薄暗い夜の街を、不審な二人組が歩いている。
全身真っ黒なタイツ姿で、顔までもが覆われている。相当に不審だ。
彼らは一軒の商店の前に立ち止まると、顔を見合わせ互いに頷いた。
そして背負っていたリュックからスプレー缶を取り出し、商店の閉じられたシャッターに向け、スプレーを噴霧しようとした。
まさにその時である。
「待て! 貴様らの悪事は、セイギマンレッドであるこの俺が許さん!」
言ってきたのは、全身赤いタイツ姿の、対峙する相手同様に不審な人物だ。
「出たな! セイギマンレッドめ!」
そう言う黒ずくめに、別の人物が言った。
「この街は俺たちが守る!」
全身青ずくめの朗々とした声が響く。
「悪は裁かれねばならん……」
「悪い子にはおしおきかしらねぇ〜」
全身緑と、ピンクがそれぞれ言う。
「やってる悪事がしょぼいんよ、毎度の事だけども」
「ヤッベ、角のネパール料理屋、閉店してんじゃん」
「昨日飲み会でさぁ……。まだ酒残ってる気ぃする」
「え、電車止まってんだけど。俺、帰れねんだけど」
全身黄色、白、黄緑、オレンジ……と続く。
「誰かこの後、カラオケ行かね?」
「アマプラの退会って、どーやんの?」
「ニホンゴ、オボエマシタ! コンニチハ‼︎」
灰色、茶色、紫色と続き、その後ろにもまだ全身タイツ達が列を作って待っている。
彼らは街の治安を守る『セイギマン』と、敵対組織『悪の秘密結社』だ。
昨今の人手不足で、セイギマン側が求人を出したところ、予想以上の応募があった。それを、何を思ったのか、セイギマン本部が全員採用してしまったのだ。
「あー、そのスプレー、濡れるとすぐ落ちるっすよ」
「洗濯物、取り込んでくるの忘れたわ」
「ラーメン食いてー」
まだまだ列をなす、もう何色なのかも分からないセイギマンに、レッドはため息をついた。
「……だから、俺一人で良いって言ったんだ……」
その悲しみに満ちた呟きに、敵である黒ずくめ二人が、小声で「ドンマイ……」と励ますのだった。
お題『だから、一人でいたい。』
『死んだ魚のような目』という表現がある。
これは主に、どんよりと濁ったような目を指して言われるものだが、ここで声を大にして言いたいことがある。
鮮度の良い死んだ魚は、とても澄んだ美しい目をしているのだ‼︎
『死んだ魚のような目』をした死んだ魚は、選ぶべきではない。お買い物の際には、お心に留めておいていただきたい。
お題『澄んだ瞳』
「田んぼの様子を、見に行かねばならん……!」
農業一筋数十年の爺さんが、大荒れの窓の外を眺めながら呟いた。
家族はそれを、必死になって止めていた。
「じいちゃん、それ死亡フラグだから!」
「親父が見に行っても、こんな台風じゃ何にも出来ねぇよ! 危ねえからやめとけ!」
「いや! 俺の田んぼだ! 俺が見に行かんでどうする!」
爺さんの決意は固い。
出て行こうとする爺さんと、必死になって止める家族。
そのやり取りを黙って見ていた婆さんが、とても静かな声で言った。
「用水に流されて死んで、その後何年もネットの玩具になりたいなら行きゃあいいわ」
婆さんの一言に、爺さんはぴたっと動きを止めると、その場に静かに座り込んだ。
「すげぇ天気だな……」
「まあ、台風だしな」
日常を取り戻しつつも、家族は全員思っていた。
ネットの玩具になるのも怖いが、婆さんが一番怖い、と。
お題『嵐が来ようとも』
小さな手 引かれて回った宵祭り
今は小さな手を引きあるく
お題『お祭り』
「神様、どうか僕たちに笑いの才能をください……」
売れないお笑い芸人の青年が、必死に手を合わせていると、目の前に一人の老婆が現れた。
それは、青年が憧れた『笑いの神』そのものの姿だった。
「神様だ……!」
感激して呟いた青年に、老婆姿の神様は不思議そうな表情だ。
「神様、神様じゃないですか……!」
「あ? とんでもねぇ! あたしゃ神様だよ!」
最高の間で言った筈の神様の言葉に、青年は感激したようにおいおいと泣き出した。
笑いが取れなかった神様は、不本意そうな顔をすると、そのまますぅっと消えてしまった。
お題『神様が舞い降りてきて、こう言った。』