#特別な存在
貴方は、特別だ。
命なんて、差し出す価値があると思えるほどに。
昔から、人に興味がなかった。
名前も、誕生日も、顔すらも、気づけば抜け落ちていく。
どうせこの性質は、死ぬまで変わらないのだろうと、
どこかで諦めていた。
なのに、貴方だけは違った。
名前を覚えた。
声を覚えた。
指先の癖や、ふとした視線の流れまで、やけに鮮明に残る。
仕草も、匂いも、思考も。
貴方を構成するすべてが、気になって仕方がない。
いっそこの命を、丸ごと使い切ってしまえたなら。
貴方のために消費できるなら、
それはきっと、最も正しくて、美しい終焉り方だ。
――それなのに。
同時に思う。
壊してしまいたい、と。
貴方の形を崩して、
綺麗な部分も、醜い部分も、全部暴いて、
抵抗できないところまで堕としてやりたい。
そうして初めて、完全に手に入る気がするから。
ここまで狂わせるのは、
やはり貴方が特別な存在だからだ。
#バカみたい
もし来世があるならさ、今よりもう少しだけ
気楽な関係で巡り逢えたらいいな。
貴方の前にいると、変に詰め込んだ知識とか、
考えすぎる癖とか、そういうの全部が邪魔で仕方ない。
本当はもっと単純に笑えたはずなのに。
どうでもいい話で笑って、
くだらないことで時間を潰して、
その一つひとつを、ちゃんと楽しいって思えたら良かった。
きっとさ、そういう関係って脆くて、
何かひとつ間違えれば簡単に崩れてしまうんだろうけど。
でも、その「バカみたい」の中にいる間くらいは、
こんな風に悩んだりしなくて済んだんだと思う。
だから、約束しよう。
来世では何も決めないまま、ふらっとどこか行こう。
計画とか理由とか、そういうの全部置いて。
ただバカみたいに笑って、それだけで終わる旅をしよう。
#夢が醒める前に
夢はいつか、必ず醒めてしまうものだから。
どれだけ強く願っても、どれだけ長く縋っても、
朝は無慈悲にやって来て、貴方の残像すら攫っていく。
だからせめて、まだ夜が続いている間だけは。
目の前からいなくなってしまった貴方の温もりを、
指先の奥に閉じ込めていたい。
触れたはずの体温も、囁いた声も、全部が幻だとしても構わない。
思い出すことでしか、貴方を感じられないのなら
——何度でも、何度でも思い出す。
あぁ、どうか消えないで。
現実がどれだけ正しくても、
ここで貴方が笑っているなら、それでいい。
貴方のいない朝なんて、正しさの押し付けにしか思えないから。
叶わないと知っている夢ほど、
甘くて、優しくて、残酷だ。
溺れているとわかっていても、息苦しさすら愛おしい。
このまま沈んでいけたら、どれだけ楽だろう。
だからお願い。
醒めるその瞬間まででいい。
どうか、もう少しだけ——
叶わぬこの夢に、溺れさせて。
#胸が高鳴る
稲妻みたいだった、なんて言葉じゃ足りない。
気づいた時にはもう遅かった。
貴方を見た瞬間、他の全部がどうでもよくなっていた。
世界のピントが合わない 。
うるさいくらいに鳴る心臓が、勝手に意味を持ち始める。
これが「始まり」だなんて、認めたくないのに。
一瞬だった。
言い訳も、逃げ場も、何も用意されていない一瞬で。
完全に、貴方に囚われた。
神頼みなんて柄じゃない。
それでも、もし聞く気があるなら。
せめてあの人と、
「何も無い他人」で終わる結末だけは、奪ってほしい。
#不条理
俺なりに整えてきたつもりだった。
体型も、服も、髪も。
ようやく、隣に立てるようになったと思ったのに。
お前の視線は、簡単にあの人の方へ滑っていく。
別に、責めるつもりはない。
そういうものなんだろうと、どこかで分かっている。
ただ、それでも――
この噛み合わなさを、なんと呼べばいいのか分からない。
触れ方を間違える。
言葉も、距離も、きっと全部。
正しさなんて最初から知らないまま、
俺はお前を傷つける。
お前も思ってるんだろう。
面倒で、歪で、どうしようもないやつだって。
……ごめん。
この感情は、どうやっても濁る。
綺麗にしようとしても、手の中で崩れる。
世界はちゃんと出来てるのに、
俺だけが、どこにも合ってないみたいだ。
そのズレごと、全部、
いっそ嫌いになれたら楽なのに。