夕時の風に涼しさを感じるようになると、外でふと見かけるススキの花に、未だ幼かった頃の記憶をぶわり、と思い起こさせる事がある。
其れは極めて断片的な記憶だ。
実家近くの河川敷、友人と共に、辺り一面に生い茂るススキの花を掻き分け歩いている。ただそれだけである。
その時感じた風の肌寒さと、ザーザーという川の鳴り止まぬ音。それらの得も言われぬ寂しさが、目も眩むような夕陽に照らされ黄金に染まるススキ畑の儚く幻想的な美しさと対比され、その一瞬だけが切り取られたフィルムのように、記憶の残渣として留まり続けている。
秋の黄昏の寂しさが、あの日幼いながらに感じた「嗚呼、この瞬間はもう二度と戻っては来ないのだな」という事実を、その後も何度も思い起こさせた。
瞬時に過ぎ去る秋の季節と人生の一瞬一瞬は似ている。
閃光の如く一瞬で過ぎ去り、儚い。
だからこそ其の時々は例えようもなく美しい、と秋風に揺れるススキの花を見る度思うのである。
11/10/2024, 12:00:58 PM