かおる

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10/8/2025, 11:40:26 AM

愛する、それ故に


私は大学を卒業後、大手広告代理店に勤めた。
仕事に情熱を傾けていて、結婚などしようと思わなかった。30歳になるころには、課長代理まで登りつめていた。ちょうどこの頃、ある男性にもうアプローチされていて、押しに負けて何度かデートをした、この人なら結婚してもいいのかな?と頭をかすめていたタイミングで彼からプロポーズされ、私は結婚することになる。仕事は辞める気がなかったし、その事は夫になった彼も理解してくれていたので、日々仕事に明け暮れていた。

結婚して4年を過ぎたころ、私は取引先からの帰り道
体調を崩して、救急車で搬送された。
疲れが溜まっていたのだろうと軽く考えていたはずが、全然違った。癌を煩い、余命宣告を受けた。
『2年』それが私に与えられた時間だった。

息を切らしながら夫が病室にやってきた。
夫は、「余命宣告を受けたからって、それ以上に長生きしてる人も沢山いるよ」と、励ましてくれる。
「二人で乗り越えよう」と、微笑みを浮かべている。

私は、夫に「あなた、ごめんなさい、別れて下さい」そう、告げる。夫は驚いた顔をして私を見る。
「ちゃんと、聞いてほしいの」私は静かに話し出す。
「あなたと出逢う前、私には付き合っていた男性がいたのよ。取引先の人でB さんとしておくわ。その人のことが本当に好きだったの。でもね、その人には家族がいたの。家族がいるんですもの別れるしかないって、そう思って別れたのよ。それが26の時。その後にあなたに会うことになるわ、結婚が決まったことを、Bさんが聞きつけたらしくて連絡をくれたのよ。『お祝いさせて欲しい』って、私は数年ぶりにBさんと二人で会ったの。」

夫は、椅子に腰掛けただ耳を傾けている

「Bさんはレストランを予約してくれていて、美味しい食事とワイン。私は、酔ったのか『あの頃は本当にBさんが好きだったわ』とつい言ってしまったの。そうしたらBさんも『僕もだよ』と、そこから私とBさんはホテルに行ったのよ。そこからは止まることなく仕事と偽り会いつづけたの。あなたに内緒で私はずっとBさんと会いつづけたの。3ヶ月前になるかしらBさんから『子供も成人したし、妻と別れて君と一緒にいたいんだ。ついてきてくれないか』と言われたの。そこに私の余命宣告の話でしょう。私は真剣に考えた。この時間を誰と過ごしたいか私が愛する人は誰なのか」

夫は、うつむいて聞いていた。そしてぽそっと
「答えは出たかい?」と今度は私の顔を見る

「あなた、ごめんなさい。私はBさんと一緒に残りの時間を過ごしたい。まだ返事は来てないけど私の病気の事や余命宣告を受けた事もメールで伝えてあるわ。」
夫は、泣き笑いぐしゃぐしゃな顔をしていた。
「今日は、冷静に話なんかできない」そう言って部屋から飛び出していった。

現在、夫とは離婚の話が進んでいる。
けど、Bさんからはいまだに返事が来ない。
愛する、それ故に
夫との別れを選択し、自分に正直になっただけなのに、いつまで返事を待つのだろうか…
悲しみに暮れながら病室のベッドに横たわり、いつ返事が来るかわからないメールを待ちわびている

10/5/2025, 12:48:27 PM

ムーンライト


15年前の大学生だった頃のこと
仲間内で信州に休みを利用して夏山登山をしに行った

「♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら云える…♪」
彼女が呑気に歌ってる
「こらこら、それはムーンライト伝説
歌でしょ。僕らはムーンライト信州に乗ってるの」
「もー、そんなふうに言わないでよ。楽しみ過ぎてテンション上がってるのよ」
頬を膨らませた彼女が僕を見てる
「あはは…はいお菓子」彼女に一つ渡す
「もー、これはクッキーのムーンライト!」
二人で顔を見合わせて笑った

なんで、この電車に乗ってるかというと
本格的な就職活動を前にして登山好きなメンバーで
思いでづくりと言うと大げさだけど、ま、集まったわけです。
メンバーは僕らを含めて4人
A子、D君、彼女、僕
今日はレンタカーを借りて、観光して
明日、朝から一泊2日で登山する予定になってる

昼過ぎ信州白馬駅到着
「さ、思い切り楽しもう!」
そう言ったのは我がリーダーD君だ
「だね!」みんなワクワクしていたんだ

夜になって雑誌で評判の店で食事しながら少し酒も飲んで
明日の登山も楽しみだねと話していたんだけど…
僕らは登山の話になると盛り上がりすぎる

「あ、もうそろそろホテルに行こうよ。明日、朝早いし」彼女が腕時計を見ながら言う
「うわっ、もうこんな時間、早くホテルに行こう」
D君もビールを飲み干していそいそ立ち上がる
随分と話し込んでいたようだ

その後、ホテルに行き
やっぱり話足りなかったので、もう少しだけ話すことにした
登山の話で盛り上がっていたのに
酔ったA子が話をガラリと変えた
「ねー僕君知ってた?彼女ちゃんとD君って昔付き合ってたんだよ。私からとったの!知ってた?なのにあっさり捨てたんだよ。さいてーな女だって思わない?」声高らかに話してる

「やめてよ、そんなふうに言わないでよ。昔のことだよ」彼女が遮る

「そうだよ、やめろよ。」D君も顔をしかめてる

僕は初めて聞いた話だった。

「何よD君、まだ未練あるんじゃない?どこがいいのよ呆れる。私さ、あれだけ尽くしたのにね」
A子はギろっとD君を睨み付けながら酒を飲み干す

「ちょっとあんたいい加減にしなさいよ」彼女が静かな口調で言う。
D 君も「A子やめろよ、酒癖悪いんだよ。僕君、ごめんな」そう言ってA子を部屋へ連れて行こうと腕をつかむ。A子はその手を振りほどいて彼女につかみかかった。
「あんたなんか、あんたなんか、居なくなればいい!」
もみくちゃになって、ガンと音がして
A子はテーブルの角に頭を打ち付つけた
僕らはA子を数秒黙って見ていたと思う

A子が目を開いたまま動かない

「どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの」
動揺を隠せない彼女、しかも震えて泣いている

「とにかく、警察に電話しよう」
僕がそう言うと
「イヤよ、私にはやりたい事があるの!ここで終わりたくない!」
「犯罪者になりたくない!」
彼女は泣きながらそう言う
「でもさ…」彼女を見つめながら僕が困っていると

『隠そう』とD君が僕らを見て言った

「何言ってるんだよ。警察に…」D君は僕を遮るように続けて話す
『俺もね、終わりたくないの。大手から内定貰えるかも知れないのに困るよ。僕君も同じ気持ちじゃないかな?』

僕も、正直ここで終わりたくなかった。

こうして僕ら3人は、A子の死体を隠すことになった。

A子をシーツにくるんで、テントの袋の中身を全て出し、A子をその中に入れた。車にA子と荷物を押し込んで、後は山に運ぶだけだ。
朝早くホテルを出発して、登山開始
A子は僕とD君で交代しながら運んだ。

そして、人気ない所でしかも見つかることのなさそうな崖からA子を落とし捨てた。
あとは、普段通りに山を登りテントを張ってビバーク。アリバイとか考えながら話をして過ごした。

A子は他県からやってきた人で、大学に通うため一人暮らしをしていたこと。大学で特別親しい友人もいなかったこと。今回の登山の話は、A子の両親も知らなかったようで捜索願いを出したのも遅くなり、そして発見されることはなかった。


あれから15年、大学を卒業した僕らは連絡を取ることもなかったし、彼女は元彼女になっていた。
A子のことも忘れていた
現在の僕は結婚もして、忙しく働いている。

先日、家でテレビを見ながら食事をしていると
ニュースが流れた
「白馬村にある○○山で白骨が発見された」と…
まさか、A子じゃないよな…
これから捜査が始まるんだよな…
忘れていた記憶が一気に蘇って気が気じゃない日々を過ごしている



長文乱文失礼しました




10/3/2025, 10:50:35 AM

誰か

私には片思いをしてる男性がいる。
少年のようにクスッと笑う彼に
長いこと片思いしているのだ

この彼がなかなか私の気持ちに
気づいてくれない
それどころか、女として見てくれているか
疑問さえ感じる

先日、二人で食事に行き酒を飲んだ
その帰り道
「○○君の家に行きたいなー」と思いきって言ってみたら
「あ、うん、いいよ」と言ってくれたので

『よっしゃあああ』と内心喜んだ

彼の家で、少しおしゃべりをして
私は酔ったふりをした
「ねぇ○○君、私酔ったみたい。このまま泊まっていいかな?」と聞いたら

『いいよ、ベッドで寝なよ』と言う

私はベッドに潜り込んで彼の様子を伺ってみる
「○○君は、隣で寝るんだよね?」なんて、からかいつつドキドキしながら聞いたのに

彼は違った
長袖、長ズボンに着替えだして
ニコニコしながら言う
『これから○○山にカブトムシ取りに行くんだよ。朝まで戻らないから、ゆっくり寝てていいからね』

『じゃあね!行ってきます!』

彼はこんな調子の人なのです
連休中に会えないかな?と連絡しても
○○川に釣りに行くから無理とか
二人きりになれても、虫や魚の話ばかり
恋愛になかなか発展しない

ああ、困った

誰かー
彼を振り向かせる方法
教えてー( ;∀;)

12/12/2024, 7:16:24 AM

何でもないフリ


(いつも君はニコニコして
笑ってる

知ってるかい?
笑顔が多い人って
案外、辛い経験してるんだよ
だから君も何かを乗り越えて
その上での笑顔なんでしょ
だから優しくもあり
深みのある暖かい眼差しだよね

君の過去には触れないけど
君の笑顔を僕は守るよ)



「あれ?今日何かあったの?ごはん減ってないよ」
彼女が言う

君をぼんやり見ながら考えてたこと
言うのもためらうからね

「いや、何でもない」
僕は何でもないフリをした

8/25/2024, 3:22:15 PM

向かい合わせ


通勤電車で、ほぼ毎日会う女性がいた
彼女は綺麗な人で
見るたび幸せな気分になっていた

ある日、僕は座席に座っていて
彼女はつり革につかまり
向かい合わせになった

一瞬、彼女と目が合った
彼女は頬を赤く染め
少し目線を外し照れくさそうにしていた

これは声をかけるチャンスかも知れないと
内心ドキドキしていた
すると彼女に「あの…」と
声をかけられ一枚の紙を手渡された
もしやラブレターかな?など期待しながら
紙を開き読んでみると


「ズボンのチャックが開いてますよ」
と、書かれてあった

あわてて確認してみると
チャックが全開になっていた

ただ恥ずかしいだけの話


読んでくださりありがとうございました


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