「夏」
陽炎が揺らめく日は異界が似合う。影が短くなる正午、人通りが少ない道をひとり歩くとまるで人ならざる者の世界に足を踏み入れたように感じてわくわくする。
蚊取り線香の煙の匂いが漂うと夏にまつわる怪談が読みたくなる。扇風機の風に当たりながらほんの少し不思議な話を読むと臨場感があって面白い。
猛暑は苦手だ。空調の効いた部屋を一歩外へ出るとねばつくような不快な暑さが全身をつつむ。立っているだけで体力と気力が削れる気温は本当に厄介だと思う。
麦茶と塩飴が私の夏のおともだ。梅味の塩飴を口に含みつつ、夏バテと熱中症を予防する夕飯の献立を考えるのも結構楽しい。ただ、火を使う料理は億劫になるので、冷やしうどんやそうめん、冷やし中華は考えものだ。
(終)
「ここではないどこか」
子どもの頃は夢見がちだった。色とりどりの繊細な花が咲き乱れる大空や野山を空想の生き物と共に駆け回る、現実を離れた空想の世界に浸っていた。
ここではないどこかの街を造り、架空の人物に名と役割を与え、この人物たちの1年後はどうなっているだろうかと妄想する。それが私の日常だった。
ある時、妄想を文章に起こそうと思いたった。画力は壊滅的である私でも、言葉ならどうにか表現できるだろうと浅はかな考えで物語を書き始めたのだ。
だが、全くの素人が一から物語を完結させるのは無茶なことだと、この時痛感する。
書きたいことは沢山あるのに描写できない。言い回しが拙い。あれこれ書いてストーリーに一貫性がない。 そもそも、起承転結すらまともに構成できておらず、発想もオリジナリティーがない。展開の意外性がない。
ないないづくしの駄作になった。いまだに完結できずにほったらかしのため、登場人物はひとつの場面で立ち止まっているはずだ。
描き出した理想の君と最後に会った日はいつだったか、造りかけの世界はどこへ行ったのか。もはや覚えていないほど時間が経って今に至る。
そうして、たかが趣味とは言え自分で始めたことだ。挑戦と失敗と成功を繰り返し完結させたい。そう思うようになった。
たとえ下手の横好きだとしても、始めたことを続けることに意味がある気がするから。
私はもう逃げない。
「好きな色」
深い青色が好き。
なぜなら、見やすくて落ち着く色だから。
深い青色に金色か銀色の模様が入るとより良い。
紅茶の色も好き。
ミルクと砂糖がたっぷり入った色
ストレートティーの透き通った赤色
どちらも好き。
「あなたがいたから」
読んでくれるあなたがいたから
このアプリを続けられた。
書いてくれるあなたがいたから
このアプリが楽しみになった。
たくさんのハートをありがとう。
いろんなお話をありがとう。
「相合傘」
傘を忘れた友人がそろりと私の傘に入ってくる。
友人に雨が当たらないよう、風下側を譲った。
わずか数分間の出来事。細かな雨だった。
友人の護衛になれた気分で、私は少し嬉しかった。