谷折ジュゴン

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4/20/2024, 12:20:12 PM

「何もいらない」

何もいらないことはないよ。だけどね、欲しいものは沢山あったはずなのに、ほとんど忘れてしまったんだ。

「必要か必要じゃないか。欲しいけど今は保留」

そんなことばかりしてたら、欲しいものをパッと思いつけないことが増えちゃった。

たとえ思いついても欲しいものを実現する前に、欲しい理由を考えてしまってね。必要なかったらそのまま忘れてそれきりだ。まあ、もどかしいね。

だからね、自分は何もいらないとしか言い様がないんだよ。

4/19/2024, 10:55:33 AM

創作 「もしも未来を見れるなら」

友人の家へ着くと彼女は、分厚い文献の頁をめくってはノートを録っていた。床には難しい内容が書き込まれたルーズリーフが沢山散らばっている。

「凄い、これ全部調べたの?」

一枚を拾い上げ、わたしは感心する。コピーされた写真や文章が張り付けてあり、その横に友人の補足情報が丁寧にまとめられているのだった。

「物語の創作は主人公たちの未来を見通す作業だからね、伏線にも説得力を持たせたいの」

わたしは未来を見ずともわかる。友人の創作への情熱は失せることはないと。そして、友人が書くものは必ず「おいしくなる」のだと。
(終)

4/18/2024, 8:10:48 PM

「無色の世界」

墨の濃淡で描かれた水墨画。

白黒な絵と、台詞と擬音語で構成される漫画。

挿し絵の全くない小説や詩。

モノクロ写真、モノクロの映像。

奥深き、色彩の無い世界。

見る側に空想の余地を与えてくれる。

4/17/2024, 12:42:44 PM

創作 「桜散る」

いなりさまのおつかいで、田畑の様子を視察していた新米きつねは、 とある老夫婦のもとを訪れた。
二人は水路に溜まった桜の花弁をさらい、田をおこす準備をせっせとおこなっている。おばあさんが作業の手を止めて、畦道に腰をおろした。そして、新米きつねと目が合う。

「おや、白ぎつね。珍しいわぁ」

おじいさんはおばあさんの視線の先をたどり、少し首を傾げた。だがすぐに、にこりと笑って田を耕す。

「今年の米は豊作でしょうなぁ」

おじいさんはそう言い、鍬を振るう手を止めて遠くに目をやる。桜の花弁が風に乗ってはらはらと舞い踊っている。

「そうでしょうねぇ。ありがたいですねぇ」

おばあさんは水筒のお茶を飲み、目を細める。
おじいさんが再び、新米きつねがいる辺りを振り返った。やはり、視線はずれていたが、おばあさんと過ごせる日々への感謝をささやいて、仕事に戻って行く。

「ふふ、嬉しいわぁ」

わたしにしかあなたは見えないのと、おばあさんは新米きつねにこっそり言い、田おこしに戻って行ったのだった。

(終)

4/16/2024, 11:13:32 AM

創作 「夢見る心」

あれから嫌な夢ばかりみていると、詩人はこぼす。各国の王や大貴族の耳ばかりを悦ばせるのはうんざりだとも。寡黙な音楽家はギターを調律する手を止めて詩人の話を聞いていた。すると、詩人は、わずかに雲のかかる夜空を仰ぎながら続ける。

「夢を忘れてふんぞり返る奴らへのごますりなんて、俺の本望じゃないんだ!」

そして、ふん、と鼻を鳴らし、酒が揺らぐカップに目を落とす。しばらくの沈黙の後、苦し気に言葉を吐いた。

「しかし、皮肉なもんだが、俺らがこうして食うに困らず音楽の旅ができてるのは、奴らの財布から出たもののおかげなんだよな」

わずかに残った琥珀色の酒をあおった詩人は、乱暴にカップを置いて、テントに入っていく。 随分やさぐれた物言いだったと、音楽家は肩をすくめ、ギターの調律に専念する。ふと、音楽家の脳裏にとあるメロディーがよみがえった。調律したばかりのギターを抱え直して、弦を弾く。

粒のようだった音はみえない糸にとおされ、一纏まりの曲となった。素朴でわずかに光る、おもちゃのブレスレットのような音楽が辺りを穏やかに囲う。

詩人はテントの中で、音楽家のギターの呟きを聴いていた。二人がまだ子どもだった頃に夢中で作った曲のひとつ。やがて、その音色を枕に詩人は寝息をたてるのだった。
(終)

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