二人ぼっち
私は長女 下には双子の妹がいる
父は幼い頃に亡くなり
母はシングルマザーとなった
生活などの資金面は父母の両家から
援助してもらっていたようだが
それでも母は忙しくしていた
そんな母を見ていたから
なんとなく家事を手伝うようになった
私は地元の会社に就職し
双子の妹達は高校を卒業後
希望していた他県の大学に進学した
その年の暮れ世界的に流行った
ウイルスのせいで妹達が地元に戻れないと
連絡があった
母はとても落ち込んでいたが
私はふと思った
母と二人きりなんて、いつ以来だろう?
多分そうなかったような…
いろいろ考えたけれど
滅多にないことだ
母を独り占めできるだなんて
母と私の二人ぼっち
嬉しくてたまらない
不条理
難しいテーマですね…
不条理だと嘆くより
不条理に満ちてる世の中だと
理解して前に進んでいく
道理などそう通らない
この世の中で私達は
生きているのだから
泣かないよ
ある日のこと
駅のホームにあるベンチに座り
脇には仕事用の大きなバックを置いて
電車が来るのを待っていた
そこに、小学校4、5年生くらいの男の子と
その母親がやってきた
男の子は辺りを見回し
私のところへやってきて言う
「おじさん、そのバックどいて」
そして立て続けに言う
「母ちゃん、そこに座って電車待ってて」
母親は一例してそこに座る
その日をさかいにその親子を何度か見かけるようになった。
母親とは時々会釈をかわすくらいになっていた
男の子はと言えば空いてる席を見つけて
「母ちゃん、そこに座ってて」
と言わんばかりに空いてる席を指さし、時には手をひいて母親を座らせている
それから数ヶ月
その親子を見かけなくなった
さらに時は流れてあの男の子が一人で駅にいた
男の子も私に気づいたようだった
「今日は一人?お母さんは?」
と聞くと
「母ちゃん、死んじゃったんだ」
と言う
もともと病気しがちで体が弱い母親だったらしく
入退院を繰り返していたらしい
駅のベンチに座らせていたのも
体を休ませるためだったそうだ
私はなんと声をかけてよいか分からずにいると
「僕は泣かないよ。だって強いから」
そう言って微笑んだ
男の子の目には、
うっすらと涙が浮かんでいた
終わり
同情
ある日の夕方スーパーで買い物を済ませ
店を出たところで声をかけられた
振り向くと
遠縁の親戚にあたる叔母がいた。
「叔母さん、お久しぶりです。」
『ええ、ほんとにお元気?』
叔母さんとは疎遠になっていたが
どうやら近くに住んでいるようだ
続けて叔母が言う
『ねえ、今、いい人がいるかしら?もし、いなかったら是非会って欲しい人がいるのよ。』
実際のところ彼氏はいないし、むしろ仕事の方が楽しいが、叔母の頼みだ断れまい
一度会って後で断ればいい…そう思い
会うことにした。
叔母はたいそう喜んでくれた。
『挨拶もしっかりできて好青年なのよ』
はあ…など思いつつ
「いつ、どこに伺えばよろしいですか?」
と聞くと
『そうねえ、今週末の午後9時に私の家に来てくださる?』
「9時ですか、わかりました」
お相手も仕事で忙しい方なのだろう
叔母の住所を教えてもらい
その日はそれで別れた
そうして当日
9時少し前に叔母の家に着いた
「叔母さん、こんばんは」
『あら、いらっしゃい。さあ上がって。もうすぐ来ますから』
相手はまだ来ていないようだ
手土産を渡して、ただひたすら来るのを待った
テレビはN○Kの番組が流れている
もうすぐ9時だ
それにしても遅いななど思っていると
テレビの中の男性が言う
「午後9時になりました、こんばんはニュースキャスターの…」
叔母はテレビに向かって挨拶をしている
『はい、こんばんは』
『ね、素敵な方でしょ。あなたにピッタリだと思ってね…』
私は、同情や哀れみで感情がごちゃごちゃになった。
叔母が一人ニュースキャスターの話しに相槌を打っていることがいたたまれなくなり
叔母に声すらかけずその場を後にした
手を繋いで
私と夫はお見合い結婚でした
初めて手を繋いだのは
私が人ごみの中で夫を見失いそうになり
手をひいてくれたのが
最初です
夫とは国内を観光もしましたが
もたもたしている私の手をひいて
あっちこっちと
手を繋いで歩き回ったものです
子供ができてからは
子供中心の生活になりましたが
その子供達もそれぞれに結婚し独立して
また二人の生活になりました
そして私達も歳をとったのです
夫も定年退職をし第二の人生を
楽しんでいました
私が病気をして、以後歩くときふらつくことがあり
夫はたまらず手を繋いで歩いてくれました
買い物に行く時も
朝の散歩も
「昔に戻ったみたいね」と言うと
『そうか…』とテレる夫
「私は、これからもずっと手を繋いで歩きたいな」
『だな、お前は危なっかしいから』
ガハハハと笑ってごまかす
照れ屋な夫は愛しくもある
今も夫と手を繋いで歩く
夫と何気ない会話をして歩く
私のささやかな幸せです
読んでいただきありがとうございました。