あー、気温だいぶ低いんだろうな
今日はあまりにも寒い
寒さが身に染みて……
とても、とても、とても、気持ちがいい!
体はもうガクガクしてるけど
冬にする格好じゃないけど
それがいい
「修行でもしてんの?」
いやいや、そんなんじゃないよ
ただ、快感を得るためにやってるだけ
この、身の危険を感じる寒さに包まれるのがどうしようもなく好きなんだ
「前から怪しいとは思ってたけど、やっぱり底知れぬバカだったか」
失礼なことを言う
私はバカじゃないよ
バカっていうのは苦しいのに痩せ我慢してやり続ける人間のことだ
私は気持ちのいいことを楽しくやってるだけだからね
「じゃあ異常者だ」
それは否定できない
でもさあ、異常者で言えばあなたも大概なんじゃないかなぁ
「ん~?
私のどこが異常者だって?」
スマホで自分の顔を見てみなさいよ
この状況でするような表情じゃないよ
私をなんつー顔で見てるの?
「ああ、そのことか
そんなに表情に出てた?」
それはもう
キレイなイルミネーションを見るが如き、キラキラした顔だったよ
顔と呆れの言葉がミスマッチすぎるね
「まあね
私は人がダメージ受けてるさまが好きだからね
あなたが苦しそうだったらなおよかったんだけど」
嗜虐的なやつめ
いや、この場合本人は見てるだけで何もしてないから、嗜虐的とは言わないのかな?
どちらにせよ趣味の悪い人だよね
私もよく友達やってるよ
「お互い異常者だから、相性がよくて友達になれたんじゃないの?
私達の友達になろうなんて物好き、他にいないだろうし」
普通の人間は肉体へのダメージを快感とは思わないし、人の苦しむ姿を楽しめないもんね
「そんな相手に心を許せるなんて、私達、最高の友達だよね?」
最高というか、最狂じゃない?
「それはそうだ!」
さて、このままだと寒さの快感から帰ってこられなくなるから、このへんで帰ろうか
「そうだね
私も、このままじゃ本当に嗜虐に目覚めそうだから帰る」
明日はどんな快感を得ようか
「明日はどんな姿で私を楽しませてくれるかな?」
俺は20歳だ
なに、そうは見えない?
ほう
ではいくつに見えるというのだ?
80歳くらいには見えると?
失礼な
まだまだ俺は若いというのに、それはないだろう
俺はお前らと年齢は変わらんぞ
たしかにな
同年齢の人間に比べて、ちょっとガタが来てるし
流行りの曲はわからず、昭和の曲をよく聴くような俺だ
わからない若者言葉もたくさんある
だが、20歳であることに変わりはない
誰がなんと言おうと、俺は20歳なんだ
ん?
とても20年しか生きてないようには見えない?
貫禄がすごい?
ハッハッハッ
そんなことを言っても何も出ないよ
まあ、だがひとつ訂正させてくれ
俺は20歳だが、20年しか生きていないわけじゃないぞ
もっと長い時を生きてる
20年生きてるから20歳なんだろうって?
いやいやいや、そうとは限らないんだ
長く生きていても、年齢を重ねない場合ってものがあってな
そんなに珍しくはないが
まあ早い話が、俺の誕生日が2月29日だって話さ
4年に1度しか存在しない日が誕生日
つまり、4年に1度しか年齢という数字の上では、年を取らないのさ
うん?
公的には歳を重ねてる?
あのな
公的機関の言うことがこの世の正しさじゃないんだ
俺がうるう年にしか年齢を重ねないと思うのなら、それが真実なんだよ
そういうことだから、同じ20歳として、爺さんと仲良くしてくれや
あっ、いや違った違った
爺さんじゃない
俺は若者だ、若者
三日月女って知ってる?
いわゆる都市伝説ってやつなんだけど
口が三日月みたいに横に長く裂けてるんだって
「それ口裂け女じゃない?」
もとは手術中医者に口を切り裂かれた人で、怒り狂ってその医者の口を裂いて殺したとか
「口裂け女だね」
怨霊だったり、気が狂った人間だったり、パターンも複数あるんだけど、足がとてつもなく早いことは間違いないらしい
「やっぱり口裂け女だよ」
目の前の人に、マスクをした状態で私キレイ?って聞いてきて、キレイって言われたらこんな顔でも?って自分の口を見せて、恐怖した相手を追いかけて惨殺するんだってさ
「紛うことなき口裂け女じゃん」
ポマードが苦手だって話があったなぁ
「口裂け女でしょ」
べっこう飴が好物なんだよ
「完全に口裂け女」
『私のことかぁー!』
「うわぁびっくりした!」
『さっきから口裂け口裂け言って、冗談じゃないわよ!』
「嘘ぉ!?
本物が来た!」
もしかして、三日月女さん!?
『そうです私が三日月女
口裂け女はあとから勝手に誰かが広めた名前
元の私は三日月女なのよ!
おしゃれな名前で気に入ってたのに!
口裂け女なんていう安直な名前に!』
それはムカつきますね
「正式名よりスラングが広まるって、なんか納得行かないですよね」
『そうなのよ!
そこであなたたちに頼みがあるの!
私の正式名称が三日月女だとみんなに広めて!
再びおしゃれな名前の都市伝説として返り咲きたいのよ!』
そういうことなら、頼まれました!
まずはネットで三日月女の名称を拡散です!
SNSならうまく使えばすぐ広まりますよ!
他にもなにか方法を考えましょう!
「できることはいろいろありそうだよね」
『ありがとう
では、任せたわよ!
自分のことだから、私もできることはする!
一緒に、三日月女の名を再び世に知らしめてやりましょう!』
おー!
「おー!」
うおおお、すごい
俺は今、とんでもない光景を見てるぞ
そこに山があるから、血が騒いで登山していたら……
色とりどりのドラゴンが集会開いてるよ
普通に喋ってるし、きっと伝説級のドラゴンたちだ
それぞれの属性を司る頂点のドラゴンたちなんじゃないか?
俺の存在がバレたらどうなるんだろう
やはり消される?
それとも取るに足らないと見逃されるのかなぁ
どっちにしろ出ていかないほうが身のためだろう
というか、とっとと立ち去ったほうが良さそうだ
……でも、伝説級の存在がどんな話をしているのか……気になる!
こんなチャンスなかなか無いぞ
ちょっと聞いてみるか
「アルマネウル地方はどうだった?」
「ダメだな
質の高いものがあるにはあるが……我らには小さすぎる」
赤いドラゴンが聞き、黄色いドラゴンが答える
なんの話だ?
「もっと大きいのはないのかしら?」
白いドラゴンはため息をつきながら、とても残念そうだ
青いドラゴンも残念そうにしながら
「大きい場合、たいてい人間に管理されてるからね
そもそも、大きいのは人間製のものが大半だ
天然となると……難しいよ」
と言って首を振る
ドラゴンが欲するような、人間の管理する大きいものなんてあっただろうか?
それも人間製とか、天然とか言えるものに
「あんたはいいよな、人化できて
堪能し放題じゃねえか
俺たちはこの姿しかないってのに」
黒いドラゴンが不満そうに緑のドラゴンへとつっかかる
人化できるドラゴンなんているのか?
どこかで気づかずに会ったことがあったりしてな
「八つ当たりしないでください
私は自分の能力を活用してるだけです
羨ましいならあなたも習得すればいいでしょう」
「できねえの知ってるくせによお」
全然わからない
ドラゴンにとって小さいとダメで、大きいと人間に管理されてる
そして、大きいのは人間製のものが多く、天然はたいてい小さい、と
で、人化できるとドラゴンでも楽しめるのか
答えが気になる
もう少し聞いてみよう
「僕たちは経験ないからわからないけど、そんなに気分が良くなるのか?」
赤いドラゴンが緑のドラゴンへ聞く
「そうですね
日々の疲れが吹っ飛びますよ
一度は皆さんに入ってほしいです
場所によって効能も違いますし」
ん?
疲れが吹っ飛んで、場所によって効能が……
もしかしてそれって
「どこかにあるといいのだけどね
大きい天然温泉」
白いドラゴンが俺の疑問の答えを口にした
やっぱりそうか
このドラゴンたちは、温泉に入りたがっているんだ
たしかに、あの巨体で入れる場所なんてそうそうないな
探すのも大変だろう
だが、俺は知っている
ドラゴンも入れる広さと深さの、天然の秘湯を
どうする?
教えてあげるか?
でも滅茶苦茶怖いな
いやしかし、あんなに入りたがっているのに、俺には無視することはできない!
「あ、あの!」
「うおっ、驚いたな
人に見られていたのか」
黄色いドラゴンが体をビクッとさせた
ドラゴンでもそういう反応するんだ
親近感を覚える
「大きい天然温泉を探しているなら、いいところがありますよ」
「本当かい!?
ぜひ教えてくれ!」
青いドラゴンが巨大な顔を近づける
怖い怖い怖い!
しかし、ひるむな
相手は好意的だ
「ロッカウロ地方のパンターロ山にほとんど知られていない天然温泉があるんですよ
あそこ、人が入ったら溺れるくらいなので、皆さんにはちょうどいいかと」
ドラゴンたちは歓喜して盛り上がった
喜んでもらえてよかった
どうやら、大きくても浅いだろうから、足湯程度を想定していたらしい
そこに、つかれるほどの深さの温泉の情報が来たので、ハイテンションになったそうな
「人よ、あなたのおかげで仲間と温泉を楽しめます
この恩は必ず返します
明日、またここで会いましょう」
緑のドラゴンが俺に感謝と恩返しの約束をしてくれた
その後、ドラゴンたちはすぐにパンターロ山の温泉へ向かうため、飛び立った
行動が早いな
……翌日、同じ場所へ行くと、緑の髪の女性が佇んでいた
たぶん、緑のドラゴンが人化したのだ
「本当なら、全員で来られればよかったんですけどね、みんな忙しくて
私だけですいません」
「いえいえ、大したことはしてませんから」
「あのあと、みんなと温泉を楽しめました
ありがとうございます
こちら、お礼の品です」
渡されたのは、虹色に輝く果実だった
これって……
「ええ、食べれば一生病に苦しむことはなくなる、アレです」
「こんな貴重なもの、もらってしまっていいんですか?
そこまでのことをしたとは思えませんが」
「いいんです
貴重ではありますけど、そもそも病気知らずの私たちドラゴンにとっては、必要ないものですしね
それだけ楽しかったということで」
まあ、断るのも失礼か
俺は遠慮なくいただくことにした
さて、俺はその後、果実を食べて病気知らずの体になったのだが、それだけでなく、不老長寿にもなったようだと、知り合いの魔法使いから告げられた
体を流れるマナがそういう状態らしい
ならば、俺が長寿を利用してできることとはなにか?
俺はあの一件以来ドラゴンへの興味が強くなった
ならばドラゴンのため、人化の術を研究しよう
風のうわさで、緑のドラゴン以外も人化して人間界へ遊びに行きたいと願っていると聞いた
そして、俺は人化は知能の高いドラゴンならば全員できるのではないか、と研究を続ける中で確信
ついに方法を確立できそうな段階まで来た
あとは実践あるのみ
さあ、久々に彼らに会いに行こう
また、歓喜してくれるだろうか
私の名前は雪
名前が雪だからといって、降ったり積もったりする雪が好きかどうかは、全く関係ない
誰でもわかる当たり前のこと
ただ、名前の持つ力とは強いもので、人は私から冬を感じる
名前に引っ張られて、好みとは無関係だと頭ではわかっていても、冬や雪が好きなんじゃないか、という思考に誘導される
けれど
私の名前と、私が雪が好きかどうかは何も関係がないのだ
そう
私は、名前と関係なく雪が大好きだ
名前は理由ではない
ただ、その美しさで雪を好きになっただけ
降る雪の幻想的な光景が好き
積もった雪の輝きが好き
雪だるまだって、作るのは楽しいし
車の通ったあとや、足跡を見るのも面白い
踏んだ時のシャリっという感触も気持ちいい
前にやったスキーも最高だった
雪合戦も、いつかまたやりたいと思っている
私の名前と、私の好みには関係がない
それでも、私の名前が私の好きなものと同じというのは、嬉しいものだ