創作「あの頃の私へ」
過去の私に説教ができる程、精神的な成長ができた気がしない。あの頃の私のまま体だけが大きくなってただ年齢を重ねてきた気がする。
その上、かつての自分を今に恨んだとて今この瞬間が変わる訳ではない。それに過去を恨むだけ今を無駄にしているとも感じている。だから、あの頃の私へは何も言わないのだ。
そして、あの頃の私を恨む間に、未来の自分から褒められることをできるだけ実行する方がはるかに有意義だろうと私は思う。
「思うだけで何もしないから、未来で自分自身を責める羽目になるんだけどね。あ、でもこんなこと考えるから今が楽しめないのかもな」
彼は自己分析を覚えたようです。
彼が何かを本気で楽しめる日は来るのでしょうか。
創作「逃れられない」
逃れられないともがく物事には、決まって責任感と緊張が伴う。課題や試験、何かの役割。私がやらなきゃ意味がないと気を張って。きちんとしなきゃと背筋を伸ばす。
だから、逃れられないことで失敗した時、私はかなり落ち込む。自分はもうダメだと膝をつく。その上、どうしてダメなのかと、気づけばひたすら自責している。
そして、ある時「どうして」の答えが自分の力では解決できないことだとわかった。不条理だと思った。不器用な自分に強い正義感まで組み込まれているなんて。
しかし、くよくよしているとまた自分や誰かを責め始める。ならば、受け入れて正しさを求める気持ちを緩和する他にない。ほどほどを目指してこれで良いと私をなだめる。私にとって、これは逃れられないこと。
「うぅ、何か暗い話になったな。でも、本心だし、上手も下手も無いよね」
彼は自分の気持ちを素直に吐き出すことを覚えたようです。
「また明日」
一日一冊の絵本の読み聞かせ
明日はどんなお話かな
楽しみにしながら夢の中へ
「透明」
透明なものに触れたかった幼い頃。
透明なものに色が入るのを怖がるこの頃。
創作 「理想のあなた」
全ての分野を完璧にこなすのは、まさに雲を掴むような話だ。 かといって、特定の分野で活躍を続けることができるのはほんの一握りの人だろう。
わかっているのに、理想を描くのはなぜなのか。あなたのコピーには成りたくないと、主張した所で今の私が嫌で仕方ないから虚しいものだ。
おそらく理想は劣等感の裏返しなのかもしれない。あるいは劣等感が理想を生むのか。どちらにせよ、自身に求めることが増える程、理想も大きくなる。結局、自分だけでは完結できなくて、身近な人や他人にまで理想を抱くようになる。
理想を抱くだけならまだしも、押し付けられたらたまったものではない。いちいち失望され、自分でも嫌悪し、さらに失望され、また自己嫌悪。
こんな悲しいループが起こるくらいなら、始めから達成できる目標を立てて地道に進む方が確実だと私は思う。
「っと、こんなもんだな。まだ改善できそうだけど今日はこれくらいで良いや」
彼の作文の上達はまだまだ先になりそうです。
創作「突然の別れ」
大人しそうな男子生徒は、目の前にいる憧れの彼女の言葉に耳を疑った。彼女は便箋を置いて照れたように口を開く。
「だーかーらぁ、お友達になろうって言ってるの。何度も言わせないでよ」
以前、彼は彼女から恋文を突っぱねられ盛大に振られていた。だが、彼女の「二度と現れないで」の言葉を聞かないふりをした彼は、書き直した恋文を携え彼女のもとを訪れたのだった。
「友達になって良いのか、本当に?」
「もちろん。でないと、きみは何度も来るでしょ。ま、今日からよろしくね」
そう言い、彼女は明るく握手を求めた。彼は戸惑いつつも朗らかな表情で手を握り返す。後日、大人しそうな男子生徒は自ら文芸部へ編入した。そして彼女との友情を勝ち取り、学校生活を送っているのだった。
一連の出来事は大人しい彼のかつての自分との別れであった。まさか彼女から友達になってくれるとは思っていなかった彼にとって、まさに突然の別れと言えるのであった。
(完)