冷たさを孕んだ秋風が
鮮やかな葉を散らして
来たる冬の欠片を運ぶ
綻びた私の魂は
いつか散り散りに消え去って
其れでも
どうか最後の葉を散らすその前に
どうしても貴方に会いたい
"また会いましょう"ーーーー
そんな風に叶える気もない言葉を免罪符のように吐かれても困る。
私は知っている。この世界から離れた者の末路は二通りしかない。
一つ、離れると言いながらも覚悟を決めきれず、その内寂しくなり結局帰ってくる者。
そしてもう一つ、本当に二度と帰って来ず、その後一切の消息を断ってしまう者。
前者と後者は割合的には6:4といったところで、どちらになるかは日頃の言動などを見ていれば大抵分かる。
そして彼女はどう考えても後者だ。
彼女は寡黙であったが、いつだって全力で、いつだって本気だった。
そして、一度言い出したら聞かない人だった。
その言動に何度ふりまわされてきた事か。
ーーーー否。
今更何を考えたって仕方ない。
思えば私は彼女の何をも知り得ないのだから。
私自身がこの世界で己を偽っているように、彼女だって己を偽っていたのかもしれない。
そうーーーもしかしたら"彼女"ですら無いのかもしれないのだ。
私は空を見上げた。
夜空には零れそうな程の星々が煌めき、流星が幾つも夜を切り裂いてゆく。
透き通るように蒼い月は刃のように鋭い三日月であった。
偽りで出来た世界。偽りかもしれない自分。偽りかもしれない約束。
全く腹立たしいが、だがそれでいい。
少なくとも彼女と共にあった時間の幸せは、私にとっては正真正銘、本物であったのだから。
ーーーまた、また会いましょうーーー
届かぬ声で、私は静かに囁いた。
GR01"別れ"
もっと暴いてみせて
もっと追い詰めてみせて
もっと剥ごうとしてみせて
無味無臭のトップノートに 鉄の香りのミドルノート
狂気と愛憎のラストノートを召し上がれ
美しすぎる調和(アコード)
積み上げられた総ては天国へ至る為に
一歩踏み違えれば死が蕩けだすこのスリルが堪らない
私を追う貴方達の視線が 私を更に狂わせる
さあ 今宵ももっと頂戴
もっと もっと
背負った鉛の翼は重く、
銀色の空には 遠く、まだ遠く
とこしえを吹く風に
全てを照らす太陽に
何処までも続く大地に
幽玄なる輝きの月に
眩く散らばる星雲に
其の全てに堕ちていけたら
今は只、
飛べない翼は錆びたその身で泡沫(うたかた)の夢を見る
夕時の風に涼しさを感じるようになると、外でふと見かけるススキの花に、未だ幼かった頃の記憶をぶわり、と思い起こさせる事がある。
其れは極めて断片的な記憶だ。
実家近くの河川敷、友人と共に、辺り一面に生い茂るススキの花を掻き分け歩いている。ただそれだけである。
その時感じた風の肌寒さと、ザーザーという川の鳴り止まぬ音。それらの得も言われぬ寂しさが、目も眩むような夕陽に照らされ黄金に染まるススキ畑の儚く幻想的な美しさと対比され、その一瞬だけが切り取られたフィルムのように、記憶の残渣として留まり続けている。
秋の黄昏の寂しさが、あの日幼いながらに感じた「嗚呼、この瞬間はもう二度と戻っては来ないのだな」という事実を、その後も何度も思い起こさせた。
瞬時に過ぎ去る秋の季節と人生の一瞬一瞬は似ている。
閃光の如く一瞬で過ぎ去り、儚い。
だからこそ其の時々は例えようもなく美しい、と秋風に揺れるススキの花を見る度思うのである。