もんぷ

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12/16/2025, 3:41:37 AM

明日への光

 忙しなくて息苦しい日常での唯一の光は、年末の夜だけ。炬燵布団が嵩張るからと暖房がついたカーペットに買い換えようとするあの子に必死に言葉を並べて、今年もその処分を見送らせた。だって、あれが無ければソファに背中を預けてコタツに入ってテレビを見るという口実のもと、肘があたる距離感で何とも言えない会話を交わすだけのあの至福の時間がなくなってしまうではないか。0時を回った瞬間に盛り上がりを迎えるTVの音を遠くに聴きながら、ほとんど空になった缶を合わせておめでとうと言い合うだけのあの数分に、一年分の幸せが詰まっているのだ。これだけで直視したくはないタスクの溜まった明日も明後日も生きていけるって、全く知らないだろう。

 あの子が引越ししたてに強引に取り付けた、年越しをここで過ごす約束。今年も何時に着くという確定事項だけメッセージで送りつけ、今年も拒否されなかったということに安堵してお土産の蕎麦と争奪戦寸前の新幹線の座席を予約する。大好きな恋人のように、久々の来訪を手放しで迎えてくれるような距離感ではないし、家族のように帰ってくるのが当たり前だという雰囲気だってない。手土産のちょっと良い蕎麦に少しだけ機嫌を良くして玄関を通してくれるだけの即時的なもの。来年も一緒に過ごしてくれるという確約が無いことに不安を覚えつつも、友人が板についてしまったせいで進めることができなくなったこの距離感を、それでも手放したくない大晦日の夜を、あの子はあと何年許してくれるのだろうか。

 ベルト、ハンカチ、腕時計……置いて帰ってもうっかりで済みそうな、かつ勝手に捨てるには少し躊躇わせるような小物たち。定期的に忘れて帰るのがわざとだって気づいていないだろう。大晦日以外も自分の存在を思い出してほしくて、何度も訪れる理由にしたくて、でもそれを直接は言えなくて。いつまでこんなまわりくどいことをしてるのだろうと自分でも思う。だけど、自分専用だと信じたい来客用の布団に身を委ねて、真っ暗な部屋であの子のすやすやとした息を聞きながら眠りにつく何よりも愛おしい夜を手放す気はさらさら無い。

12/15/2025, 2:35:42 AM

星になる

 目を瞑ると、眩しかったあの頃のことを思い出す。とても綺麗で、愛おしくて、純粋だったあの頃は、もう戻らないからこそ尚更眩く輝く。現実を直視せずに浮かび上がってくる思考の断片は、あの時のことをいつでも鮮明に浮かび上がらせる。もう卒業して久しいのに授業中に寝ていて怒られる夢を見るだとか、一緒に帰った道の全く盛り上がらない面映い空気を頭に描くだとか、そういうの。もう何をしたって戻ってこない数々は自分の中で星となり、何がどうなるか分からない未来に足がすくんだ時の光となる。ただ、そんな星にずっと縋り付いてもいられない。鮮明に目に見えても掴むことはできないそれは、眩しすぎて長時間直視できないそれは、今を生きる自分にとっての足枷となることもあるのだから。星を望んで、囚われて、いつまでも執着ばかりしていれば、うっかり自分が星となってしまう。どうせいつしか星になるなら、まだもっともっとこれからの未来に星を増やしていけるかもしれない。そんな淡い期待を持って今日も目を閉じる。紛れもなく自分の星となったあの人の眩しい顔を想像しながら、そっと暗闇に意識を手放した。

12/5/2025, 10:16:01 AM

きらめく街並み

 12月になってから2桁指折り数えるようになると、街は次第に赤と黄色の光を灯し出す。ベルの音が混じったオルゴールがBGMとして流れ出したのが聴こえる。大きくついたため息は自分のマフラーにのみ吸収されて2人1組で浮き足立って歩く人達には決して聞こえない。
 クリスマスはただの日だと声を大にして言えるようになったのは、デートやら何やらで休めない方が多数派の社会人になってからのことだった。そもそもその年末のイベントを楽しみにしていたのは、フィンランドからやってくる髭のおじいさんを信じていたあの頃ぐらいまでのことだったなぁとぼんやりと思う。
 経済面では現実的なプレゼントをくれる幻想的なおじいさんも、ある程度の値段のものをお互いに渡し合うような相手のどちらもいない自分は、一人寂しくネットで自分へのプレゼントを買う。ちょっと良い財布。自分の懐は寒いが、その懐自体も温めてくれそうなそのブツが届く時間帯までには家に帰ろうと決めて歩みを速める。
 もう冷蔵庫には何も無いからスーパーに寄らなきゃ、帰ったらあのメール返さなきゃ、明日の資料はどうだっけ、足よりもよく働く頭を労わりつつ、寒さに身体を縮こまらせる。仕事に必要な構想を頭の中で組み立てている間に、そういえばあまり寝ていなかったぞと思い出したようにあくびが襲いかかってきた。潤んだ目に、イルミネーションがきらめく街並みが眩しい。この光を何年も過ぎた先に、いつか自分も誰かに欲しいものをあげて、もらって、幻想的なおじいさんに進化する時は来るのだろうか。来ないような気もするが、まぁそれはその時だから。今は消費電力の計算はせずに純粋にその景色を綺麗と笑い合える人が欲しい…なんて、今はもう姿を現さなくなった赤い制服の人を思い浮かべて、控えめなお願いをしつつ、真っ暗な家の扉を開けた。

12/4/2025, 10:50:29 AM

秘密の手紙

 人には言えない秘密が増えていくたびに、小学校から使い続けた勉強机の中で、唯一鍵をかけることのできる引き出しが悲鳴をあげた。主にその引き出しの大部分を占める紙類にため息をつきつつ捨ててしまうこともできずに軋む音を無視して無理やり鍵をかけた。
 このデジタル化が進む時代になんで手書きなのかとあの子に問うと、「LINEなら送るのも消してしまうのも一瞬だけど、手紙なら書くのも捨てるのにも躊躇ってくれるでしょう」と綺麗な笑顔を見せた。確かに、自分の引き出しに溜まる愛の言葉を見るたびにどこかむず痒くなりつつも、捨てることはできずに今日も溜まり続けるのだった。
 会う度にお互いに渡すと取り決めた手紙に今日は何を書こうかと思案する。前に会ったのから、1ヶ月。特に大学の方も変わりはなく、バイトもぼちぼちといったところ。ぼーっと頬杖をついて窓を眺めて何も無いふりをしていても、頭の中はあの子でいっぱいだ。きっとこうなるのを見越して手紙の約束をしてきたのだろう。してやったりと悪く笑う顔を想像してはまたため息をついた。いつもあの子の手のひらの上で踊るしかない自分は腹いせにペンを手中で遊ばせた。
 「好き!!!!」「愛してる!!!!!」
勢いの良いあの子は!マークの分だけ気持ちを軽くしているということを自分は知っている。なんだかんだ長い付き合いなのだから。そんな躊躇いのない愛情表現に対して苛立ちが募った。なぁ、なんでそんなこと書けんだよ。この引き出しだけ見た人は仲の良いカップルだなぁと思ってくれるだろうか。いや、誰にも見せないために鍵をかけているのだけれど。

「本当に好きなら、愛してるなら、あいつと別れてから俺のとこに来てよ」
いつも渡せずにいたその文字を書き殴っては、また便箋をぐしゃぐしゃにしてゴミ箱に捨てる。いつもそうだ。自分の感情を掻き乱して、楽しそうにして帰っていくあの子はただ遊んでいるだけだ。自分の気持ちを知りながら、共犯にしておいて、甘い言葉と態度を見せて決して離してはくれない。きっとこの紙を本当に渡したとしても、笑いながらゴミ箱に突っ込まれるだけだろうから、昨日食べた夕飯の内容だけを書いて渡す。何の意味があるんだろう。いつ終わってしまうんだろう。あの子には帰る場所があって、愛を持って迎えてくれる人がいて、その家に帰る道中で平気で自分の手紙を捨てて帰ってるのだろう。どうせ、届かないのなら何を書いても一緒だ。シャー芯と自分の心だけすり減らす手紙交換は、今日もいつもの部屋で内密に行われた。

11/17/2025, 1:56:19 PM

冬へ

 さむっ。頭の大半を占めるその言葉をひとりでに呟きながらクローゼットを開ける。目についた一番分厚いパーカーを羽織って、風を通さないジャンパー、頭も寒いからキャップでいっか、あとはマ……あれ?どっかに紛れたかと思って服が入った棚やらなんやらひっくり返したけど見つからない。今季は初めて使うから無くしたとしたら2月あたり?もう既に半年以上経過しているその前回を思い出せる訳もなく、時間もなかったからとりあえず急いで外に出た。さむい…思わず首を無くすように体を縮こませる。まだ息は白まないけど全然寒い。去年の今頃はもうちょい暖かかったはずなんだけど…とか思いながら遅れ気味なので少し早歩きで場所に向かう。人混みの中をかきわけ、いつもの駅の隣のコンビニの前に着くと、待たせていたその人が立っていた。自分が遅くなった原因であり、道中で恋焦がれていた探し物を巻いて。
「ねぇー!朝からそれ探して遅くなったんだけど。」
「それより遅くなったら言うことあるやろ?」
「…ごめんなさい。でもそれあったらもっと早く着いてたんだよ?!」
「だって前家出る時言ったって。借りるでって。寝ぼけてたんちゃうん?」
言われてみれば、前にあっちが先に家を出る時、何かクローゼットを漁って物を借りると言われた気がする。いつも上着やらなんやら借りて行ったり残していったりと気ままに過ごすのを咎めてはいなかったがこんなところで仇になるとは。マフラー借りてくのはずるいじゃん。こっから寒くなるのに。しかし、許可してしまった手前悪いのは全て自分だ。不服だが受け入れてデートに戻ろうとすると、首に急に優しい感覚。
「返すわ。」
なんて軽い言い草で首にぐるぐる巻かれる。さっきまであんなに求めていたはずの温もりだけどなんだか恥ずかしくなった。自分では無い良い匂いに包まれて顔は真っ赤っか。そして、それを笑われるのがいつもの流れ。借りた服もなんだか着づらくて結局あっちの私物となってしまうのもいつものこと。あぁ、いつもの冬が始まった。

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