もんぷ

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4/10/2025, 9:31:32 AM

元気かな

「生まれ変わっても一緒にいよう」なんていう遠い約束をした彼は元気かな。生まれ変わって新しい人生を得てもう結婚をできる年齢まで生きたけど、彼らしき人は未だ現れない。もしかすると彼は前世の記憶を忘れているのかもしれない。自分だけが覚えていて律儀に待っているだけかもしれない。それでも、あの垂れた優しい目、少し甲高い声、癖っ毛な彼を頭に描いては自然と頬が緩む。きっと今世は同じそれを持ち合わせて生まれてきてはいないだろうがそれでも良い。私のことを覚えていなかろうがそれで良い。ただ元気でさえいてくれれば良いのだ。元気でさえいれば、必ず見つけ出して私がその元へ走るから。

4/7/2025, 1:25:46 PM

フラワー

 駅から歩いて三分のところにある花屋の店員。その同年代らしき男性は白いカッターシャツを第一ボタンまで閉めていて、花屋のロゴが入った深緑のエプロンにはシワひとつない。一度、サークルの先輩の卒業祝いで花束を買いに行った時のこと。卒業シーズンだというのにお客さんがいない店内、じゃんけんで負けて花束の準備を全て担うことになったという嫌な事実、初めて行く店には心の準備がいる性格、入るには少し敷居が高そうな場所。全ての要素がこの店舗に入ることを拒否していたのに、いざ店の前に行くと話しかけやすそうな青年が迎えいれてくれた。
「どのような花束をお作りしましょうか。」
客が一人だったためなのかは分からないがすごく丁寧なカウンセリングと、彼の幼い顔には似つかない心地良い低音ボイス。慣れていない自分にも優しく提案してくれてお値段もお手頃だった。そこから事あるごとに通うことになった。家族の誕生日、母の日、父の日に飽き足らず、人の誕生日にはちょっとした花を贈ることで大学でのあだ名はすっかり「花屋」で定着した。花自体を気に入った訳でもなく、この花屋自体をすごく気に入った訳でもないが、彼に会いたいという気持ちが日に日に強まっていった。
「川崎さん、いらっしゃいませ。」
名前を覚えられて、優しい笑顔で迎えてくれるまでの関係性にはなったものの、それ以上の発展は特にない。売上には間違いなく貢献しているが、実際彼からはどう思われているのだろうか。ただ異常に花を頻繁に買っていく近寄りがたい客と思われているかもしれない。彼に近づくために通っているのに近寄りがたいと思われるのは不本意だ。しかし仕方のないことでもある。例えばここが花屋ではなくホストクラブなんかだったら、楽しくおしゃべりをすることも彼の人となりを聞くことも料金のうちに入るのだろうが、残念ながらここは花の料金しか支払わせてくれない。彼のことで知っていることといえば、名札に書いてある名字が"あずま"なこと、基本水曜と土日のみバイトで入っていることくらい。カウンターの奥にホワイトボードで書いてあるシフトをお会計の時に毎回こっそりチェックしているのでこれらは間違いない。今日もまたいつも通りの会話を交わして綺麗な秋海棠の苗木を買った。しかし、花を見繕っている間に小雨が降り始めてしまった。今日は雨が降る前に早く帰ると思って家を出たが、授業も終わりせっかくの水曜だし寄って帰ろうと考え直したばかりに傘を持って来るのを忘れた。
「川崎さん、傘お持ちでないんですか。」
「…え、あ…はい。忘れてしまって。」
「ちょっと待っていてくださいますか……良かったら、これ使ってください。」
「え、これ…」
「私物で悪いんですが、こんなので良ければ。」
差し出されたのは黒い大きい傘。戸惑っている間にも彼は言葉を続ける。
「前は貸す用の店の傘置いてたんですけど、花屋なんてみんなあんまり来ないからよく借りパクされちゃって店長が怒って傘廃止したんですよ。だからこれ、店長には内緒で。」
しっと口元に指を一本たてて彼はいたずらに笑った。初めて見たその表情と、いつもより多い会話に頭が混乱する。
「え、いや、え…でも私物ってことは…あ、あずまさんはこの後どうするんですか。」
「家近いんで大丈夫です。」
初めて呼んだあずまの名前に緊張してちょっと噛んでしまった。家が近いとかいう新しい彼の情報についていけない。脳の回転が停止しそうになりながら言葉を紡ぐ。
「…い、いいんですか?」
「はい。」
「…自分がこれ、借りパクしちゃうとか思わないんですか。」
「川崎さんなら大丈夫かなって。」
そう笑った彼を見て、この気持ちをやっと恋と認めた。

4/6/2025, 11:03:43 AM

新しい地図

「ねぇねぇ、これ見て!新しい宝の地図!」
その目自体から光を放っているのではないかと勘違いさせるほどの勇者の眩い瞳が古びた地図に向けられていた。元の文字が茶色に滲み、端は焦げたように黒ずんで所々破れたいかにもな宝の地図。
「えー!いいね、お宝探しに行く?」
「よっしゃ、冒険やー!」
意外と乗り気な魔法使いと最近暇だったから久々の冒険にテンションが高い遊び人。勇者と3人でわいわいと地図を囲んでいる。一方で、難色を示しているこちら3人。
「前の冒険も結構みんな危なかったしもうちょっと回復してから行くべきじゃない?」
「えー、ほんとそうだよね。てか自分のお気に入りの弓壊れちゃったしもうちょい待って欲しい。」
石橋を叩き切ってから渡らずに引き返す慎重派の僧侶とマイペースな弓使い。しかし、今回に限っては弓使いにとって一番の武器が使えないんだから今は無理というのはマイペースではなく当たり前の主張だ。否定されてもまだ「えー行こうよー」とかいいながら口を尖らせている勇者に問いかける。
「てか、どっから持ってきたの?それ。」
「商人のおじさんが宝の地図が今なら半額だって言ってたから買ってきたの!」
「え、それ大丈夫?」
「なんで?」
「本物の宝の地図ならもっと高く売っても買う人いるだろうし、なんで半額なってるのか分かんないし、単純に怖いじゃん。信憑性ある?」
「うわ、確かに…」
「…明日商店行って確認してみよ。」
翌日、商店に行って入手経路や値段などの理由を厳しく問い詰めたところ、やっぱり店主が作った嘘の地図だったとわかった。どうやらうちの勇者以外に騙されてくれた人はいなかったらしいし、被害も無かったからとりあえず今回ばかりはきつめに説教をして終わらせた。危ない危ない。ありもしない宝のために色々消耗するところだった。これほどまでに自分が賢者で良かったと思ったことはない。商店を出た後、せっかくみんな集まってるしこのまま帰るのもなーという流れで、返金されたお金の一部で野菜とお肉を買って僧侶の家で鍋をした。たまにはこんなパーティーがあっても良いだろう。

4/6/2025, 9:51:24 AM

好きだよ

好きの反対って何だと思う。
嫌いでしょ。
じゃあ好きだよの反対は。
嫌いだよでしょ。
ううん、違うよ。好きの反対は無関心なんだよ。
あー、なんか聞いたことあるかも!じゃあ好きだよの反対は無関心だよってこと。
いやいやそれは違うよ。関心を持ってない人にわざわざ無関心だよなんて言わないでしょ。
じゃあ好きだよの反対って結局何なの。
へぇー、勉強になります。
はぁ、なにそれ。
好きだよの反対。勉強になりますなんていってる人の大半は相手に対して無関心だし勉強になるなんて思ってないってこと。
…へぇー、勉強になったわ。
ちょっと!

4/4/2025, 11:08:22 AM



 桜が綺麗で、君も綺麗で。もうそれだけでいいやって感じ。調子に乗らせたくないので本人には言わないけど。今も自分の髪に桜がついていたのがかわいいなんてバカにしてくる。こんなかわいさのかけらもないぶさっとした男に綺麗な桜がアンバランスだと言われたみたいで腹立たしい。何をしなくても派手な君に見合うように派手な髪色にしてみたり耳に穴をあけてみてもどこか自分に自信を持てない。こうして隣を歩いているのも学生時代の自分にとっては信じられないのだ。この居場所を守ることができるならなんだってする。
「お花見したいなんて風流だね。そんな発想無かったわ。」
「…別に普通じゃね?桜綺麗だし。」
「そうかなー。私はごはんの方が楽しみなんだけど。」
「あー、色気より食い気?」
なんてからかいながらも、これだけ満開の桜より自分の作ったお弁当を楽しみにしてくれているのが嬉しくて、喜んでいるのがバレないように桜を見るふりをした。

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