8木ラ1

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3/15/2024, 3:17:11 PM

「わーきれい」
「本当に星を見るのがお好きなようで。」
貴方は届くはずもない小さな星に手を伸ばす。
私は缶コーヒーを一口飲んだ。
「僕飲めないから羨ましいなぁ」
私の方に振り向いてはにかむ。その言葉に理解出来なかった私は首を傾げた。
「何故羨ましいと感じるのですか?貴方は苦いと味が感じれる、好きか嫌いか自分で分ける事が出来ます」
淡々と疑問を口に出した私に貴方は悲しそうな表情をする。貴方はオレンジジュースを握りしめながらゆっくりと口を開いた。
「ごめん、今のは失言だった」
「そんな、謝らないで下さい。誠実に疑問に思ったのです」
責めるつもりはなかったので彼の謝罪に戸惑う。
オレンジジュースを一口飲むと貴方はまた話し出した。
「君にこの感覚を分かってほしいな、人間になる予定とかないの?」
私は手に顎を乗せ考える。
人間に何か特別な印象はないが興味は少々あった。私の中に感情は存在するが人間ほどではない。
考える私に貴方は黙って返事を待つ。
「そうですね、考えてみます」
「やったぁ!」
ふふっと笑う私を見て貴方はより嬉しそうに微笑む。コーヒーをゆっくりと喉に流す。貴方は目線を星空に戻した。だが、星を見つめる横顔は何処か寂しそうだった。
「そろそろ行っちゃうの?」
すると今にも消えそうな、かぼそい声で問う。
「えぇ。そろそろ行きますね」
私は八の字に眉をあげて答えた。指を鳴らして缶コーヒーを消し、スーツの襟を正す。
貴方を見ると静かに泣いていた。目をこする指の隙間から見えた涙。きらきらと輝く涙に思わず惹かれてしまう。
「…空を見てください、私はお星様になって貴方を見守っていますから」
慰める気持ちもあったが私の気持ちも入った言葉だった。
「星なんて溢れるほどあるんだ、君一人を見つけれないよ」
瞼を真っ赤にさせ、震えた声で貴方は叫んだ。
感情がこんなに揺さぶられる事は初めてだった。私は胸を抑えながら貴方の目を見つめる。
「ではすぐ見つけれるように一番星になってみせます、毎日」
「なんだかプロポーズみたい…笑」
貴方は笑っていたが、泣いていた。

3/13/2024, 11:28:37 AM

「あったけ〜」
やはり寒い時はストーブに限る。そう思いながらみかんの皮を剥いた。4分の1を口の中に放り込む。
甘味を堪能していると、液体に似た生き物が隣に座る。
「にゃ〜」
私は鳴き声に気付き、ちょこちょことストーブの端に移動した。可愛らしい液体は「それでよし」と、こてんと寝転がる。
もふもふでたぷたぷで柔らかいお腹に顔を埋めた。
「ん…すぅー…」
まるで焼きたてのコッペパンのような、優しいお日さまのような、この香りを吸うのが辞められない。
毎日風呂に入っていないのに獣臭くないのは改めて感心する。
「……」
「…にゃ」
「あっ…すみません…」
そろそろ不愉快と注意された為、代わりに肉球をぷにぷにした。「しょうがねーな」と言わんばかりの表情がたまらん可愛い。
だが、尖った爪が当たってちょっと痛い。爪を切ろうとすると死ぬほど嫌がられる為、手首は傷だらけだった。

肉球を吸っていると着信音が鳴る。
すぐにスマホの画面を見る。友人からだった。
「はいー?」
『明日空いてるなら飲もーぜ』
「いいね」
わちゃわちゃと談笑しながら明日の予定を決める。
ある程度決まり、またねと電話を切った。

(予定も出来た事だし今日は早めに寝るかぁ)
もう一つのみかんを食べて布団を敷く。
すると液体は喉を鳴らしながら布団の中に入ってきた。
「かんわいーなー、お前はいつも隣にいてくれるな」
嬉しさに浸りながら私達は共に眠りについた。

3/13/2024, 2:07:09 AM

数学の事ならもっと知りたい。
新しい公式見つけたい。
毎日、休憩を挟みながらも五時間、図書館で勉強している。家ではもちろんその倍だ。

いつも通り図書館で勉強していると、隣の席に女の子がやってきた。ふわりと甘いラベンダーの香りが漂う。
「よ、テルじゃん」
突然そんな事を言われる。何だこいつと思いながら隣の席を見た。
パーマのかかった茶髪に、耳につけた黒のAirPods。
彼女は学校で同じクラスの子だった。

「桐島さんってこういうとこ来るんだ」
「失礼じゃね?」
私の呟きに即ツッコむ桐島さん。

彼女はギャルだ。授業中はいつも寝ている。
彼女が勉強している所を見た事がない。

正直、私はこういう奴が苦手だ。というか大嫌いだった。
「にー…しー…ろー…」
イライラしていると、彼女は私が持ってきた本を指で数え始める。
「20冊もある、すげ」
彼女は変わらないトーンで言い、スマホをいじりはじめる。
(こんな不良に構っても時間が無駄だし)
私は無視して読書を再開した。1ページ2ページと読み終わって行く中、突然耳に何かを入れられる。
甘いラベンダーの香りが鼻をくすぐる。
いい加減にしろと彼女に振り向いた瞬間、音楽が流れ始めた。
「テルってこういうの好きそー」
私は眉間にしわを寄せる。
音楽に興味が無い為、この曲にも惹かれない


……というのはやっぱり嘘だ。

淡々とした切ないメロディに、ピアノのアクセントが入った曲。

正直、大好きだ。こういう系統の曲は家でよく聴いている。歌詞はなく、ただこの音を楽しむ感じ。
──良い。

勉強も大好きだが音楽もまぁまぁ好き。

「やっぱ好きっしょ?これ聴くと勉強捗るらしいよ」
「まぁそういうのなら聴く…他にこういう曲、知ってるなら教えろ」
「ツンデレか」
もっと知りたい。

3/5/2024, 11:06:54 AM

その日の朝、散歩をしていると空き缶が捨ててあったが拾わなかった。気になりながらもそのまま俺は帰宅した。

帰ってすぐさま床に寝転ぶ。やはり休日はゆっくりしなきゃな。そう思いながらスマホを開くと顔面に直撃。その後、しばらく顔を抑えながらうずくまっていた。

昼食の準備をしようとタンスの角にくるぶしをぶつけた。とてつもなく痛かった。いつもは滅多にぶつけないのに!

昼食を終え、気分転換に外に出たら猫の糞を踏んだ。お気に入りの靴だったので結構悲しかった。
そのまま出掛けてもいい気はしないので帰ろうとしたら雨が降り始めた。
もちろん突然の雨なので傘は持っていない為、走っ
て家に帰った。

タオルで体を拭きながらテレビをつける。
「うわぁ!?」
たまたま怖いシーンが映ったみたいで大声を上げてしまう。イライラしながらもチャンネルを変える。
するとスマホから通知音がなった。見てみるとそれは好きな人からのメッセージ。
「え!なんだろう?」
ドキドキしながらメッセージを開く。
『ごめん、明日行けない』

膝から崩れ落ちた俺は泣き叫んだ。
「たまには悪行してもいいじゃん!!」
神様は残酷だ。

3/4/2024, 6:24:11 AM

「ひなまつりらしいよ、今日」
僕は何気なく呟く。
彼は黙ったまま僕のそばに座った。彼はあまり喋らない。
まぁそこが可愛いんだけれども、ちょっぴり寂しい。
唯一声を出す瞬間は、ご飯の時だけだ。
ご飯の時間になったら必ず僕を呼んでくれる。

そんな彼を見つめながら、お雛様の形のクッキーをかじった。
「うま」
口の中でサクサクと音が広がり、飛び越える美味しさに思わず両頬を抑える。
「ほっぺ落ちてないよね!?」
そんな馬鹿な事をほざいていると、ふとご飯の事を思い出した。そろそろだろうか。
クッキーを頬張りながら、時計に目をやる。
「1分前…」
ご飯の時間まで1分前。後もう少しで彼の声が聞ける。
僕は黙ってその時間を待ちに待つ。

5…4…3…2…
時間になると同時に、愛おしい彼の声が聞こえた。
「にゃあ〜」
今日もいつもと変わらない雛祭りになりそうだ。

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