かおる

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ムーンライト


15年前の大学生だった頃のこと
仲間内で信州に休みを利用して夏山登山をしに行った

「♪ごめんね素直じゃなくて
夢の中なら云える…♪」
彼女が呑気に歌ってる
「こらこら、それはムーンライト伝説
歌でしょ。僕らはムーンライト信州に乗ってるの」
「もー、そんなふうに言わないでよ。楽しみ過ぎてテンション上がってるのよ」
頬を膨らませた彼女が僕を見てる
「あはは…はいお菓子」彼女に一つ渡す
「もー、これはクッキーのムーンライト!」
二人で顔を見合わせて笑った

なんで、この電車に乗ってるかというと
本格的な就職活動を前にして登山好きなメンバーで
思いでづくりと言うと大げさだけど、ま、集まったわけです。
メンバーは僕らを含めて4人
A子、D君、彼女、僕
今日はレンタカーを借りて、観光して
明日、朝から一泊2日で登山する予定になってる

昼過ぎ信州白馬駅到着
「さ、思い切り楽しもう!」
そう言ったのは我がリーダーD君だ
「だね!」みんなワクワクしていたんだ

夜になって雑誌で評判の店で食事しながら少し酒も飲んで
明日の登山も楽しみだねと話していたんだけど…
僕らは登山の話になると盛り上がりすぎる

「あ、もうそろそろホテルに行こうよ。明日、朝早いし」彼女が腕時計を見ながら言う
「うわっ、もうこんな時間、早くホテルに行こう」
D君もビールを飲み干していそいそ立ち上がる
随分と話し込んでいたようだ

その後、ホテルに行き
やっぱり話足りなかったので、もう少しだけ話すことにした
登山の話で盛り上がっていたのに
酔ったA子が話をガラリと変えた
「ねー僕君知ってた?彼女ちゃんとD君って昔付き合ってたんだよ。私からとったの!知ってた?なのにあっさり捨てたんだよ。さいてーな女だって思わない?」声高らかに話してる

「やめてよ、そんなふうに言わないでよ。昔のことだよ」彼女が遮る

「そうだよ、やめろよ。」D君も顔をしかめてる

僕は初めて聞いた話だった。

「何よD君、まだ未練あるんじゃない?どこがいいのよ呆れる。私さ、あれだけ尽くしたのにね」
A子はギろっとD君を睨み付けながら酒を飲み干す

「ちょっとあんたいい加減にしなさいよ」彼女が静かな口調で言う。
D 君も「A子やめろよ、酒癖悪いんだよ。僕君、ごめんな」そう言ってA子を部屋へ連れて行こうと腕をつかむ。A子はその手を振りほどいて彼女につかみかかった。
「あんたなんか、あんたなんか、居なくなればいい!」
もみくちゃになって、ガンと音がして
A子はテーブルの角に頭を打ち付つけた
僕らはA子を数秒黙って見ていたと思う

A子が目を開いたまま動かない

「どうしよう、どうしよう、どうしたらいいの」
動揺を隠せない彼女、しかも震えて泣いている

「とにかく、警察に電話しよう」
僕がそう言うと
「イヤよ、私にはやりたい事があるの!ここで終わりたくない!」
「犯罪者になりたくない!」
彼女は泣きながらそう言う
「でもさ…」彼女を見つめながら僕が困っていると

『隠そう』とD君が僕らを見て言った

「何言ってるんだよ。警察に…」D君は僕を遮るように続けて話す
『俺もね、終わりたくないの。大手から内定貰えるかも知れないのに困るよ。僕君も同じ気持ちじゃないかな?』

僕も、正直ここで終わりたくなかった。

こうして僕ら3人は、A子の死体を隠すことになった。

A子をシーツにくるんで、テントの袋の中身を全て出し、A子をその中に入れた。車にA子と荷物を押し込んで、後は山に運ぶだけだ。
朝早くホテルを出発して、登山開始
A子は僕とD君で交代しながら運んだ。

そして、人気ない所でしかも見つかることのなさそうな崖からA子を落とし捨てた。
あとは、普段通りに山を登りテントを張ってビバーク。アリバイとか考えながら話をして過ごした。

A子は他県からやってきた人で、大学に通うため一人暮らしをしていたこと。大学で特別親しい友人もいなかったこと。今回の登山の話は、A子の両親も知らなかったようで捜索願いを出したのも遅くなり、そして発見されることはなかった。


あれから15年、大学を卒業した僕らは連絡を取ることもなかったし、彼女は元彼女になっていた。
A子のことも忘れていた
現在の僕は結婚もして、忙しく働いている。

先日、家でテレビを見ながら食事をしていると
ニュースが流れた
「白馬村にある○○山で白骨が発見された」と…
まさか、A子じゃないよな…
これから捜査が始まるんだよな…
忘れていた記憶が一気に蘇って気が気じゃない日々を過ごしている



長文乱文失礼しました




10/5/2025, 12:48:27 PM