたおっちゃんの答えに、「ブブー!」と無情なブザーの音が重なる。
いつの間にか、おっちゃんの一人がクイズの正誤を報せる手持ちのブザー(おもちゃ)を持っている。
いつの間に……、いやそれ以前に、どこから出したんだ。
突っ込みたい耕作をよそに、おっちゃんらは「めだかはダメだろ!」などと揉めている。
……めだか以前にランランルーの時点でダメだろ。
「そんじゃもう一回だ。『め』!」
「目指せ一番!」
おおー‼︎ と上がる声に、耕作だけは心の中で「おおー、じゃねぇよ……」と思っていた。
「じゃあラスト、『きらめき』の『き』!」
「キツツキ!」
ブブー! ブブー! と不正解のブザーの大合唱だ。いつの間にかブザーを持っているおっちゃんが増えている。
あのブザーはそんなに皆が持っている物なのだろうか……。
「はいはいはい! 閃いた! 『金賞受賞』だ!」
「だ!」じゃねぇよ。何の金賞だよ。これから市場に流通させようっつってんのに、受賞歴なんざある訳ゃねぇだろ……。
耕作の心の突っ込みに反し、場は大盛り上がりだ。「それだ‼︎」などと言っている。
絶対それじゃねぇよ。
口に出したいが、おっちゃんら一人一人に突っ込むのが面倒くさい。
耕作が突っ込みを放棄した結果、新たな品種のコメの名前は『キラキラ光ってランランルー、目指せ一番、金賞受賞(略称きらめき)』に決まった。
きっと大学の先生か農協かお役所かどっかからストップがかかるだろう。
耕作はそう考え、その名をそのまま提出する事にした。
果たして名前はどうなったのか。
それはこれから、スーパーの米売り場で確かめていただきたい……。
お題『きらめき』
最近、アイコンタップしてから開くまでが遅くなってない?
地味にストレスで、LINEあんまり起動しなくなっちゃった。
お題『開けないLINE』
「ねえ、神棚に上げてある箱、なに?」
朝食の納豆を無心でねりねりしていた私に、母が不思議そうに声をかけてきた。
しかしそう問われるであろう事は、既に分かりきっていた事だ。なので私は答えた。
「あれは……私の青春の残滓よ……」
「……朝からかっ飛ばすじゃん……。納豆ねりながら……」
呆れたように言いつつ、母も席に着くと器の納豆を練り始めた。
私には、何よりも愛する『推し』が居た。『彼』はとあるソシャゲのキャラクターだ。
所謂『乙女ゲーム』というジャンルで、主人公(プレイヤー)はゲーム中の数多のイケメンから言い寄られたり言い寄られなかったりする。
そのゲーム中のキャラに、私はガチ恋に近い思いを抱いていた。
彼のグッズや、ゲームの追加シナリオや、彼に関するゲーム中のアイテムなどに、惜し気もなくお金を注ぎ込んできた。当然のように私の部屋には、彼のグッズを集めた『祭壇』がある。
その費用は、きちんと自分でアルバイトをして賄っている。額に汗して得た金銭を彼に突っ込むことに、悦びすら感じていた。
そんな彼の新グッズの情報に、私が飛び付かない筈がなかった。
新しいグッズは『香水』だ。
ゲーム中でもよく、彼からは良い香りがすると描写されていた。
私のみならず、SNS上のファンたちの声も「待ってました!」というものが多かった。分かる。
しかも有名な化粧品のメーカーのタイアップだ。期待値爆上げだ。
化粧箱入りで、瓶も凝っていて、専用アトマイザーまでついて、お値段なんと約三万円! 「安ぅい! 社長〜♡」いや、フツーに高いわ。
しかし買わないわけにはいかない。この為にバイトをしてお金を貯めているのだから!
完全受注生産なので予約をし、注文確定のメールを受け取り、私はその日を楽しみに待っていた。
「……言っちゃったよね。『え、クッサ!』って……」
そう。
あんなに楽しみにしていた彼の香りの香水は、私の好みに全く合っていなかった……。
「臭かったんだ……」
母は「香水が臭いとか草」などと真顔で言っている。だが笑い事ではない(真顔だが)。
それ以来、ゲームをプレイしていても「こんなカッコいい事言ってても、この人臭いんだよなぁ……」と思ってしまうようになった。そしてどんどんと熱が冷め、あれ程に暇さえあれば起動していたゲームにログインしない日もザラになってしまった。
部屋の祭壇も、彼の顔を見る度にあの匂いを思い出してしまうので、日に日に縮小されていき、今では跡形もない。
「つまりあの香水は、私に『現実を見なさい』という神からの啓示だったのよ……」
「神様、そんなに暇じゃないと思うけど、まあそうなのね」
「そう。これからはバイト代がまるまる浮くと思うと、色々買いたいものとか買えるから、神様には感謝しとこうと思って」
「一番くじだって、好きで買ってたんじゃん……」
お母さん、正論はやめて。娘の心にクリティカルすぎるから。
「昔から言うじゃん。『女心と馬肥ゆる秋』……って」
「初めて聞いたけど」
「つまり私は、ひとつ大人になったの。そういうことよ」
ふぅん、などと、母は気のない返事をしつつ味噌汁をすすっている。
私も食卓の焼き鮭を箸で解しつつ、あの香水が味噌汁と焼き鮭と納豆の匂いだったら好きになれたかもしれないのに……と、詮のないことを思うのだった。
お題『香水』
よく「愛情の裏返し」などと言って、わざときつい物言いをしたり、嫌な態度をとる人が居たりするが、そういう人に言いたい。
それらは伝わらなければただの独り善がりだし、普通に考えて『裏返ってない素直な愛情』の方が嬉しいに決まってる、と。
お題『裏返し』