冬へ
さむっ。頭の大半を占めるその言葉をひとりでに呟きながらクローゼットを開ける。目についた一番分厚いパーカーを羽織って、風を通さないジャンパー、頭も寒いからキャップでいっか、あとはマ……あれ?どっかに紛れたかと思って服が入った棚やらなんやらひっくり返したけど見つからない。今季は初めて使うから無くしたとしたら2月あたり?もう既に半年以上経過しているその前回を思い出せる訳もなく、時間もなかったからとりあえず急いで外に出た。さむい…思わず首を無くすように体を縮こませる。まだ息は白まないけど全然寒い。去年の今頃はもうちょい暖かかったはずなんだけど…とか思いながら遅れ気味なので少し早歩きで場所に向かう。人混みの中をかきわけ、いつもの駅の隣のコンビニの前に着くと、待たせていたその人が立っていた。自分が遅くなった原因であり、道中で恋焦がれていた探し物を巻いて。
「ねぇー!朝からそれ探して遅くなったんだけど。」
「それより遅くなったら言うことあるやろ?」
「…ごめんなさい。でもそれあったらもっと早く着いてたんだよ?!」
「だって前家出る時言ったって。借りるでって。寝ぼけてたんちゃうん?」
言われてみれば、前にあっちが先に家を出る時、何かクローゼットを漁って物を借りると言われた気がする。いつも上着やらなんやら借りて行ったり残していったりと気ままに過ごすのを咎めてはいなかったがこんなところで仇になるとは。マフラー借りてくのはずるいじゃん。こっから寒くなるのに。しかし、許可してしまった手前悪いのは全て自分だ。不服だが受け入れてデートに戻ろうとすると、首に急に優しい感覚。
「返すわ。」
なんて軽い言い草で首にぐるぐる巻かれる。さっきまであんなに求めていたはずの温もりだけどなんだか恥ずかしくなった。自分では無い良い匂いに包まれて顔は真っ赤っか。そして、それを笑われるのがいつもの流れ。借りた服もなんだか着づらくて結局あっちの私物となってしまうのもいつものこと。いつもの冬が始まった。
11/17/2025, 1:56:19 PM