明日への光
忙しなくて息苦しい日常での唯一の光は、年末の夜だけ。炬燵布団が嵩張るからと暖房がついたカーペットに買い換えようとするあの子に必死に言葉を並べて、今年もその処分を見送らせた。だって、あれが無ければソファに背中を預けてコタツに入ってテレビを見るという口実のもと、肘があたる距離感で何とも言えない会話を交わすだけのあの至福の時間がなくなってしまうではないか。0時を回った瞬間に盛り上がりを迎えるTVの音を遠くに聴きながら、ほとんど空になった缶を合わせておめでとうと言い合うだけのあの数分に、一年分の幸せが詰まっているのだ。これだけで直視したくはないタスクの溜まった明日も明後日も生きていけるって、全く知らないだろう。
あの子が引越ししたてに強引に取り付けた、年越しをここで過ごす約束。今年も何時に着くという確定事項だけメッセージで送りつけ、今年も拒否されなかったということに安堵してお土産の蕎麦と争奪戦寸前の新幹線の座席を予約する。大好きな恋人のように、久々の来訪を手放しで迎えてくれるような距離感ではないし、家族のように帰ってくるのが当たり前だという雰囲気だってない。手土産のちょっと良い蕎麦に少しだけ機嫌を良くして玄関を通してくれるだけの即時的なもの。来年も一緒に過ごしてくれるという確約が無いことに不安を覚えつつも、友人が板についてしまったせいで進めることができなくなったこの距離感を、それでも手放したくない大晦日の夜を、あの子はあと何年許してくれるのだろうか。
ベルト、ハンカチ、腕時計……置いて帰ってもうっかりで済みそうな、かつ勝手に捨てるには少し躊躇わせるような小物たち。定期的に忘れて帰るのがわざとだって気づいていないだろう。大晦日以外も自分の存在を思い出してほしくて、何度も訪れる理由にしたくて、でもそれを直接は言えなくて。いつまでこんなまわりくどいことをしてるのだろうと自分でも思う。だけど、自分専用だと信じたい来客用の布団に身を委ねて、真っ暗な部屋であの子のすやすやとした息を聞きながら眠りにつく何よりも愛おしい夜を手放す気はさらさら無い。
12/16/2025, 3:41:37 AM