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 公園のベンチの上に、麦わら帽子がぽつんと置かれていた。
 誰かの忘れ物だろうか。周囲には自分以外に誰も居ない。
 忘れ物なのだとしたら、交番にでも届けておこうか。ちょうど公園のすぐそこに交番もある事だし。
 そんな風に考え、何気なく帽子を手に取った。
 ベンチに伏せるように置かれていた帽子の中から、ひらり一匹の蝶が飛び去ってしまった。
 ああ。捕らえた蝶を入れていたのか。やってしまった。
 どうしようかと逡巡している間に、小さな虫籠を持った少年がやってくるのが見えた。

 蝶を取り逃してしまった事を謝り、その後、少年と共に代わりに虫籠に入れる虫を探した。
 数十分の後、虫籠にトンボを入れ、少年は満足げな笑顔で手を振って去って行った。

 首から虫籠を下げ、麦わら帽子をかぶって走り去る後ろ姿を見送りながら、たまにはこういう日もあっても良いなと思った。

 そんな、真夏の昼下がり。


  お題『麦わら帽子』

8/11/2024, 4:27:27 PM