NoName

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 真っ暗で何も見えない。
 今、自分がどこに立っているのかも。そして、どちらが前なのかも。
 波の音がするし、潮の匂いが鼻をつく。
 恐らく、自分の前方か後方(或いは上か下?)に海があるのだろう。
 人というものは、とても不便で頼りない生き物だ。
 目印がないと、自分が何処に居るのかさえ分からないのだから。
 潮騒が聴こえる。潮の香りがする。だからきっと、ここは海岸なのだろう。
 ……果たして、本当にそうだろうか。

 確かめるには、何れかの方向へと踏み出すしかない。
 足を進めるか、ここでずっと立ち尽くすか。
 それを決めてくれる存在はない。
 自分で決めるしかない。
 踏み出した先に、地面が続いている保証もない。

 それでも。
 踏み出してみようか。
 『未知』への第一歩を。


 お題『夜の海』

8/15/2024, 3:15:03 PM