もんぷ

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6/9/2025, 9:57:07 AM

君と歩いた道

 君と歩いた道はもう草が生い茂っていて通ることはできないし、道のない道を進んでいけるほどまっすぐな心の持ち主ではなくなってしまった。ヒールの汚れを気にするような女になってごめんね。それでも、まだ君はその白だったとは思えない色のスニーカーで好きな道を歩いていてほしいと思うよ。

6/8/2025, 8:44:14 AM

夢見る少女のように

 私がまだ現実を見るよりも夢を見る少女だった頃、白馬に乗った王子様のエスコートを本気で待っていた。いつしかそんな理想が打ち砕かれて、初恋がけちょんけちょんに終わった時、もう何にも希望を抱かずに恋愛を諦めた。男性不信が高じて決めた女子校で、圧の強い女子たちにあれよあれよというまに王子ポジを割り振られていつのまにか自分がエスコートしなければならない側に立たされていた。いやだ、ドレスを着たい。王子になんてなりたくない。そうして、王子にも姫にもなれずに働いていた。良いことばかりではないし、常に気を張っているのは疲れるが、多くの人にそのままで良いと認められるのが嬉しかった。ああ、幸せだなと思っていた時に出会ってしまった。その人は「そもそも馬乗れないし、王子になんてなれないけどいいの?」と不思議そうにしていた。だけど良いのだ。白馬に乗っていなくたって、サーベルを持っていなくたって、この人の横にいる私は姫のように幸せな顔をしているだろうから。

6/7/2025, 9:32:45 AM

さあ行こう

 時間が進むのが怖かった。今が、過去が、好きなだけにこの好きな時間がどんどん終わりゆくのが怖かった。大好きな人と当たり前のように笑っていても、ふとこの時間もあと少しだという現実が顔を出す。そのことをみんなもわかっているのに、わかっていないふりをしてまた笑う。自分にはどうしてもそれができなかった。どれほど泣き虫だとからかわれようが涙が出るのは自分で止められないから仕方がない。でもそのせいでみんなを悲しい顔にはさせたくない。みんなで楽しんでいたカラオケを1人ふとメイクを直すふりをして抜け出してトイレの鏡の前で涙でいっぱいの自分の姿を見る。みんながいないところで全ての感情を出しきって、何事もなかったように戻ろうとしていた。なのに、なんで来るんだ。
「…わかるで。うちも卒業嫌やもん。」
泣いている姿を見て驚くこともせずに、涙と色んなメイクが混ざった私を白のカッターシャツで抱きとめようとするものだから、必死で抵抗した。彼女はそんなことも気にせずに「あとであんたのカーディガン貸して?そしたら隠れるし気にせんといて。」と笑った。彼女の胸に飛び込んでまた泣いた。彼女も泣いていた。2人でひとしきり泣いてから、「最悪やぁラメ取れた」とメイクを直す彼女を見ていた。
「何ぼーっとしてんの。あんたもメイク直すんやで?」
「えっ」
「みんなの前で泣いたん丸わかりにすんの嫌やったから一人でここおったんやろ?ほら、ポーチ貸して。うちが直したる。」
貸してと言う割にやや強引にはぎ取ってくる彼女は泣いたのが嘘のように綺麗ないつもの濃いメイクに戻っていた。
「やだよ。けばくなんじゃん。」
「はぁ?けばないし、かわいいもん。あんたが普段うっすいメイクしてるだけやろ。」
「ちゃうって!あんたらみたいなギャルに合わせてたら私の顔なくなるもん。」
「もー、色々うっさいわ。ほら、こっち来ぃ!」
強引に向かい合わされてぼふぼふとパフを叩きつけられるのでもう観念して抵抗は止めた。口調はきついのに意外と手元が繊細なところが彼女らしいなぁと思いながら数分経つ。
「よし、おっけ。さあ行こ!早よ戻ってここおった分取り返すぐらい歌うで!」
いつもより何十倍もギラギラとした顔が鏡の前にうつるのを見て笑みが溢れる。
「ちょ、濃すぎひん?てか待ってよー!置いてかんといて!」
私のカーディガンを嬉しそうに羽織りながら部屋まで早く歩く彼女の後を追いかけた。

6/5/2025, 10:10:22 AM

水たまりに映る空

 雨はかろうじて止んだものの、水たまりに映る空はまだ雲でグレーに染まっていた。雨で一層トーンを落としたアスファルトのそこかしこにある水たまりを避けて家に帰っていた。するともう止んだのに大げさなカッパを羽織った彼が自転車で自分の横を過ぎ去った。
「お先!」
もう止んでいることも気づいていなそうな彼の背中を微笑みながら見送った。

6/5/2025, 9:40:12 AM

恋か、愛か、それとも

 恋か、愛か、それともただの友情か。とにかく仲は良いと自負している。サークルに来たら当たり前のように私の隣の席を陣取る彼。整った顔立ちをしているその人は、大人しい性格であまり輪の中心に入ってこないのに反して、いつもどこか個性的で少し派手な服装をしている。私が絡んでいくとめんどくさそうにしているのに、他の人と話していると面白くなさそうな顔をして端に収まっているのがかわいかったのだ。私だって最初はただの友達だと思っていたのに、ただの友達として扱われているにしては特別な対応が多いことに気づいてしまったのだ。無意味なLINEは嫌いだと言っていたのに私の他愛もないメッセージにいちいち反応してくれる彼にある種の希望を持っていた。そんな中、迎えた私の誕生日。彼からのプレゼントは花束だった。
「花束なんてもらったことないんだけど」なんて笑いながらも綺麗なその重みを噛み締めた。プレゼントに花束なんて、これはもう本命ではないか、両思いなんじゃないかなんて勇気を出そうとした時だった。
「あれ、またあの花屋行ったの?好きだね〜。愛しのあの子には会えたの?」
「…別に、違うし!」
彼はからかっている同級生の言葉を聞いて、整った顔立ちを真っ赤に染めていた。何それ。話を聞くと、彼は前に行った花屋の店員に一目惚れをして通い詰めているらしい。え、何それ。私とはもう1年以上の付き合いなのに、ここ1ヶ月ぐらいで出会った人に負けたんだ。あー、一目惚れって…しかも私の誕生日を思った花束じゃなくて、その子に会うための花束だったなんて…はは、うける。だるーい。乾いた笑いは真っ赤な彼の耳には届かなかったようだ。
 家に帰って綺麗な花束を机の上に置く。行き場のない怒りを花にぶつけるほど私は出来損ないではない。でもドライフラワーにしてずっと飾っておくには心の余裕が足りない。彼が花屋に行くことになったきっかけは3月のサークルの先輩の卒業式。花束の用意は1年に任されたから適当にじゃんけんで決めて彼が行くことになった。負け残っていたのは私と彼の2人。最後に私がチョキを出していたら買いに行くのは私の役目だった。ああ、なんで。私が負けていたら、こんなことにはならなかったのに。もっと上手くことが運んで、花束はもらわなくとももっと欲しかったものをくれる関係性になっていたかもしれないのに。花から目を背けるようにカラコンを外して乾いた目を労った。

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