『1年前』
2年前、3年前──10年前の記憶すら覚えているというのに
なぜ、1年前の記憶だけこんなにも色褪せているのだろう。
そこだけ、輪郭がぼんやりとしている。
唯一ある1枚の写真の中の私は笑っているというのに
どうしても、それが自分だとは思えなかった。
『初恋の日』
遠い遠い、昔の記憶だ。
少し、変わった子がいた。
その子は何してもいつもヘラヘラと笑っていた。
僕はそれが耐えきれず、彼女を突き刺した。
彼女はそれでも笑っていた。
でも、目の奥では、泣いていた。
『君と出逢って、』
君と出逢って、人が泣く理由が少しだけわかった気がした。
ふと遠い空を眺めれば、貴方を想いだす。
見たことの無い貴方の笑顔の輪郭を指でなぞる。
貴方の本心に触れようとすれば、
どこか遠くへ引きずられていく気がした。
雨音が視界を埋めていく。
気づけば、呼吸が少しだけ軽くなっていた。
僕は、君と出逢って──
『二人だけの秘密』
幼い頃、君と二人で摘んだシロツメクサ
小さい手で一生懸命花の冠を作り、お互いに送りあいっこをした。
私は不器用で、汚くて、みすぼらしい冠になったのに、
彼女は本当に嬉しそうに笑い、泣いてしまった私を抱きしめた。
その手はまだ小さくて、不格好で、土まみれで──
やがて、彼女の手は豆だらけになった。
剣道部の主将を努める彼女の手は固かった。
真っ白に染まる公園
葡萄の匂いに包まれた彼女
ほんのりと目を赤く染めて笑う彼女はあの時と何も変わらず、私はおろおろと彼女の手を繋いだ。
彼女の目からはポロポロと涙がこぼれ、私はただ、それを拭うことしかできなかった。
彼女の荒い呼吸に、自身の割れんばかりになる心の音。
上手く呼吸ができず、私はまた、あの時のように泣いてしまっていたようだ。
小さく震え、無様な私を彼女は優しく抱きしめてくれた。
暖かくて、安心して、私は彼女のことが──……。
「お姫様、朝ですよ」
彼女の目は少し赤く、声も掠れていた。
彼女の手を取り、触れるだけのキスを交わした。
真っ白なヴェールは私たちを包み込んだ。
『風に乗って』
言葉は広い海を渡り、やがて風となる。
人を紡ぐ葉は歴史をも紡ぎ、調べとなる。
風と舞う花々は美しく
空高く舞う鳥は歌い、日々照らす月は届かぬ愛を唄う。
風は宙にとどまったまま行き先を忘れ、音が途切れ、
やがて香りを失う。
輪郭を失ったそれに、
無造作に並べられた造花にキスをし、傷だらけになった薔薇を抱きしめる。