自分の思い出、知識、記憶
それらを燃やすことで明かりを灯す
それが記憶のランタン
私はそのランタンを持って、この長い道を進み続ける
私はなんといったか……
もう自分の名前も思い出せない
他にも、いろいろな記憶が燃やされているのだろうが、それすら忘れているようだ
楽しいこと、悲しいこと、嬉しかったこと、怒りを感じたこと
気持ちのいい思い出、苦しい思い出
忘れたかった記憶、いつまでも覚えていたかった記憶
いつの間にか覚えていた知識、頑張って覚えた知識
親しい者の顔、憎んだ相手の顔
すべてが燃えていき、ランタンを輝かせる
そして、そのランタンの灯を頼りに、私は進んでいくのだ
もう、多くの記憶は灰となったように思う
私は私を失ってゆく
これが、死者が再び生を受けるための代償
生まれ変わるために、生きていた頃に授かったすべての記憶をランタンの燃料にしなければならない
そうすることで、何も知らぬ赤子として再び生まれ落ちることができるのだ
記憶のランタンを片手に、私は歩み続ける
ひたすら歩み続ける
私は、なぜこんなところを歩いているのだろう?
ここはどこだろう?
しかし、歩かなければならない
なんのために?
わからないが、とにかく歩かなければならない
それだけはわかる
…………
……
…
ああ、とてもあかるい
もうあるかなくてよさそうだ
やっとついた
ながかった……
冬へGO
どうも、冬大好き
冬将軍とは私のこと
冬乃です
名前も冬じゃねーか
これは冬に愛されてますね
そう、私は冬を愛し、冬に愛された女
もはや冬の化身と言っても過言ではない存在
それが私、冬乃なのです
雪よ降れ降れ今すぐ降れと願ってやまない私ですよ
なんですか?
夏をどう思うかって?
今、そんな話を振るなんて、あなたも性格が悪いですね
夏なんて滅べばいいと思ってるに決まってるじゃないですか
春と秋はまだ見逃してやってもいいですよ?
でも夏はいかんですよ
しかも最近は酷暑とか言って調子こいてるらしいじゃないですか
これはちょっとシメないとダメですね
氷河期迎えさせたろか
冬が本気になれば夏なんてイチコロです
まぁ、夏の話なんてどうでもいいじゃないですか
奴の話はやめやめ
冬の寒さは身に染みますが、それが逆にいいと思います
寒さが苦手だという人も考えてみてください
ほら、寒いほど美味しくいただける食べ物がたくさんあるじゃないですか
お鍋、ラーメン、コーンスープ、肉まん、シチュー、その他諸々
ほらほら、食欲をそそるあったかい食事の数々
それを楽しめるのも寒いから
苦とは、楽を最大限堪能するためのスパイスですよ
え?
夏の暑さも冷たいものを食べた時にスパイスになるって?
奴の話題はやめましょうね
それより冬の素晴らしさですよ
冬の化身たる私は冬の冬々した魅力をじゃんじゃん伝える使命があるのです
冬の観光大使に就任するのが最近の目標ですね
ということで、これから冬が究極の季節である理由を語りたいと思います
冬特有の遅めの朝が来るまで語り明かしたいと思います
今夜は寝かせないぜベイベー
まさか、こんなことになるなんて
君を照らす月の光によって、君は狼になっている
僕は君のことを親友だと思ってたんだけど、君にとって僕はただの餌だったんだな
悲しいよ
それにしても、人狼が本当にいるとは
目の前で変わってしまった親友の姿を見ながら、僕は二足歩行の狼もかっこいいもんだな、などとのんきなことを考えていた
たぶん、信じられない光景のせいで感覚が麻痺してしまっているのだと思う
人狼は僕を食い殺すために、ジリジリとこちらへ歩を進める
僕が逃げる素振りを見せた瞬間、飛びかかるつもりだろう
まあでも、襲われたのが僕でよかった
他の人が食い殺されたら、心が痛む
それに……
僕ならこいつを抹殺できるだろう
怖がらせないために、親友には僕の正体を教えてなかったからな
自分は100%狩る側だと思ってるんじゃないか?
残念ながら、そうはいかない
君は100%狩られる側だよ
なにせ僕は、ドラゴンなのだから
この場所で元の姿に戻るのは、ちょっと色々不都合があるからやめておくけど
人の姿でもドラゴンの力は使える
手始めに闘気を出す
人狼は一瞬でこちらの正体、力量差を察したようだ
全速力で逃げ始める
しかし僕から逃げることはできない
僕は背中から翼を生やし、人狼を追跡
すぐに追いついて人狼を押し倒し、動きを封じた
親友に対してこういうことをするのは、心苦しいけど
この村で人狼の犠牲者を出さないために、僕は口を大きく開け……
灼熱の炎を人狼に向けて放った
頭を焼いたので即死だろう
さらば友よ
君による偽りの友達ごっこはこれでおしまいだ
今度は、君みたいな危険な奴ではなく、もっといい親友ができることを願うよ
ともかく、村人が犠牲にならなくて本当に良かった
親友が人狼だったのは残念だけど、いつまでも落ち込んでいるわけにもいかない
もしかしたら、他の怪物が現れるかもしれないし、この村はドラゴンたる僕が守らないと
それが、この地に加護を与える神との約束なのだから
僕の肌が不規則に焼けている
なぜこんなことになったかって?
木漏れ日の下で長く上半身裸で寝っ転がり続けたからだよ
つまりこれは、木漏れ日の跡だね
なんで木漏れ日の下で焼けるまで寝っ転がってたかって?
よくぞ聞いてくれた
焼くためだよ
しかも普通に全体をこんがり焼くだけじゃだめだ
誰もやったことのない焼け方をしたかった
いわば、僕の体で芸術作品を作ったということ
僕はよく周りから脳筋と呼ばれていてね
筋肉に自信はあるんだけど、頭を使うことやアートなんかは大の苦手なんだ
そんな僕でも、芸術に興味がないわけじゃない
好きな絵だってあるし、音楽なんかもよく聴いている
そして僕自身、作品を作ることにだって興味があるんだ
だけど、例えば僕が犬の絵を描くとしよう
それを見た人は揃ってこう言う
「鬼を描いたの?」
つまり、絵心が無い
いや、絵心だけじゃない
お話を書けば物語以前に文章がおかしくなり(物語でない文章は普通に書けるのに)、粘土をこねさせればただの岩の塊だ
ここまで聞けばわかる通り、僕に芸術の才能はない
そんな僕でもできそうなアートを思いついた
それが木漏れ日を利用した不規則な日焼けだったというわけ
バカなやつに見えるかい?
けれど、芸術っていうのは自由だと、誰かが言っていた気がする
何事も挑戦してみることが大切なんじゃないかな?
例えバカバカしく思えることでもね
それにこの日焼け、現代アートとしてはなかなか面白いんじゃないかと、僕は思っているよ
他人に評価されるかどうかは知らないけど、僕が満足するためのものだから、刺さる人がいなくても、別にかまわないのさ
「来てないようだね……」
婆ちゃんが少し寂しそうに言った
ここは無人島
普通の方法ではたどり着けない聖域で、私はどうやってここへ来たのかわからない
少なくとも、船には乗らなかった
ただ、婆ちゃんについていっただけだ
つくまでの記憶も曖昧で、正直、夢の中にいるような感覚
婆ちゃんは、昔、親友とささやかな約束をしたらしい
この場所へ、子供と孫を連れてくると
そしてここが、親友と会える唯一の場所らしい
「婆様、ガッカリするのは早いだろう
俺たちが来たからって、あちらさんも同時に来るとは限らないんだからな」
お父さんが落ち着いた声で婆ちゃんを元気づける
こういう時のお父さんは心強い
「そうだけどね、あいつは時間に対して真面目だったから、心配でね」
婆ちゃんはそれでも不安なようで、珍しくそわそわしている
「向こうの生活が忙しくて、忘れちまったかもしれない」
「たしか、この世界とは全然違う法則の世界に住んでるんだよね」
「法則の違う世界、か
想像もつかないな」
婆ちゃんから昔、そんな話を聞いた
婆ちゃんが若い頃、この島へ迷い込んだ時、別の世界から来たという人に助けられたという
そしてこの島への行き方を教えてもらい、定期的に交流をするようになったそうだ
ただ、出会ってから10年ほど経ったある日、婆ちゃんは親友から、長い間会えなくなると告げられた
向こうの世界でやるべきことがあると
「それで今日この日、お互いの子と孫を連れて来て、共に再会を喜ぼうって約束したんだ」
「きっと来てくれるよ
真面目なんでしょ?
約束は破らないって」
「そうだね
待つとしよう」
私の言葉に、婆ちゃんがそう返した直後、目の前が光り、婆ちゃんと同い年ぐらいの女の人が、大人二人、子供三人と現れた
「待たせてごめんなさい
やるべきことがなかなか片付かなくて、遅れてしまったわ」
この人が婆ちゃんの親友
落ち着きのある上品な人だな
見たことのないキレイな服を着ている
他の人たちは、たぶん子供と孫だろう
「いいんだよ
こうして来てくれたなら
兎にも角にも、まずは再会を喜ぼう
また会えて嬉しいよ」
「私も、またあなたに会えて嬉しい」
二人はとても穏やかで、だけど、喜びが溢れ出てきているとわかる笑顔で抱き合った
「さて、時間はたっぷり作ってきたから、ゆっくりと語り合いましょう
みんなでね」
「久々にあたしの魔法による武勇伝でも、あんたの子や孫らに聞かせてやろうかね」
あの話か
ちょっと刺激が強い気がするけど
「それなら私は、ロボットを駆って暴れた時の話をしようかしら
もう引退しちゃったけどね」
ロボットか
婆ちゃんから聞いたことがあるけど、よくわからなかったんだよね
本人から聞けば色々わかるかな
さて、これから九人でたくさん話をするんだ
せっかくだから楽しまないとね