きらめき
こんなにも、こんなにも完成度が違う。それはあの人の持っている才能が大きすぎるから?
いや、才能だけじゃないな。努力とか、時間とか。そういうの含めてあの人のきらめきだろう。分かってる。でも、…
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始める前は,あの人の作品の放つきらめきは直視しても痛くない、不思議で心地よい陽だまりで、喧騒を忘れられる公園だった。
そんな素敵なあの人の世界を
勝手にひみつの隠れ家にしては、
私、子供みたいにはしゃいでた。
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自分もそんな世界を作ってみたい。そう思って、
始めてみて、それはとても難しいことを痛感した。
それでも、その時はまだマシだった。自分の拙い作品を、その当時は割と気に入ってたから。
何より,目を細めながらも、素直な尊敬の眼差しを、まだあの人の作品に向けれていたから。
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しかし、続ければ続けるほどあの人の作品のきらめきは眩しく映った。
そうしていつしかまともに見れなくなり、
観るのを避けるようになった。
嫉妬、劣等感、羨望、で目が潰れてしまうのが怖くなったから。
相変わらず稚拙な、殴り書きの日記みたいな自分の駄作達、それが無性に嫌だった。何回試しても世界観なんて作れない。
…世界観世界観っていうけど世界観ってどういうもんだったっけ。忘れてしまった。
あれ、
それが分からないんじゃ、一体私は何の為にこれを続けているんだ?
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「そういや、動画見てたらだいぶ前にそっちが言ってたおすすめの曲出てきたから聴いてきた!
この人の曲初めて聴いたけど世界観が独特だよね
唯一無二って感じする、言葉で表すのは難しいけど…
宙に浮く感じ?笑笑
2:27←個人的にはここのピアノがすごい好き
そっちはどの場面がお気に入り?」
メールが来た。友達からだ。
あの人の曲を友達におすすめしたのはもう1年も前のことだ。
そういえばおすすめした1ヶ月後から最近まで一回も聴いていない。
正直、あんまり気は進まないけど…
でも、せっかく友達が訊いてくれたんだから、
ちゃんと聴いて返さなきゃ。
重い指を動かす。
検索エンジンにあの曲のタイトルを打ち込もうとしたら、最初の平仮名2文字入れるだけで予測変換で出てきた。ページに飛ぶ。
サムネのシンプルな映像が画面に表示される。
懐かしくて、
謎に無性に気恥ずかしくなって、無意識に片目を瞑る。
読み込みを待つ。広告をスキップする。
その1つ1つの流れになんだか緊張感がある。
イヤホンを耳に挿す。
深呼吸して,
もっかいだけ深呼吸して、
音楽を再生する。
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きらめき。
目が開いているのに見える夢。
あの日の隠れ家。
入道雲の空と草原に色とりどりの遊具が太陽に反射して映えている。風が吹いて、日陰が涼しい。
あたりには高音の星屑が散らばっている、
ホログラムフィルターを通したチェキの風景の中で、
不安定なふかふかな雲を踏みしめているような、
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一瞬,そんな感じがした。
ハッとして、
遅れて聴き慣れた音の集まりが一気に耳に届く。
季節外れの寒さを感じる。腕を見ると、鳥肌がたっていた。
これがこの曲の世界観なんだ。
憧れる気持ちも分かる。
そうだ、あとで自分の曲も聴きなおそう。
最後に作ったのは8ヶ月前だろうか。
この曲に比べたら全然完成度まだまだなのは簡単に予想つくけど、今なら何か世界観が掴めるかもしれない。
聴き直す機会をくれた友達には感謝しなきゃな。
そう思ってウキウキでメールを開く。
友達にはこの曲がどんなふうに映ったか気になるけど
確かに、言葉にするのは難しいな、
でもひとことで纏めるとしたら…
そんなことを思いながら、返信の文字を打ち始めた。
些細なことでも
何を言ってるかよく聞こえなくて、聞き返したら「なんでもない」と言われた。
LINEの話が盛り上がり始めた時、急に既読がつかなくなった。
最近話している時、なんだか私と目を合わせてくれない気がする。
些細なことでも、ひっかかりでも、
重なれば次第に疑心暗鬼になって、
無い意味を付けて僻んで、
簡単に不和に繋がってしまう。
私のそれは相手への期待だから、
よく一緒にいる友達ほど不安定になる。
だから一緒に過ごして、
満たされないことが恐い。
心の灯火なんて
常に燃えていればいいけどさ。
現実では
それはしょっちゅう消えては点いて、
本当に面倒なもんだよ。
なくていい、
どうせ何も成し遂げられないのだから
ただ淡々と何も考えず生きていきたい
と願っても
好きな音楽とかふと読んだ小説とかに影響されて
私にも出来るかもなんてすぐ気が変わる。
めんどくさい。あーめんどくさい。
結局、心の灯火の火力なんて調節できない。
それならいっそ流されてみるのもありか。
ゆるーくやる日も、なんもしない日も,やる気ある日も。火力がランダムに決まる毎日を過ごしてみると、ふと案外楽しいって思える時が来るかも。
グループLINEを開けない。
恋愛話、付き合えない。
私の顔も知らないどなたかを、誰かの誰かを愚痴り、
共に共有するなんて耐えられない。
でもさ、それは普通のこと!
それすら耐えられない私はこの先生きていける?
いや、いまはそれどころじゃない。
でも、既読無視なんてできない。
どうしよう、
分からない、どう合わせたらいい?
分からない。から、でも、既読無視はだめ。
一呼吸したら、もっとも当たり障りのない言葉を出さなきゃ。
僕の一番不完全なところは、
不完全な僕を許せないところ。