世界に一つだけ
世界に一つだけの感情でもないくせに、
そんな感情は日常にありふれているくせに、
その感情のせいで、
私が絶対に見れないあなたの笑顔が存在してしまう
という事実が
この上なくしんどいです。
胸の鼓動
教室のチャイムが鳴る。
新学期最初の休み時間が終わって,
新学期最初の2時間目が始まる。
「宿題回収するぞ〜
左から算数プリント、観察日記、自由研究、読書感想文の順で置いていってくれ
出席番号順でな、じゃあ1番から。」
先生は言う。
大丈夫、私はちゃんと持ってきた。
横断歩道を渡る時に右左右と確認するように、
家を出る前に、しっかり3回確認したから。
ああでも、今年の夏遊んでばかりでしっかりやってきてない人はこの時間に地獄を見るんだろうな、可哀想な気もするけど因果応報だ。
そんなことを頭の中で考えながらランドセルを漁る。
宿題を全部入れたファイル開いて、一つずつ取り出す。
まずは,算数プリント。
途中から答えを見ながら,所々でわざと間違えて答案を作成したのは内緒。
バレないかな,そんな訳ないか。ちょっと冷や汗が出て、一瞬心臓の鼓動が乱れたような気がした。
次は、あさがおの観察日記。
最初は真面目にやってた。けれど、三日坊主の私に物事が続けられる訳ない。
水やりがめんどくさくなって、後回しにしてたら
数日で枯れた。
けど、そんなことかいたら怒られちゃうし、
教室の後ろに展示するらしいから、友達からからかわれちゃうかも。それが嫌だったから、日記には元気なあさがおの絵ばかり並んでいる。
その次、自由研究。
本当はペットボトルロケットとかの、ロマンがあることをしたかった。でもクラスの中心でもないのにそんなことしたら浮いてしまう。だから、当たり障りのないものにしておいた。興味はないけど楽な話題をネットで探して紙に写したら文体だけかしこまって全く面白味のない冊子が出来上がった。でも、自由研究なんて去年と同じで、突出した数人のクラスメイトの作品がみんなに褒められて終わりだろう。私の作品なんてどうせ誰も見ないし大丈夫だ。
そしてとっておきの、読書感想文。
これは正直自信作だ。
自分でいうのもなんだが、唯一ちゃんとやった宿題だ。課題図書がとても面白くて、筆が止まらなかった!もしかしたら完成度が高すぎて、先生が褒めてくれるかも。提出が楽しみな…
あれ。
読書感想文が、ない。
ファイルをもう一回探しても、逆から探しても、教室の光に透かしてみても、夏休み前の学級通信やら算数プリントやらしか無い。
え、え?
胸の鼓動が無責任に高まる。
無意識にファイルに爪を立てる。しまった。また痕ついちゃった。いや今はそれどころじゃなくて、
家に忘れた?3回目の確認で、しまい忘れた?
嘘,うそ、そんな話があるはずな
「おーい17番、早く出しにこい」
あ、呼ばれた。
胸の鼓動がもっと高まる。昨日たまたま車の中で聴いた高速ラップぐらい速い。
両手に嫌な汗。汗じゃなくて、花だったらいいのに〜なんて冷静になる、ツッコミ待ちの脳内ボケ。
そんなこと言われても返す余裕無い。
あー。
算数プリントの不正なんてもうどうでもいい。
観察日記の失敗ももうどうでもいい。
自由研究の完成度は元からどうでもいい。
じゃなくて。
どうしよう。
さながら死刑を待つ死刑囚のように、形だけは立派な宿題を、左から順に置いていく。
両手には,もう何も無い。
何も無い。皆の視線が集まる。隠せない。
でも、口は瞬間接着剤で貼り付けられたかのように全く開けない。宿題忘れました、その一言すら言えない。
恥ずかしすぎて心臓が破裂しそう。多分これ以上速い血流のBPMは無い。
「忘れたのか?」
頷く。
「珍しいな。宿題を忘れるなんて。
まあ明日持ってきたらいい。」
そう言われた瞬間、
助かった!!!!と思って、
「すみません、次回から気をつけます」と
申し訳なさそうに謝った後に
席に戻った。
しばらくしたら、
手のひら返したように胸の鼓動がおさまった。
意外になんとかなるんだなとホッとした反面、
私の心臓もさっき出した3つの宿題とおんなじ類のものなのだと
わかって,むなしくなった。
踊るように
皆踊るように生きているとしたら。
自分の選んだ振り付けに沿って体を動かして決めていく人生。
同じ振り付けばっかじゃ単調で、点数も伸びない。
何より踊るのに飽きてしまう。
かといって全部違う振り付けだと、ついていくので精一杯。ミスも増えて、ストレスが溜まる。
既存の曲のピアノカバーみたいに,元の振り付けをベースに、ちょっとアレンジを加えて無理なく踊るぐらいが1番無難に点数が取れそう。
それができるほど私が器用な訳ないけどね。
結局は踊りが嫌になったら、続けられなくなったら
それで終わり。
大丈夫、自分の踊りなんて誰もみてないから、
失敗しても恥ずかしくない。
だから不慣れでも自分のしたい動きをしようとか、
そう思ったほうが、よっぽど生きやすかったり。
しないかなぁ
時を告げる
授業終了のチャイムが鳴る。
待ちに待った昼休みだ。
午前は数学とか理科とか,難しい科目ばっかりだったからしんどかった。
午後にも物理がある、あー金曜日って最悪。
でもそれはそれ。今は昼休みなんだから休むべきだ。
午前頑張ったからご褒美にちょっと奮発して購買でチョコパン買った。
友達に「太るよ?」とか言われたけど。
焼きそばパンをむしゃむしゃされながら言われても
説得力無い。
疲れた時は、好きな食べ物と、馬鹿みたいな無駄話の組み合わせが一番身体と心に効く。
その分,時間はバカ早く過ぎるけど。
そうこう言ってるうちに予鈴が鳴る。
眠たいツラい午後の授業の始まりだ。
はぁ、次の楽しみは放課後の無駄話か。
授業がんばろ…
貝殻
修学旅行で1番憂鬱な時間がやってきた。
海水浴だ。時間は1時間。
私は泳げない。多分5メートルも泳げない。
酷いカナヅチだ。
でも、友達はみんな泳げる。
クロールとか平泳とかバタフライとか軽々こなすぐらいには泳ぎ慣れている。
これが何を意味するか。
つまり、みんな泳ぎに行って私だけ砂浜に取り残された。人というのは時に冷酷だと実感する瞬間だ。
流石に,私が嫌われてるってわけでは無いはず…
多分。
砂浜には誰もいない。友達以外の大勢の生徒も,みんな海の上。勿論、それぞれのグループで。
風が気持ちいい。日差しが熱い。
…やること,ないなぁ。
ふと足下を見ると貝殻。
よく見ると,あたりに散乱している。
暇つぶしにいい感じの貝殻を探してみる。
ピンクの,ちっちゃくて綺麗な貝殻。
白くてでかい二枚貝。
深緑のぐるぐる貝。
以外と色々あって面白い。
コレクションがどんどん増えてく。
1人でいること,少し寂しくはあるが同時に、なぜか心が休まる気がする。
そうだ、海から友達が帰ってきたらこれをプレゼントしよう。
あの子はピンクが好きだって聞いたから,この貝殻。
あの子の隣にいつもいる子の好きな色は知らないけど…青ってイメージだからこの貝殻にしよう。
喜んでくれるかな?
いや…
「え、あー…別にいらないかも。気持ちは嬉しいけど、何に使えばいいのかわかんないし…」
「てかさ、ずっと思ってたんだけどなんでいつもわたしたちにくっついてくるの?正直鬱陶しい」
…って言われるかもしれない。
やめとこ。友達に変に刺激は与えない方がいいな。ずっとひとりはやだし。
あ、みんな海から上がり始めた。もう時間か。
友達の姿も見えてきた。
貝殻なんて集めてるの幼稚だと思われたらどうしよう。いや、そもそも何で友達のことで自分がそんなに悩まなくちゃいけないんだ。
苦悩やら恥ずかしさやら憎しみやら虚しさを
ちっぽけな貝殻に込めて全部砂浜に投げ捨てた。
そうしてから、
屈みっぱなしで怠くなった体を無理やり引きずって、自分の可能な限り自然な笑顔を浮かべて、
この醜い感情が察されないように,
友達らの元へ私は走りはじめた。