谷折ジュゴン

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創作 「夢見る心」

あれから嫌な夢ばかりみていると、詩人はこぼす。各国の王や大貴族の耳ばかりを悦ばせるのはうんざりだとも。寡黙な音楽家はギターを調律する手を止めて詩人の話を聞いていた。すると、詩人は、わずかに雲のかかる夜空を仰ぎながら続ける。

「夢を忘れてふんぞり返る奴らへのごますりなんて、俺の本望じゃないんだ!」

そして、ふん、と鼻を鳴らし、酒が揺らぐカップに目を落とす。しばらくの沈黙の後、苦し気に言葉を吐いた。

「しかし、皮肉なもんだが、俺らがこうして食うに困らず音楽の旅ができてるのは、奴らの財布から出たもののおかげなんだよな」

わずかに残った琥珀色の酒をあおった詩人は、乱暴にカップを置いて、テントに入っていく。 随分やさぐれた物言いだったと、音楽家は肩をすくめ、ギターの調律に専念する。ふと、音楽家の脳裏にとあるメロディーがよみがえった。調律したばかりのギターを抱え直して、弦を弾く。

粒のようだった音はみえない糸にとおされ、一纏まりの曲となった。素朴でわずかに光る、おもちゃのブレスレットのような音楽が辺りを穏やかに囲う。

詩人はテントの中で、音楽家のギターの呟きを聴いていた。二人がまだ子どもだった頃に夢中で作った曲のひとつ。やがて、その音色を枕に詩人は寝息をたてるのだった。
(終)

4/16/2024, 11:13:32 AM