「田んぼの様子を、見に行かねばならん……!」
農業一筋数十年の爺さんが、大荒れの窓の外を眺めながら呟いた。
家族はそれを、必死になって止めていた。
「じいちゃん、それ死亡フラグだから!」
「親父が見に行っても、こんな台風じゃ何にも出来ねぇよ! 危ねえからやめとけ!」
「いや! 俺の田んぼだ! 俺が見に行かんでどうする!」
爺さんの決意は固い。
出て行こうとする爺さんと、必死になって止める家族。
そのやり取りを黙って見ていた婆さんが、とても静かな声で言った。
「用水に流されて死んで、その後何年もネットの玩具になりたいなら行きゃあいいわ」
婆さんの一言に、爺さんはぴたっと動きを止めると、その場に静かに座り込んだ。
「すげぇ天気だな……」
「まあ、台風だしな」
日常を取り戻しつつも、家族は全員思っていた。
ネットの玩具になるのも怖いが、婆さんが一番怖い、と。
お題『嵐が来ようとも』
7/29/2024, 3:16:39 PM