「ミッドナイトってさあ、なんかリッチじゃない?」
突然友達がそんなことを言い出した
言ってる意味がわからないね
「何がリッチだって?」
「いや、わかんないけど、言葉の響きとか雰囲気とか!」
本人もわかってないんかい
なんか曖昧なこと言ってるし
じゃあこっちは同意も否定もしかねるよ
「たとえばさ、モーニングはもちろん身近で親しみやすい感じじゃん」
「もちろんってなんだよ
共通認識みたいに言われても困るよ」
この友達はそういうところあるんだよね
自分の感覚を常識だと思っちゃうところ
身近とか言われても、私にはまったく理解できないんだけど
「アフターヌーンは、リッチまでいかないけど、なんかお洒落に食事してるイメージでしょ?」
でしょ?じゃないよ
また当然のことみたいに
というかお洒落な食事のイメージって……
「それアフターヌーンティーの影響じゃない?」
「あっ、そうかも!」
ハッとした表情をしたと思ったら、理由がわかってスッキリしたのか、爽やかな笑顔になった
「それでさぁ、ナイトはシュッとしたかっこよさみたいな、そんな感じだよね」
曖昧すぎて言ってることが理解できない
シュッとしたかっこよさって何?
と言いたいところだけど、これはなんとなくわかる気がする自分がいる
「忍者とか暗殺者とか、闇に潜んで仕事を遂行、みたいなイメージ?」
「そうそう!
まさにそれだよ!
なんだ、わかってるじゃん!」
友達は嬉しそうだけど、わかったのはナイトだけだし、これは友達の好みをある程度知っていれば簡単なことだ
「それで、その謎の感性だとミッドナイトはリッチってことなんだね」
「その通り!」
やっぱりわかんないな
私なんて深夜アニメしか浮かばないよ
「ミッドナイトのリッチ感がやっぱり、特別な気がして好きなんだよね」
どう考えても理解するのは難しいな、その感覚
感性なんて人それぞれなんだけど、どういう経緯でそういう感覚になったのかものすごく気になる
友達関係をずっと続けてれば、いつか理解できる日が来るのかな
まあ別に、気にはなるものの、理解できなくてもいいと思ってるのも事実だけどね
友人の作品が展示されるというので、とある展覧会に来た
芸術みたいなのは、僕はよくわからない
けど、展示されていた作品は僕でも超力作なんだろうとわかるものだった
見ていてなんとなく心地いい
そんな作品
友人の作品を楽しんで、他の展示も見ていこうと周っていると、ひとつの作品に目がいった
タイトルは逆光
正面を向いた人の姿が黒く塗りつぶされていて、後ろには光が差している
なるほど、逆光だな
「この作品が気になりますか?」
関係者らしきスーツを着た人が近づいてきた
「あ、はい
なんとなくですけど」
「この作品は、作者の人類への絶望を表しているんですよ」
なんだか重そうな作品だな
ちょっと面白いなと思っただけなんだけど
「作者は人類に心底絶望しているらしく、それを表現して伝えたかったそうです」
うーん、人類への絶望をみんなに伝えたかった、か
「でも、絶望してるならそもそも絶望した相手にアピールする意味あります?」
「私もそう思います
人類への未練たらたらじゃないかと
そもそも作者も人類ですからね」
自分だけ特別だと思ってるのかな?
他の人類とは違ってわかってる側だぞ、と
「なんか、そう聞くと残念というか、痛い感じがしちゃいますね」
「痛いですねぇ」
そんなふうにうなずき合っていると、ヒゲを蓄えた中年男性が笑顔で近づいてきた
なんだ?
「私の作品を好き放題言ってくれるじゃないかこの野郎!」
作者だった
怒ったような口調だけどなんか嬉しそうだな
「この人、喜んでいるのでご安心を」
関係者の人が僕に耳打ちする
まあ、怒っているようには全然見えない
なんで喜んでいるかはわからないけど
「この作品はね、人類への絶望を表しつつも、後ろから光が差している
ひとつの方向だけ見ず、振り向きさえすれば希望が見えるのだということを、自分に言い聞かせている
そんな意味もある絵なんだよ」
あー、そう聞くとなんだか自分の中の葛藤も表現した深い作品って感じがするな
「というのは建前で
そういうテーマを持たせたら深そうに見えて面白いんじゃないかと思ってノリで描いただけだ
私は別に人類に絶望してないからね
むしろ大好きだ
特に私の作品に目がいった君なんか最高!
私の作品の要は深いと見せかけた軽さとくだらなさだ!」
ものすごく軽い作品だった
でもそういうのも面白いかもしれない
「この人はなにか伝えたいとかではなく、本当に軽い気持ちで作品を製作して、それが評価されてしまう人なんですよ」
メッセージや深いテーマを持つ作品よりも、そういう作品のほうが僕の好みなのかもしれない
僕は説明を聞いてこの逆光にすごく惹かれた
「ま、もし逆光を気に入ったなら、私の他の作品もネットで調べてくれるとありがたいね
他の実物の展示は……そのうちどこかで何かやるだろ」
「今の所予定はありませんが、そのうちやるつもりではあります」
「うん、よろしく頼むよ
じゃ、私はこれで失礼するよ」
上機嫌で去っていった
作品も人柄も、面白い人だったな
「では、私も失礼します」
「あ、はい
ありがとうございました」
友人の作品を見に来たけど、思わぬ出会いがあったな
せっかくだし、ちゃんと調べてみようと思った
さて、僕はもう少し他の作品も楽しむとしよう
他にもいい出会いがあるかもしれない
「タイムマシーンが完成したぞ、助手くん!」
博士はついに狂ってしまったようだ
一昨日まで「タイムマシーンなど作ることは不可能なのだよ」なんて言ってたのに
きっと研究に没頭しすぎて頭をやられてしまったんだろう
「そうですか
では明日病院に行きましょう
大丈夫、博士ほどの人なら治療すればすぐ元通りです」
「ぶん殴るぞ助手くん
私が製法を手にし、昨日から徹夜して完成させたというのに、病気扱いとは」
なんてことだ
きっと博士はガラクタを作って、それをタイムマシーンだと思いこんでるんだ
可哀想に
僕がもっとしっかりしていればこんなことには……
「本当に蹴り飛ばすぞ助手くん」
「だって博士はタイムマシーンが不可能であることを証明したじゃないですか」
その時、僕は心底安心したのでよく覚えている
タイムマシーンは歴史改変とかの心配があったからだ
「確かに私は証明した
しかし、それは方法のひとつ
法則のひとつに過ぎないのだよ
別の法則を利用すれば可能であることがわかった
そしてタイムマシーンは完成したわけだ!」
そんなバカな
仮に実現したとして、一回徹夜しただけで完成するはずがない
「一日でそんなもの、開発できるんですか?」
「不可能に決まっているだろう
法則がわかっても、様々な手順、段階を踏んで、成功と失敗を繰り返し、長い時間をかけねばそんな高度なものは作れんよ」
何言ってるんだこの博士は
「でも、完成したんですよね?」
「完成した
しかし私は完成させただけで、ほとんど作っていない」
どういうことだ?
「君に紹介したい人がいる
未来から来た私です」
目の前に博士の面影のある、しかし博士より年齢を重ねたであろう女性が現れた
「なつかしい顔だな、助手くん
未来の君はもっと老け込んでいるというのに、ピチピチじゃないの!」
嘘だろう
「未来の私は長い時間をかけてタイムマシーンを完成させ、現在へやって来た
未来の技術ならタイムマシーンを簡単に作れるらしくてな
タイムマシーンを製造する機材も持ってきて、私にも作ってくれたわけだ」
理解が追いつかない
なんで過去へ行ってタイムマシーンを作ってあげちゃったんだ
「ただ、コアとなる機械は、持っていくと時間跳躍時にタイムマシーンの不具合を引き起こすから、持ってこられなかったのだ
だから現在の私に作り方を教え、完成させてもらったわけだな
若いから吸収が早くて助かった」
思い切りタイムパラドックスな気がするが大丈夫じゃないだろう
僕は頭が痛い
「これ、色々とマズいのでは?
歴史が変わってしまいますよ」
「問題ない
君たちの歴史は今を生きる君たちのものであるからして、私が介入したところで、それ込みで君たちの歴史になる
ちなみに、私の未来は何も変わらない
別の時間軸となるわけだ」
「だから助手くん、心配はいらない
私たちと一緒に、時間旅行を楽しもう!」
何をバカな
そんな説明をされても、介入すること自体が危険行為じゃないのか?
それに、行った先で何が起こるかわからないし
ここは僕が常識人枠として狂気の博士たちを阻止せねばなるまい
「わかりました、行きましょう!」
……誘惑には抗えなかった
ワクワクした自分に嘘は吐けないのだ
僕は二人の博士とともに嬉々としてタイムマシーンで旅立つのだった
君に会いたくてしかたない
どうして君は私の傍にいないの?
どうして私は君の傍にいないの?
無理
我慢できないよ
君に会えない時間が辛い
体が震える
写真を見たって満たされない
壁一面にたくさんの君が写ってるのに、全然嬉しくない
パックに入れた君の毛を眺めても、苦しみが増すだけ
本物の君じゃないとダメ
でも君はここにはいない
そうだ、いないなら会いに行けばいいんだ
もうなんでもいいから、部屋を飛び出して今から会いに行こう
待ってて
今から君のもとへ向かうから
思いっきり抱きしめて、それから、それから
アハハハハハハ!!
合鍵で扉を開ける
すると、そこに君はいた
私は思い切り抱きしめる
君も嬉しいよね
私が来て嬉しいよね
だって、こんなにも尻尾を振ってるんだもん
ただいま、ワン太郎
久々の実家は、ワン太郎の匂いだった
嘘だろ
パスワードが違うだと
パソコンで書き溜めた日記が開かない
閉ざされた日記になってしまった
メモにあるパスワードは、日記のものだと思ったんだけど、なんのパスかは書いていない
どうやら違ったみたいだ
このメモだと思ったのに
別に大したことは書いてないと思うけど、何年かぶりに見てみようと思ったのだ
今は紙の日記帳に書いているから、文の書き方も違うだろう
そういうところも楽しもうとワクワクしながら開けようとしたら、このザマだ
しかし、昔の俺はパスワードを書いたメモのヒントをテキストファイルに入力、それをどこかのフォルダにわかりづらい名前で保存していたはず
記憶を頼りに、ヒントを探す
たしかこのフォルダだったはず
フォルダを開くと、いくつか並ぶテキストファイルの中に、明らかに怪しい名前のファイルが
「dwsp」
パスワードを英語で略して逆にしただけだった
わかりづらいといえばわかりづらいが、非常にわかりやすい名前
開くとヒントが載っていた
龍の立つ場所だそうだ
すぐにわかった
飾ってある龍のフィギュアの下に敷いてあるプリント紙
そこにパスワードが書いてある
そうだった
思い出した
そしてこの時、日記について嫌な予感がしたが、俺は好奇心に押されて不安を無視し、パスワードを確認した
よし、これで開くぞ
俺は早速、日記をダブルクリックした
…………
これはいかん
俺は青ざめた
なんでかって
とても他人様にお見せできるような内容ではなかったからだ
当たらなくていい予感は見事的中
この日記ヤバいぞ、だいぶ
どんな内容だったのか?
それはもう……痛いし嘘だらけ
それだけ言っておこう
本当に、誰かに見せるわけにはいかない文章の数々だった
あまりにもあんまりな、日記か疑わしいレベルの問題作
この日記を書いた時の年齢がそうさせたのだと思う
俺はファイルをそっと閉じる
捨てるのはさすがにもったいないので、俺は再度封印することに決めた
このひどい内容が気にならなくなるまで、決して開けないようにしよう