しそわかめ

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5/27/2024, 1:39:33 PM

天国と地獄

「伊波!」
空から声が響く。聞き慣れたその声に顔を上げて、そのまま彼と入れ替わるように飛び上がった。
「…抜刀。」
静かに、一閃。その一筋は少し離れたところにいる黒い物体二まで全く威力を落とすことなく届いて、やがて真っ二つに切り裂いた。塵のように風に流れるその姿を見届けて、スタッと軽い音を立てて着地する。長い髪が風に靡いた。
「お前さ、」
「何?」
ロウの後ろに着地して、そのまま座り込んでいる自分に目を向けることなく彼が声をかけてくる。
「…やっぱいい。」
周辺確認行ってくる。そう言って見捨てるように立ち去るのに。右手は無線に伸びているし、ほぼ同時に医療班の到着についての報告が来た。素直じゃないというか、なんというか。
「ごめん」
誰にいうわけでもなく、ポツリとつぶやいた。でもきっと、耳のいい彼には届いているだろう。

何かを守るために何かを犠牲にする。それが美学だと思っていた時期があった。それこそがヒーローのあり方だと、存在意義だと確かに信じていた。
でもきっと、彼のような優しい人が涙を流すのだろう。そう思ったら、自己犠牲が美しいなんて言ってられなくなった。誰かが泣くなら、それは救えていることにはならないだろ。

だから生きることにした。それが地獄の様に苦しい道のりで、とても苦しいことだとわかっていても。
死ぬことは簡単だ。正義を免罪符にするのであれば、尚更。
天国はとうに捨てたのだ。これまで浸かっていたぬるま湯から足を洗って、地獄の熱湯に移動する時が来た。ただ、それだけ。

伊波は全てを救いたかった。この手に抱えられるものの全て。善も悪も、他人も友人も、ここに生きているもの全て。

5/27/2024, 3:37:01 AM

月に願いを

夜が好き。人々が寝静まる、なんてことがないのはもう知っているけれど、でも大半の人はすでに夢の中で、誰かの記憶に残る可能性は昼間に比べたら圧倒的に少ない。それはなんとも快適で昔と違って今はそんなことに懸念しなくたっていいのに、無意識にそれを前提として動いている。最近はもう割り切って諦めているけれど。俺はただ、きっとその空気感とかもっと些細なことが理由で夜が好きなんだ、と。

5/23/2024, 12:57:11 AM

また明日。

最終コマが終わった、19時13分。今日は朝から怒涛の5コマ連続で、流石に疲れを自覚していた。
「いや〜、流石に面談入れんのマズったなぁ」
「ほんと、俺も気をつけよ。流石にしんどい笑」
そんじゃなくても小テストにプレゼンの発表回まで今日だったのだ。本当に頑張ったと思う。
「あー、甘い物食べたい。」
「わかる。例えば?」
「例えば…、生クリーム。」
「単体かよ。シュークリームでも買ってこうぜ」
「お、いいね。」

そのまま駅に向かって、シュークリームを買って。
近くのベンチに座って、喋りながら味わった。
「じゃ、またな!」
「おう、また明日。」

そんな平和な、晴れた夜。
きっと明日も楽しい、ね。

5/10/2024, 2:07:51 PM

モンシロチョウ

Cafe Zeffiroの店先には、ちょっとした花壇がある。定番のマリーゴールドから、ボリュームのあるユーフォルビア、朝顔のような花をつけるペチュニア、ちいさな薔薇のようなカリブラコア、料理に使えるローズマリー、バジル、ラベンダー。
春先から初秋まで、色とりどりの花々が、Cafeで安らかなひとときを求める人々の目を楽しませている。

「奏斗〜、土どこしまったん?」
「セラフが知ってる〜」
「後ろだな、持ってくるか」
カフェがお休みの、とある昼下がり。目に新しいエプロンをつけて、軍手をして、小さなスコップを握って。セラフと雲雀のふたりは、せっせと庭いじりをしていた。

やはりこれだけの量だ。流石に全くお手入れをしない、というわけにもいかず、とは言え雲雀ひとりで作業するには余りにも膨大だ、ということで、セラフに協力を仰いだ次第である。
四季凪と風楽はそれを傍目に見ながら、テラス席で書類仕事に追われている。

「あ、モンシロチョウ。」
暖かな陽気、それを囲む親しい友人。
まるで平和の象徴と言わんばかりに、真っ白なモンシロチョウが空を駆けていった。

今日の夕食はみんなでイタリアンパーティ。でっかいビザでも食べよう。そう思いながら、セラフは手を動かしていた。

5/9/2024, 8:23:39 AM

一年後

「セラ夫、今日は早めに事務所に戻ってきてくださいね。」
昨日の大雨強風はどこへやら。今日は眩い青が煌めき、雲もひとつとない。最早恨めしい程の快晴である。
今日も今日とて迷い猫を探しに、さぁ街へ繰り出そうと扉を開けたところで、なぎちゃんが不意に呼び止めた。
「事務所じゃなくてゼフィロ直帰でもいいです。」
そこは任せるので連絡だけください、いつも通り。そう言いながら、猫の書類をまとめている。
「…なんかあったっけ?今日。」
「え?…まぁ、はい。」
「ふーん?、…?」
「別に忘れてるならそれで大丈夫ですよ。」
むしろ面白くなる。そう顔で語りながら、なぎちゃんがさぞ面白いというように微笑んだ。
「まぁいいや。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
事務所のちょっと重めの扉を押して、ちょっともやもやを抱えながら。迷子の子猫に想いを馳せた。

「…ちょっと遅くなっちゃったな。」
あれから、目的の猫はすぐに見つかった。…見つかりはしたのだか。なぜか異様に逃げられるわ、逃げた先が交通量がとても多い大通りで肝を冷やすわ、あーだ、こーだ。
そんなんでいつもより少し心をすり減らし、無事猫を依頼先に届け、今に至る。
既に日は傾いて、橙色の先に濃紺が顔を覗かせていた。
これは、ちょっとだけ怒られそう。
怒るというか、心配をかけるというか。3人して心配だ、という顔を惜しげも無く体現して、こちらが顔を覗かせた瞬間にぱぁっと安心した!!と顔に出るのだ。少しだけ、なけなしの良心が痛んだり、痛まなかったり。
そんなこんなで、とても遠い道のりに感じた帰路を抜け、見慣れたゼフィロの扉の前に立った。明かりもついているし、何やら騒がしい気配もする。…帰ってきたなぁ、なんて。

「…たーだいまぁ〜」
声と共に、ぱぁぁん!!!と軽い、火薬の音。その音が余りに軽いから、特段身構えることもせずに音の発生源を目で探る。
…奏斗、ひば。それからなぎちゃんの手元。
それは拳銃でもなんでもなく、ごく普通の、市販のクラッカー。
「…なに?おめでたい日?」
その呟きに被せるように、3人の笑い声が響きわたる。
「ははは、何って!」
「ねぇ、アキラ!!」
「ふふ、ほんとに、、ねぇ」

「「「誕生日、おめでとう!」」」

『今日の主役』の襷と、謎のパーティサングラスと、テーブルいっぱいのご飯と。
「そういや、そうだなぁ。」
そういや今日は、5月の某日。久しく祝われることなんてなかった、それ故にほとんど意識していなかった、自身の誕生日。
「ほら!なにぼーっとしてんですか!」
「もうお腹すいてんのぉ!お前が帰ってこないから!!」
「はよ食べるかー!ほら、セラお!!」
「へへ、…うん。食べるかぁ!」
これからまた1年。vltでの、日々が始まる。

また来年もこんな時間が流れればいいなぁ、なんて思いながら、促されるままに席についた。

Happybirthday. 5.12.

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