かおる

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愛する、それ故に


私は大学を卒業後、大手広告代理店に勤めた。
仕事に情熱を傾けていて、結婚などしようと思わなかった。30歳になるころには、課長代理まで登りつめていた。ちょうどこの頃、ある男性にもうアプローチされていて、押しに負けて何度かデートをした、この人なら結婚してもいいのかな?と頭をかすめていたタイミングで彼からプロポーズされ、私は結婚することになる。仕事は辞める気がなかったし、その事は夫になった彼も理解してくれていたので、日々仕事に明け暮れていた。

結婚して4年を過ぎたころ、私は取引先からの帰り道
体調を崩して、救急車で搬送された。
疲れが溜まっていたのだろうと軽く考えていたはずが、全然違った。癌を煩い、余命宣告を受けた。
『2年』それが私に与えられた時間だった。

息を切らしながら夫が病室にやってきた。
夫は、「余命宣告を受けたからって、それ以上に長生きしてる人も沢山いるよ」と、励ましてくれる。
「二人で乗り越えよう」と、微笑みを浮かべている。

私は、夫に「あなた、ごめんなさい、別れて下さい」そう、告げる。夫は驚いた顔をして私を見る。
「ちゃんと、聞いてほしいの」私は静かに話し出す。
「あなたと出逢う前、私には付き合っていた男性がいたのよ。取引先の人でB さんとしておくわ。その人のことが本当に好きだったの。でもね、その人には家族がいたの。家族がいるんですもの別れるしかないって、そう思って別れたのよ。それが26の時。その後にあなたに会うことになるわ、結婚が決まったことを、Bさんが聞きつけたらしくて連絡をくれたのよ。『お祝いさせて欲しい』って、私は数年ぶりにBさんと二人で会ったの。」

夫は、椅子に腰掛けただ耳を傾けている

「Bさんはレストランを予約してくれていて、美味しい食事とワイン。私は、酔ったのか『あの頃は本当にBさんが好きだったわ』とつい言ってしまったの。そうしたらBさんも『僕もだよ』と、そこから私とBさんはホテルに行ったのよ。そこからは止まることなく仕事と偽り会いつづけたの。あなたに内緒で私はずっとBさんと会いつづけたの。3ヶ月前になるかしらBさんから『子供も成人したし、妻と別れて君と一緒にいたいんだ。ついてきてくれないか』と言われたの。そこに私の余命宣告の話でしょう。私は真剣に考えた。この時間を誰と過ごしたいか私が愛する人は誰なのか」

夫は、うつむいて聞いていた。そしてぽそっと
「答えは出たかい?」と今度は私の顔を見る

「あなた、ごめんなさい。私はBさんと一緒に残りの時間を過ごしたい。まだ返事は来てないけど私の病気の事や余命宣告を受けた事もメールで伝えてあるわ。」
夫は、泣き笑いぐしゃぐしゃな顔をしていた。
「今日は、冷静に話なんかできない」そう言って部屋から飛び出していった。

現在、夫とは離婚の話が進んでいる。
けど、Bさんからはいまだに返事が来ない。
愛する、それ故に
夫との別れを選択し、自分に正直になっただけなのに、いつまで返事を待つのだろうか…
悲しみに暮れながら病室のベッドに横たわり、いつ返事が来るかわからないメールを待ちわびている

10/8/2025, 11:40:26 AM