自分で自分を褒めてやろうではないか。
そうだ。これは決して間違いではないし、恥じる事でもない。むしろ、誇るべき事であろう。
己の仕事に直向きに、真摯に向き合った結果だ。
今日も仕事を頑張るぞ、という勤労精神の発露だ。素晴らしい事ではないか!
……休日であった事を忘れていて、ガッチリと施錠されている入り口を前に、心の中でそんな御託を並べ自分を慰めるのだった。
お題『誇らしさ』
真っ暗で何も見えない。
今、自分がどこに立っているのかも。そして、どちらが前なのかも。
波の音がするし、潮の匂いが鼻をつく。
恐らく、自分の前方か後方(或いは上か下?)に海があるのだろう。
人というものは、とても不便で頼りない生き物だ。
目印がないと、自分が何処に居るのかさえ分からないのだから。
潮騒が聴こえる。潮の香りがする。だからきっと、ここは海岸なのだろう。
……果たして、本当にそうだろうか。
確かめるには、何れかの方向へと踏み出すしかない。
足を進めるか、ここでずっと立ち尽くすか。
それを決めてくれる存在はない。
自分で決めるしかない。
踏み出した先に、地面が続いている保証もない。
それでも。
踏み出してみようか。
『未知』への第一歩を。
お題『夜の海』
母が立つ台所から聞こえるは
世界でいちばんすきな音楽
お題『君が奏でる音楽』
公園のベンチの上に、麦わら帽子がぽつんと置かれていた。
誰かの忘れ物だろうか。周囲には自分以外に誰も居ない。
忘れ物なのだとしたら、交番にでも届けておこうか。ちょうど公園のすぐそこに交番もある事だし。
そんな風に考え、何気なく帽子を手に取った。
ベンチに伏せるように置かれていた帽子の中から、ひらり一匹の蝶が飛び去ってしまった。
ああ。捕らえた蝶を入れていたのか。やってしまった。
どうしようかと逡巡している間に、小さな虫籠を持った少年がやってくるのが見えた。
蝶を取り逃してしまった事を謝り、その後、少年と共に代わりに虫籠に入れる虫を探した。
数十分の後、虫籠にトンボを入れ、少年は満足げな笑顔で手を振って去って行った。
首から虫籠を下げ、麦わら帽子をかぶって走り去る後ろ姿を見送りながら、たまにはこういう日もあっても良いなと思った。
そんな、真夏の昼下がり。
お題『麦わら帽子』
初めから分かっていた。決まっていた、と言っても良いかもしれない。
これまで幾度も、その言葉に騙され、裏切られてきたのだ。信じた心を踏み躙られてきたのだ。
それでも。
今度こそはと、そんな希望を持ってしまった自分の負けなのだ。
そう。
『こちら側のどこからでも切れます』という言葉に——。
お題『最初から決まってた』