いありだ

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貝殻

修学旅行で1番憂鬱な時間がやってきた。
海水浴だ。時間は1時間。
私は泳げない。多分5メートルも泳げない。
酷いカナヅチだ。
でも、友達はみんな泳げる。
クロールとか平泳とかバタフライとか軽々こなすぐらいには泳ぎ慣れている。
これが何を意味するか。
つまり、みんな泳ぎに行って私だけ砂浜に取り残された。人というのは時に冷酷だと実感する瞬間だ。
流石に,私が嫌われてるってわけでは無いはず…
多分。
砂浜には誰もいない。友達以外の大勢の生徒も,みんな海の上。勿論、それぞれのグループで。
風が気持ちいい。日差しが熱い。
…やること,ないなぁ。
ふと足下を見ると貝殻。
よく見ると,あたりに散乱している。
暇つぶしにいい感じの貝殻を探してみる。
ピンクの,ちっちゃくて綺麗な貝殻。
白くてでかい二枚貝。
深緑のぐるぐる貝。
以外と色々あって面白い。
コレクションがどんどん増えてく。
1人でいること,少し寂しくはあるが同時に、なぜか心が休まる気がする。
そうだ、海から友達が帰ってきたらこれをプレゼントしよう。
あの子はピンクが好きだって聞いたから,この貝殻。
あの子の隣にいつもいる子の好きな色は知らないけど…青ってイメージだからこの貝殻にしよう。
喜んでくれるかな?
いや…
「え、あー…別にいらないかも。気持ちは嬉しいけど、何に使えばいいのかわかんないし…」
「てかさ、ずっと思ってたんだけどなんでいつもわたしたちにくっついてくるの?正直鬱陶しい」
…って言われるかもしれない。
やめとこ。友達に変に刺激は与えない方がいいな。ずっとひとりはやだし。
あ、みんな海から上がり始めた。もう時間か。
友達の姿も見えてきた。
貝殻なんて集めてるの幼稚だと思われたらどうしよう。いや、そもそも何で友達のことで自分がそんなに悩まなくちゃいけないんだ。
苦悩やら恥ずかしさやら憎しみやら虚しさを
ちっぽけな貝殻に込めて全部砂浜に投げ捨てた。
そうしてから、
屈みっぱなしで怠くなった体を無理やり引きずって、自分の可能な限り自然な笑顔を浮かべて、
この醜い感情が察されないように,
友達らの元へ私は走りはじめた。

9/5/2024, 11:00:36 AM