もんぷ

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10/11/2025, 7:51:20 AM

一輪のコスモス

 コスモスを入荷したから、入ってきて一番目立つ場所に置いた。秋の桜と書くコスモスはこの時期本当に人気で、特にピンクのコスモスはよく売れる。買っていく人のうちで花言葉を知っている人は、どれだけの割合なのか気になるところだが。まぁ知らない方が良いことだってある。花を買っていく人に用途や渡す人について尋ねたりはするものの、おせっかいなことだってあるし。
 午前のお客さんが捌けて行った頃、ひょっこりと川崎さんが顔を出した。俺と同じぐらいの年齢の常連さん。特別花に詳しいとかマニアということでは無いらしいが、一年ほど前から週に一回は必ず顔を出すように頻繁に通い続けてくれている。
「川崎さん、いらっしゃいませ。」
花屋に来る人にしては派手な髪色といかつめのジャケットにシルバーアクセサリー。最初見た時は派手そうだし作った花束とかクレームつけてこないかなとか失礼なこと思っていたけど、最近になって自分もそういう系統が好きだということに気づいた。別に川崎さんの影響とかではないけど、と誰に聞かれるでもなく強がってみる。
 あ、持っているカバンも、ちょっと気になってたブランドのやつだ。うわー、話したい。それ良いですよね。よく行くんですか。てか、そこのショッピングモールに今度その店できますよね。楽しみですね。一緒に行きませんか。その一から百まで全て声を出すことはなく、今日もにっこりと笑って「ごゆっくり」と声をかけるだけ。仲良くなりたい、は自分の欲だ。ただの「よく行く花屋の店員と常連」の関係から踏み出したいのが自分だけだったらどうする。彼が来ないバイトは時間が経つのが遅いんだよ。あぁ。彼が求めているのは花であって自分でないことは分かっている。だから他と変わらないように、でもちょっとポイントカードに記載された名前を覚えて呼んでみたりして。いつもありがとうございます、なんて感謝をしても彼ははにかむだけ。距離が近すぎる接客は苦手なんだろうなと判断して、ちょうど良い距離感を探っていた頃、たまたま叔父である店長とシフトが被った時のこと。
「あ!川崎さん。いらっしゃいませ。あ、今日3限終わりの日か。あれ、サークル行かなかったの?」
「はい。今日無くなっちゃって。」
「あーそうなんだ。残念だね。」
そう言いながら楽しそうに微笑んでは軽い会話を楽しんでいた。はぁ?なんでそんな仲良さげなわけ?叔父さんは確かに社交的な方だし接客業向いてるのは知ってたけど、川崎さんは違うじゃん。そういうの苦手そうだったじゃん。なんでそんな気軽に会話してんの。楽しそうにしてんの。俺の方がもっと色んな話できるのに。その日はムッとして裏に事務作業しに入ってしまった。あの日以来会うのが今日が初めてでなんか気まずい。隅の方でこそこそと花を手入れしていたら、ふと川崎さんの声が響く。
「…あの。これ、前無かったですよね。」
ゴツゴツしたリングがついた指はしっかりと今日入荷されたコスモスをさしている。
「…はい。今日入荷されたんです。毎年この時期は人気で。今年もとても綺麗に咲いたんです。」
話しかけられたことが嬉しくてついたくさん話しすぎてしまった。あ、やばいかもと思ったけど彼は穏やかにそうなんですねと頷いていた。
「コスモス、誕生花なんで嬉しいです。一輪いただけますか。」
「はい、もちろん。」
これから、少しずつでいい。少しずつでいいから、そうやって新しいことが知れて、楽しく会話できたらそれでいい。焦らずに、機を狙おう。一輪のコスモスは美しく咲いていた。

10/9/2025, 11:06:46 PM

秋恋

「春は出会いの季節だから恋の季節って言うじゃん?夏は花火とかお祭りとかそういうワイワイ感ある浮き足立つ恋の季節じゃん?冬なんてクリスマスあるし人肌恋しい時期なんだから一番恋の季節じゃん?

 でさ、そう考えたら、秋だけ何もない一番安心できる季節だなーって思ってたんだけどさ。まさか相手がいない人同士でクリスマス遊ぼって言ってた計画が白紙になるぐらいみんな一気に付き合い出したじゃん?あれ、本当になに?いいもん。ハロウィンで小悪魔の格好して一人でカボチャ系のスイーツ頬張るし。それでその格好インスタにあげてやるからマジで誰か声かけてこいよ。こんなかわいい女一人にすんなよ!クリスマスまでには人並みに恋愛させてよ!……なんていう人が増えるから秋は恋の季節って知ってた?」

「知らない。てかそれが本当ならクリスマスのある冬に向けた行動ってことでしょ。他の季節から準備始めるくらいだから、やっぱり冬が一番恋の季節じゃん。」
「いや、春の方が…」
「や、やっぱり夏もさ…」

やはりディベートは若干劣勢だ。

10/9/2025, 10:01:42 AM

愛する、それ故に

 愛する、それ故に。あまりにも下手な嘘さえ、信じたくなる。

10/8/2025, 7:53:44 AM

静寂の中心で

 早朝は音も無く、とても静か。明るくなりきらない外は雨も降らずにただ暗いだけ。まだきっと草木も鳥も眠っている頃だろう。ふと目を開けると、左隣にはいたはずの人がいない。思考が働かない脳をそのままに上半身だけ起こす。都会のど真ん中の高層マンション。きっとこの周りには相当な数の人がいるはずなのに、ここまで静かなのはまだ人間が活動する時間では無いからだ。ぼーっと虚空を眺めていると、音も無くドアが開いた。

 こちらが起きていることに少し驚いた顔を見せたその人は、吸い込まれるように自分の左隣に落ち着き、優しく頭を撫でてくる。会話は無くとも、まだ寝てて良いからという彼なりの優しさだろう。顔を寄せ、額をつける。甘えるようなその自分の仕草に彼は柔く笑う。おはようもおやすみも無い。ただいまもいってきますも無い。ただ、好きがあるだけ。それだけで彼はここに帰ってくるし、自分もここに帰ってくる。その好きが無くならないように、まだ残っているかを確認しながら今日も肩を寄せる。静寂の中心で、確かにあるはずのものを何度も分かち合いながら、朝が始まる。

10/7/2025, 3:27:00 AM

燃える葉

 小学校四年生の時、林間学校で落ち葉を燃やしてさつまいもを焼いた。熱を持ったアルミホイルから取り出したそれはとてもおいしくて、すぐにペロリと平らげた。すると隣に座っていたその子だけはさつまいもに手をつけず、じっとこちらを見ていた。食べ終わってほくほくした顔の自分と目が合う。いる?と差し出されて迷わずいいの?!と貰う。遠慮なんて知らずにがぶがぶとおいもを食しているとその子が笑った。訳もわからず自分も笑い、そこからキャンプファイヤーが始まってみんなで輪になって手を繋ぐ。その子の手は自分の手と違って冷たかった。やっぱり食べて良かったのかななんて今更不安になってその子の顔を覗き込むと、いも嫌いだから食べてくれてありがとうとそれは爽やかに微笑まれた。多分、それが初恋。

「でさ、その時のあの顔にやられたの!」
「なあもっとマシなタイミング無いわけ?もっと早くからアプローチしてたんだけど?」
そう不満気に声を出す彼の左手には度数の弱いお酒、右手にはおつまみの芋けんぴ。あ、別においも嫌いじゃないんじゃん。そう気づいてしまえば、アルコールのせいで赤くなっていた自分の顔により熱が籠ったような気がした。今年も葉が燃える季節がやって来た。あの頃と一つだけ違うのは、繋いだ手の熱さが彼も同じということだけ。

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