創作 「桜散る」
いなりさまのおつかいで、田畑の様子を視察していた新米きつねは、 とある老夫婦のもとを訪れた。
二人は水路に溜まった桜の花弁をさらい、田をおこす準備をせっせとおこなっている。おばあさんが作業の手を止めて、畦道に腰をおろした。そして、新米きつねと目が合う。
「おや、白ぎつね。珍しいわぁ」
おじいさんはおばあさんの視線の先をたどり、少し首を傾げた。だがすぐに、にこりと笑って田を耕す。
「今年の米は豊作でしょうなぁ」
おじいさんはそう言い、鍬を振るう手を止めて遠くに目をやる。桜の花弁が風に乗ってはらはらと舞い踊っている。
「そうでしょうねぇ。ありがたいですねぇ」
おばあさんは水筒のお茶を飲み、目を細める。
おじいさんが再び、新米きつねがいる辺りを振り返った。やはり、視線はずれていたが、おばあさんと過ごせる日々への感謝をささやいて、仕事に戻って行く。
「ふふ、嬉しいわぁ」
わたしにしかあなたは見えないのと、おばあさんは新米きつねにこっそり言い、田おこしに戻って行ったのだった。
(終)
4/17/2024, 12:42:44 PM