夢を描け
幼稚園の頃、お絵かきの時間に自分の夢を描けと言われてふりふりのピンクのドレスを着た自分を描いた。絵のファイルの奥底にしまわれていたあの絵のことはもうすっかり忘れていたが、結婚式当日に母がそれを持ち出してきて自分に渡しながら言った。
「ドレス、着たいなら着ても良かったのに。」
「…子どもの頃の話。今はちゃんと分かってるから。」
母はそうねとよく分からない返事をしながら絵を受け取った自分の真っ白のタキシードの肩についた糸をはらうように撫でた。
届かない……
どうやったって届かないものはたくさんある。あの日の伝えられなかった思いとか、待っていたのに来なかった約束とか、住所が変わっていて帰ってきてしまった手紙とか。いくら嘆いても届かないものは届かない。だけど、いつか何かの縁でふと、届いてしまうこともある。久しぶりの言葉と共に現れた彼女は変わっていなくて、今度会ったら必ず責め立てようと考えていた怒りはどこかへ消えていた。来なくても、また会えたからいいや。伝えられなかった思いだって今から伝えられるし、届かなかった手紙は次こそ自分の手で渡してしまえばいい。まだこれからだ。
木漏れ日
あの大きい木の下の木漏れ日が好きだった。今は切られてしまって切り株だけになったその木を見て時間の流れを理解する。あの木の下で寝転んだり、時々木登りしたりするの、好きだったなと思い出しながらその切り株に腰掛けた。明日は晴れるといいな。
ラブソング
純粋なラブソングは聴くのが恥ずかしくて、片想いだとか失恋ソングを聴いている方が性に合っている。そう思っていたが、本当に失恋してしまった時は辛すぎてそれらは聴けないと最近知った。それならば、私は何を聴けば良いのだろう。音楽がない世界に色はなくて、路頭に迷っていた私の元に響いてきた一つのサウンド。優しい風鈴のような音色に心が洗われて、歌詞のひとつひとつが寄り添うように送られてくる。失恋した直後と同じぐらいに涙が止まらないのに、それでも心は軽くて、音楽に救われていることを実感した。
手紙を開くと
手紙を開くと、古びた手紙に君の丸い文字。あまりにも小さくて丸くかわいさを追求されたその文字たちはいつも君の声で再生される。本文はいつも通りの君の言葉なのに、PSには手紙でしか聞けない一番欲しかった言葉が書いてあって、ああ幸せだなあと思う。どうしても目の前が見えないほど辛くて悲しくて何もできないような時でも、手紙を開くと君の言葉が目に入る。大好きな言葉が大好きな声で再生される。本当に大好きだ。いつまでそんな昔の手紙見返してんのと怒られるけど一番の宝物だから、これからもまだ大切にしていきたい。