助けてください!
さっきから冬の足音が聞こえて……
どんなに逃げても冬が追いかけてくるんです!
「冬は君を追いかけてはいないよ
ただ、みんながいるところへ来ただけだ」
冬のいないところへ逃げたいのですが、どこへ行けばいいんですか!?
私は冬が怖いんです
このままでは気が狂ってしまいます!
「冬を恐れなくても平気さ
冬の優しいところもたくさんあるんだ」
それはわかりますけど、でも私には他の厳しい部分が合わないし、本当に冬が嫌なんです!
冬には悪いけど、私は何ヶ月も一緒に過ごすなんて耐えられません!
「ふむ
仕方がない
本当なら、冬とうまく付き合うのがいいんだけどね
これを使って、冬から離れなさい」
これは、なんですか?
「冬から離れる方法を書いた書類だよ
これに書かれた通りに行動すれば、冬がいる間、君はここにいなくて済む」
わかりました!
ありがとうございます!
これで安心です!
「君にも、いつか冬の良さがわかるよ」
そうでしょうか?
「そうだよ」
それでは、また!
本当にありがとうございます!
失礼します!
「フゥ
冬の良さがわからないのは残念だが、しかたない
でもきっと、冬の素晴らしさをわかってくれる時が来るだろう
今はオーストラリアで過ごす日々を楽しんでくれ」
今日は俺の誕生日だ
だから、仲間が俺にプレゼントを贈るというのは理解できるしありがたい
その贈り物の中身が、見覚えのある男でなければ
仲間たちがニコニコする横で、拘束具で身動きが取れない状態になっているその男は、俺たちが追っていた賞金首
どうやら、俺抜きでとっ捕まえた上で、俺に連行させて賞金を丸ごとプレゼントしよう、ということのようだが……
だったら先に連行して賞金だけプレゼントしてくれればいいんじゃないか?
俺ん家にわざわざ拘束した犯罪者を連れてくることになんの意味がある?
こいつらはたまにわけのわからないことをする
それにしても、よく俺の誕生日に合わせて捕まえられたよな
……と思ったら、たまたまだったらしい
今日、俺以外の仲間たちでこの賞金首について調査していたら、偶然重要な手がかりを発見
そのまま潜伏場所を割り出して拘束したんだという
本来は別なプレゼントを贈る予定だったそうだ
そっちのプレゼントが気になるが、それはあとでくれると言っていた
しかし、同情するのはどうかと思うが、賞金首も災難だったな
拘束された状態で連れ回され、頭や体にリボンまでつけられてるぞ
なんか、虚ろな目でため息ついてるし
まあいいや
仲間たちがせっかく賞金をくれるっていうんだ
ありがたく頂戴しよう
その代わり今度、仲間たちが喜ぶようなことをなにかするか
ところで、賞金首の顔にハーピーバースデイって書いてあるんだが、これ引き渡す時に変な目で見られないかな
凍てつく星空はとても美しいが、わしには寒すぎる
わしはこの世の厄払いをするために、褌一枚で深夜の雪原で祈りを捧げておる
一晩中、日が昇るまで続けるのだ
……正直に言おう
祈りなんて捧げておらん
寒すぎてとっとと帰りたい
わしは老師と呼ばれ慕われているんだが、世は国際的に色々大変なことになっているので、立場上、なんとかせねば!と軽い気持ちで言ったのだ
実際なにか行動に移す気は全く無いのに
そしたら、さすがは老師様!とかみんなが盛り上がってしまって
では寒中の祈りをなされるのですね!と、わしがなんにも言っとらんのに勝手に話を進めおった
わしは慄いた
この老体でそんな真似をしたら死んでしまう
まさしく年寄りの冷や水
こやつらは一体なにをほざいておるのか
そんなのは自分でやれ
そう思ったのだが、期待の視線が重くてな
拒否できずに今に至る
それにしてもいつになったら日は昇るんだ
だいぶ長い間待っているんだが
わしは世界のためではなく自分のため、早く朝になってくれと祈った
なぜわしがこんな目に合わねばならん
わしにこんなことをさせた連中は今頃、ベッドの中でぬくぬくと夢を見ているのだろうな
憎たらしい!
ああ、だが澄み切った星空は綺麗だな
なんだか星がだんだんと近くなっておるような
体が軽いような
……いかんいかん、危うく昇天するところであったわ
もはやわしの肉体も精神も限界だ
祈りなぞ知ったことか!
恥も外聞も誇りも捨ててわしはもう帰るぞ!
家でシャワーを浴びて、コーンスープで体を芯から温めるのだ!
誰だ、寒中の祈りなどという狂った儀式を考えたやつは!
人を殺す気か!
一度こういうのやってみたかったんだよね
なかなか共感してくれて、なおかつ同じ趣味をもつ人と出会えなかったから、願望はあったけど、正直諦めかけてた
でも奇跡って起こるものなんだなあ
君と出会えてよかったよ
こんなに、今までにないくらい楽しく設定を考えられたのも、君のおかげ
ひとりじゃとても思いつかないことも、ふたりのアイディアがかけ合わさったら生まれてきたし
お互いいい刺激にもなったんじゃないかな
私が何気なく話した、同じ世界観で別々の話を誰かと書いてみたいっていうのを聞いて、じゃあやろうよって言ってくれた時、信じられなくて一瞬何を言ってるのか理解できなかったよ
だけど、何秒か経って言葉の意味を理解したあとは、嬉しさがこみ上げてきたんだ
本当に、ありがとね
ああ、うん
そうだよね
終盤のノリだけど、まだ世界観とかを大まかに作っただけだもんね
これからが本番だった
それぞれが設定に即した内容で、お互いの物語のすり合わせをしながら、矛盾やミスに気をつけて書いていく
大変だけど、きっとすごく楽しいんだろうな
君と紡ぐ物語
それがどんなものになるか
考えただけでテンションが上がっていく
完成を目指して、一緒に楽しく頑張っていこうね
ホゾノ語は失われた響き
話せる者も、今となってはごく少数だ
そう遠くない未来に、ネイティブ話者はいなくなることだろう
我々ホゾノ族がかつて使っていた言語には、現在使う言語では一言で言い表せない意味の単語がある
それは、「パツォヤーナ」
意味は、「利き手でない方の手」
現在使っている言語では他に、難しい方の手、馴れていない方の手、などと表現する
なお、利き手は「ヌソヤーナ」
ヤーナが手を意味するのだ
ホゾノ族の使う言葉が変わりつつあった時、我々の先祖は面倒くさい、不便だと思ったらしいが、そもそも、当時すでに利き手でない方の手を話題にする場面があまりなかったため、結局は別にいいかとなったらしい
かつてのホゾノ族にとって、利き手は神聖なものだった
そして利き手でない方は補佐としての役割である、とされた
ヌソはホゾノ族の神の名だ
パツォはその神を補佐する精霊の王の名
そして、左利きの人間は神に選ばれし者として大切にされたのだという
左利きは割合が少ないから、特別視されたのだろうな
ヌソは左利きと言われているのだが、それもそういったところから来ていると考えられる
利き手が信仰上重要だったからこそ、逆の手も単語があった
だが時が経ち、信仰も薄れ、利き手も重要性が下がった
だからパツォヤーナを使う機会も減っていたのだ
行わなくなった儀式も多く、残った儀式も今ではちょっとした祭りとして楽しむのみ
当時を知らないとはいえ、ホゾノ族として少し残念ではあるが、時代の流れというのはそういうものなのかもしれない
私も古い言葉は話せないしな
ただ、ホゾノ語を話す者がいなくとも、言語を何らかの形で後世に保存できたらと思う
そのためにも、話者や研究者と協力してホゾノ語の全てを記した文書を形にしたい