「きらめき……は、どうだろうか」
ぽつりと漏らされた言葉に、場が「いいじゃないか!」などと賑わった。
十年近くかけての一大プロジェクトの締め、命名作業である。
地元の大学と提携し、新たなコメの品種を開発したのだ。
その命名権を、大学の先生が「これから皆さんが作られるのですから、愛着が持てるように」と、農家のおっちゃんらに託したのだ。
「いいな、『きらめき』!」
確かに悪くない。
ただ悪くないだけに、先に商標を取られている可能性はある。
「ちょっと調べてみるわ」
一番の若手(四十代半ば)の耕作が、スマートフォンで検索する。
「んーと……『ナントカのきらめき』みたいのはあるけど、きらめきだけってのはなさそう……」
「そう言われると、『きらめき』だけってのは弱い気がするな……」
一人が言い出すと、他のおっちゃんたちも「そうだな……」などと頷きだした。
「『きらめき』、か……」
一人のおっちゃんが何かを考えつつ、ぼそっと呟いた。ややしておっちゃんは顔を上げると、その場の一人をビシッと指差した。
「『きらめき』の『き』‼︎」
「『き』⁉︎ き……えっと、き、キラキラ光って!」
突然のあいうえお作文が始まった。
それを一番の若手である耕作は、突っ込みたい気持ちを堪えつつ見守っていた。
「『ら』‼︎」
「ら、ランランルー‼︎」
「おい、ちょっと待てぇ!」
思わず突っ込んでしまった。
ストップをかけた耕作を、皆が不思議そうな顔で見る。いや、そんな顔で見られる謂れはない。
「なんでランランルーだよ!」
「ダメか? 楽しそうでいいじゃないか」
このおっちゃんらに説明するのも骨が折れる。もういいや、好きにやらせとこう。
耕作はそう考え、口出しをやめることにした。
「じゃあ次だな。『きらめき』の『め』!」
「『めだか』!」
指さされたおっちゃんの答えに、「ブブー!」と無情なブザーの音が重なる。
いつの間にか、おっちゃんの一人がクイズの正誤を報せる手持ちのブザー(おもちゃ)を持っている。
いつの間に……、いやそれ以前に、どこから出したんだ。
突っ込みたい耕作をよそに、おっちゃんらは「めだかはダメだろ!」などと揉めている。
……めだか以前にランランルーの時点でダメだろ。
「そんじゃもう一回だ。『め』!」
「目指せ一番!」
おおー‼︎ と上がる声に、耕作だけは心の中で「おおー、じゃねぇよ……」と思っていた。
「じゃあラスト、『きらめき』の『き』!」
「キツツキ!」
ブブー! ブブー! と不正解のブザーの大合唱だ。いつの間にかブザーを持っているおっちゃんが増えている。
あのブザーはそんなに皆が持っている物なのだろうか……。
「はいはいはい! 閃いた! 『金賞受賞』だ!」
「だ!」じゃねぇよ。何の金賞だよ。これから市場に流通させようっつってんのに、受賞歴なんざある訳ゃねぇだろ……。
耕作の心の突っ込みに反し、場は大盛り上がりだ。「それだ‼︎」などと言っている。
絶対それじゃねぇよ。
口に出したいが、おっちゃんら一人一人に突っ込むのが面倒くさい。
耕作が突っ込みを放棄した結果、新たな品種のコメの名前は『キラキラ光ってランランルー、目指せ一番、金賞受賞(略称きらめき)』に決まった。
きっと大学の先生か農協かお役所かどっかからストップがかかるだろう。
耕作はそう考え、その名をそのまま提出する事にした。
果たして名前はどうなったのか。
それはこれから、スーパーの米売り場で確かめていただきたい……。
お題『きらめき』
9/4/2024, 5:50:11 PM