泣かないよ
ある日のこと
駅のホームにあるベンチに座り
脇には仕事用の大きなバックを置いて
電車が来るのを待っていた
そこに、小学校4、5年生くらいの男の子と
その母親がやってきた
男の子は辺りを見回し
私のところへやってきて言う
「おじさん、そのバックどいて」
そして立て続けに言う
「母ちゃん、そこに座って電車待ってて」
母親は一例してそこに座る
その日をさかいにその親子を何度か見かけるようになった。
母親とは時々会釈をかわすくらいになっていた
男の子はと言えば空いてる席を見つけて
「母ちゃん、そこに座ってて」
と言わんばかりに空いてる席を指さし、時には手をひいて母親を座らせている
それから数ヶ月
その親子を見かけなくなった
さらに時は流れてあの男の子が一人で駅にいた
男の子も私に気づいたようだった
「今日は一人?お母さんは?」
と聞くと
「母ちゃん、死んじゃったんだ」
と言う
もともと病気しがちで体が弱い母親だったらしく
入退院を繰り返していたらしい
駅のベンチに座らせていたのも
体を休ませるためだったそうだ
私はなんと声をかけてよいか分からずにいると
「僕は泣かないよ。だって強いから」
そう言って微笑んだ
男の子の目には、
うっすらと涙が浮かんでいた
終わり
3/17/2024, 10:30:13 AM