もんぷ

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10/7/2025, 3:27:00 AM

燃える葉

 小学校四年生の時、林間学校で落ち葉を燃やしてさつまいもを焼いた。熱を持ったアルミホイルから取り出したそれはとてもおいしくて、すぐにペロリと平らげた。すると隣に座っていたその子だけはさつまいもに手をつけず、じっとこちらを見ていた。食べ終わってほくほくした顔の自分と目が合う。いる?と差し出されて迷わずいいの?!と貰う。遠慮なんて知らずにがぶがぶとおいもを食しているとその子が笑った。訳もわからず自分も笑い、そこからキャンプファイヤーが始まってみんなで輪になって手を繋ぐ。その子の手は自分の手と違って冷たかった。やっぱり食べて良かったのかななんて今更不安になってその子の顔を覗き込むと、いも嫌いだから食べてくれてありがとうとそれは爽やかに微笑まれた。多分、それが初恋。

「でさ、その時のあの顔にやられたの!」
「なあもっとマシなタイミング無いわけ?もっと早くからアプローチしてたんだけど?」
そう不満気に声を出す彼の左手には度数の弱いお酒、右手にはおつまみの芋けんぴ。あ、別においも嫌いじゃないんじゃん。そう気づいてしまえば、アルコールのせいで赤くなっていた自分の顔により熱が籠ったような気がした。今年も葉が燃える季節がやって来た。あの頃と一つだけ違うのは、繋いだ手の熱さが彼も同じということだけ。

10/6/2025, 9:42:37 AM

moonlight

「ねぇ、お団子買おうよ。」
「いいけどなんで?」
 日曜日はスーパーに行く日。別にそういうルールって決めたわけじゃないけど、平日は二人とも忙しいし、金曜の仕事終わりに行けばいいっちゃいいけど、二人とも疲れ過ぎてて即家帰って寝る生活が続いていたから自然と日曜に行ってまとめ買いすることが増えていた。甘いものは二人ともそんな好んで食べる方ではないけど、お団子はまぁ嫌いではない。けどまさか食べたいだなんて言い出すとは思わなかった。
「明日中秋の名月だよ。」
「…あー、お月見ね。忘れてたわ。」
少し反応が遅れたが、なんとか頭の変換機能をフル活用させて正しい答えを弾き出せた。そう、この人の生活能力の無い普段の自堕落な生活を見ていたら、自分の方がしっかりしていると思ってしまっていた。しかし、学力やら地頭の良さやらで言ったら到底敵わないのだ。こういうふとした瞬間にそれを痛感させられて辛い。あー、俺も頑張らなきゃなって思う。だけど、全く違う学生生活を送ってきただろうけど、今の自分だからこそこの人に会えたと思うと嬉しい。


「…あーつかれた」
掠れた声はひとりでに出て、あぁまだあの人が来てなくてよかったと思った。
「お待たせ。」
いつもの綺麗な顔に少しだけ疲労の表情を浮かべたその人と合流して家までの道を歩く。何気ない言葉を一つ二つと交わしながら、ほとんど無言だけど心地良い。もうすぐマンションに着くと言ったところで、ふと横の人がつぶやいた。
「見て。お月様綺麗だよ。」
「あー、ほんとだ。」
月でか。いつもあんなでかいっけ?これも中秋の名月ならではなんかな。まぁ深くは知らないけど綺麗。
「…よし。ごはんパパッと食べて早くお月様見ながらお団子食べよ。」
普段は見向きもしない月を愛でて、ここぞとばかりに月見団子と銘打って和菓子を売り出し、日本人も勝手だよなぁと思う。ただ、この終わりの見えない繰り返しの毎日で、大好きな人と隣り合って団子を頬張りながら見上げる静かな月は、悪くない。

10/5/2025, 9:59:35 AM

今日だけ許して

お願い

10/2/2025, 11:40:16 PM

遠い足音

 自分の「地獄耳」という特性は、長所というよりはどちらかというと短所に捉えてきた。人の多い所だと音が多くて疲れるし、聞かなくていいような内緒話でさえ耳に入るのは本当に面倒だ。

 あの二人が付き合っていると気づいたのはいつだったか。こういう時にスッと年代が出なくなってしまったことに自分の歳を感じる。もちろん普段の様子から仲が良いのは分かっていたが、明らかにそれがただの友情でないと気づいたのは、少なくとも季節を三周するよりは前だろう。

 今日もみんなで戯れてひとしきり騒いだ後、そのカップルの片方が吸い寄せられるようにもう片方の方へ寄り付き、その子よりもいくらか高い位置にある耳に背伸びをしながら呟いていた。
「今日家来るよね?」
「うん。行く。」
「じゃあ冷蔵庫何も無いからスーパー寄っていこ!」
二人は嬉しそうにうんうんと頷いてはそれぞれのところへ離れていった。甘い。会話の内容も二人の表情もとことん甘い。胃もたれがしそうだ。いつまで甘いんだ、お前たちは。三年以上付き合っていればそろそろ慣れるだろう。なんでずっとこの新婚バカップルみたいな雰囲気を纏っていられるんだ。
 いや、それよりもなんでこんな三年以上も隠してんだよ。最初は付き合いたてだから落ち着いてから言ってくるのかなとか思いながら微笑ましく見守ってたけどさすがに遅いよ。気づいている自分はまだしも、この甘すぎる会話を知らない他の人はこの二人をどう思っているのだろうか。



「え?いまなんて…」
「だからー、付き合ってんでしょ。あの二人。だってあからさまじゃん?そこらへんの猫でも知ってるよ。」
他の人はどう思っているのか知りたくて、とりあえず目の合った奴をランチに誘い出してそれとなく二人の話題を出した。すると、当たり前のように付き合っていると分かっていて驚いた。彼は当然だと言うように顔を顰めてから、目の前のザンギを美味しそうに頬張った。確かにここのザンギは美味いが、話のインパクトが強くてこちらはあまり味がしない。まさか知っていたとは。
「…本人から聞いたのか?」
「聞いてないよ。あの子、絶対恥ずかしがるじゃん?言ってこないってことはそういうことでしょー。まぁみんなの前であんなハート飛ばしといて今更何が恥ずかしいんだよって感じだけど」
最後の一文は聞く人が聞いたら悪口にも捉えられるかもしれないが、自分たちはこれぐらいの軽口を叩き合えるぐらいの関係性だから特に何とも思わない。むしろそうだよなぁと納得させられる。
「ねぇてかなんで今更その話?まさか最近知った訳?!」
「いや、三年前からだけど…」
「三年?!おっそ!!!あの子たち六年は付き合ってるよ?!?!」
「……はぁ?!」
まさか。そんなことあるのか。六年であの甘さを持続しているなんてありえるのか。なんでいっつも新婚感があるんだよ。もう六年は中堅通り越して熟年でも良いだろ。
「あんた鈍いとは思ってたけどここまでとはね…」と半ば呆れ気味に言われた。
 一人で帰る道の中で悶々と考える。耳が良い分、人の機微には敏感な方だと思っていたが、どうやら自分は鈍いと称される人間だったらしい。確かに言われてみれば地獄耳が無ければこの二人の関係性にだって気が付かなかったかもしれない。コツコツと遠くの方で聞き慣れたヒールの音がした。あぁ、来る。そうだ、地獄耳は短所ではなく、自分の足りていない部分を補うなくてはならないものだったのかもしれない。そう結論づけることができたのは、愛おしい人の足音を誰よりも早く気づくことができたから。あの二人ほどラブラブではないが、最愛のその人を振り返って迎えた。

10/2/2025, 10:00:22 AM

秋の訪れ

 暗くなるのが早くなったって寂しい時間が増えるだけで、それでもまだ自分がマシに見える時間が増えたから、秋って良いのか悪いのか分かんない。昼なら見向きもされないような人に、お酒+何かの力だったとしてもその日だけでも求められるという事実を嬉しく思ってしまう。その期間が伸びてクリスマスを超えるまでのつなぎになったとしても、誰かに必要とされるなら喜んでしまうのは馬鹿な女だろうか。

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