涙の理由?
聞きたいのかい?
聞いたところで面白くもなんともないよ?
それでもよければ話そう
僕がなぜ涙を流すのか
先日、僕の叔母の旦那さんのお母さんが、山へ行ってきたらしいんだ
その山はその人のうちの所有する山で、山の幸を採るために行ったんだね
いつもより美味しそうに育っていたから、喜びながら採ったんだって
後日、叔母が僕のうちへ、もらった山の幸をおすそ分けしに来てくれたんだ
家族で美味しくいただいたよ
ほんと、美味しかった
でも、その中にしいたけがあってね
しいたけだけならよかったんだけど、しいたけに似た毒キノコが混ざってたみたいで
まぁ命に関わる毒じゃないんだ
だけど、ここまで言えばわかるよね
そのキノコ、食べるとしばらく涙が止まらなくなる症状が出るキノコだったわけだよ
食べたのは昨日のことさ
今日になっても止まらない
笑い茸ならぬ泣き茸
そんな名前じゃないんだけどね
というわけで、肉体的な反応で涙を垂れ流しているのであって、精神的なダメージとかじゃないし、命に別状もないから、心配しなくても大丈夫
今日は会う知り合いみんなに心配されて、申し訳ないくらいだ
致命の毒キノコじゃなかっただけ、全然マシさ
コーヒーが冷めないうちにさっさと終わらせたいもんだ
仕事終わりのホットな缶コーヒーはうまい
冷めたら台無しになってしまう
それに、先に仕事を終えた後輩に金を渡し、缶コーヒーを買ってもらって待機させているから、長く待たせるのも悪い
目の前のこの気持ち悪い怪物が、人前に出て暴れる前に討伐するのが俺の仕事だ
普段は異空間にいるんだが、何かの加減でこちら側の世界に現れる
そして人を見ると襲いかかるんだ
怪物は特殊な物質を含む武器しか効かない
俺は怪物の肉体を破壊するための刀を構え、相手の動きを待つ
こちらから突撃するよりも、相手の攻撃を待ち、向かってきたら動きを見切って切り裂く
それが一番いい倒し方だ
こちらを視認した怪物がうねうねした気持ちの悪い動きで走り出し、鋭い爪の生えた手を振り下ろそうとしたところで、俺は腕を切り落とす
そしてそのまま体を回転させ、胴体を斜めに両断した
絶命した怪物はそのまま黒いもやになって消えていく
攻撃に積極的な怪物でよかった
慎重なやつだと無駄に時間がかかるからな
一仕事終えた俺は後輩のもとへ向かう
ホットな缶コーヒーで一息つくために
労いの言葉をかけてくれる後輩から、お楽しみの缶コーヒーを受け取ると……その缶はキンキンに冷えていた
アイスコーヒーじゃねえか!
後輩によると、今は夏だからアイスがいいと思ったとのこと
違うんだ
季節なんて関係ない
俺はホットコーヒーで喉を軽く焼くのが好きなんだ
アイスコーヒーは好みじゃないんだ
ちゃんと言わなかった俺が悪いが、このがっかり感はキツい
仕事のあとの楽しみなのに
気持ちよく仕事を終えるはずだった俺のテンションは、ダダ下がりになるのだった……
死んだ覚えはないんだけど、目が覚めたらゲームの世界に転生していた
かなり思い入れの深いゲームの世界に
ただ、元の世界での生活があったので、嬉しいという感覚は殆どなかった
いや、ちょっとはあったけど、誤差範囲
それでも、好きなキャラクターたちに囲まれるのは、たしかに気分がいい
優しいキャラばかりだし、明確な敵キャラとも、和解で終わるゲームだったから
モンスター的なやつとの戦いがメインだしね
さて、突如主人公たちが住む拠点に現れた私は、ごまかさずに事情を説明した
みんな驚きつつも、私の言うことを信じてくれて、やっぱりいい人たちだとホッと胸をなでおろす
ちなみにこのゲーム、プレイヤーは異世界から介入する指揮官という設定で、キャラからは姿は見えず、宙に浮く小型ロボットから声が聞こえている、という設定だ
プレイしていた時の指揮官は当然私
が、しかし
今、私はこの世界にいるので、指揮官(=プレイヤー)は別人
そもそも喋り方も声も違う
この指揮官はいったい誰なんだろう?
どっかで聞いたことあるような
ま、どうでもいいか
しばらくして、私にも戦いの適性があったらしく、一緒にモンスターを倒すことになった
危険な仕事だけど、なかなか充実している
みんなと過ごす日々が楽しいからだと思う
ただ、奇妙に感じていることがあって
最初はちょっとした違和感だった
物語の順番が前後したのだ
そういうことがちょくちょくあって、私が介入したせいかも、なんて軽く考えていたんだけど、いよいよ無視できない異変が現れた
知らない物語が始まったのだ
物語自体はゲーム時代と変わらないノリ
バトルもののゲームだとは思えないほど、明るく、コメディタッチのやりとりが続く
でもその内容は、全くの未知
知らない設定がポンポン出てくる
ちょっとこれ大丈夫なの?
なんて心配をしていたら、ある日、指揮官にひとりだけで呼び出された
この世界について話したいらしい
『私は、このゲームのシナリオ担当です
知ってますか?』
どこかで聞いたことがあると思ったら、生配信とかにも出演していたシナリオ担当の方だった
まさか指揮官をやっていたなんて
『実はゲームを起動したら、私の知らないクロスアが始まりまして
驚きながらもプレイしたら、キャラと直接会話できたり、覚えのない物語が展開されて、さらに驚きました』
クロスアというのは、このゲームの略称だ
『まあ、あなたが現実世界から来たと聞いた時には、理解が追いつかず頭が痛くなりましたけど』
シナリオ担当の指揮官によると、ここは元のゲームとは別の運命をたどる似て非なる世界
つまり、パラレルワールドではないかとのことだった
指揮官はとりあえずクリアを目指すらしい
私もクリアすれば元の世界に戻れる気がする
先に断っておくと、このあとなぜゲームの世界に私が転生することになったのかとか、パラレルワールドの正体は?とか、そんなのは明かされることはなく
私としてもそのあたりはどうでもよかったので、登場人物としての日々を楽しんだ
指揮官も楽しんで、細かいことは気にしてなかった
私たちにとって重要なのはただひとつ
未知の物語を楽しみ、新たな設定の数々を解き明かすこと
シナリオ担当ですら知らない物語を一緒に体験する
ものすごくワクワクした!
この世界は私にとってご褒美なので、元の世界へ帰るその日まで、存分に楽しんだのだった
帰る時は指揮官ともども泣いたよね
生涯忘れることはない、とても素晴らしい日々だった……!
なんの気なしにふと見たら、ちょうど時計の針が重なっていた
12のところに、時針分針秒針がある
奇妙なことに、3つの針はいつまで経っても動かない
電池が切れた?
いや、そんなタイミングよく電池切れになるなんてあるか?
不思議に思いながら時計を見つめていると、ハエが空中で静止しているのが目についた
時が、止まってる
そう直感した瞬間、凄まじい勢いで時計の針が巻き戻り始め、俺はいつの間にか意識を失っていた
目を覚ますと、近所の公園だった
夕方の
俺は自宅にいたはずだけど
混乱する中でただ、なんとなく状況を判断するヒントはあった
公園の外
今は一軒家が複数建っているはずの場所に、昔あった駐車場が広がっている
なるほど
俺は過去に連れて来られたみたいだ
なんでそんなことになったのか、わからないけど
0時0分0秒に時計を見たから?
とにかく、ここにいてもしかたないよな
まずは今がいつか、知っておきたい
……いや、その必要はなくなった
今は10年前の9月だ
公園で、俺だった子供が泣いてる
そう、当時その子供は俺だった
珍しい病気で、見た目は健康そのものなのに、余命幾ばくもなくて
だから俺は絶望して泣いてたんだ
そうか、わかったよ
俺が俺を助ければいいんだろ?
俺は過去の俺に、助かる方法が存在すると告げ、わらにもすがる思いの過去の俺を連れてある場所に来た
公園から歩いて1キロほどの所にある、一部の人間と、その人間が連れてきた者しか入れない、奇妙な建物
ここで神(かどうかはわからないけど、俺はそう呼んでる)に過去の俺を会わせる
神はすぐ現れた
今の俺を子供っぽくしたような姿で
俺を見るなり神は全てを悟って、過去の俺に、助かる方法を話す
神は人間の体が欲しかったらしい
とある事情のために必要なんだそうで
だから、過去の俺の体と、自分の体を交換しようと提案する
交換すると、過去の俺の体は構造が根本的に変わり、病気などとは無縁の神の体になる
そして、神の体には過去の俺が入る
そうして神と同等の存在になるのだ
問題は、体を交換したら二度とは戻れないということ
神は俺として生きなければならないし、俺は別人として暮らさなければならない
神の力で、神のものだった体はプロフィールを与えられ、前から社会で生活していたかのように現実が書き変わるようだから、生活の心配はいらないし、俺も実際困らなかった
そして、過去の俺の判断は早かった
死ぬくらいなら別人として生きるほうがマシってね
今もその考えは変わらない
過去の俺は神と体を交換し、俺はそれを見届ける
過去の俺は新たな体を手に入れると、神に促されて建物から去っていった
残ったのは俺と神
神は俺を元の時間に戻してくれるらしい
よかった
このままは嫌だからな
俺が安心していると、神からとんでもない発言が出た
「俺はさらに未来のお前だよ
俺を救うために、もうひと仕事、頼んだからな」
気づいたら元の自宅にいた
俺、どうなっちゃうの?
未来の俺、なにがあったの?
というか、今俺として生活してるのって、結局俺自身だったんだ……
とんでもなく長い人生になりそうだなぁ
僕と一緒に寝たいって?
あの、僕、呪いのぬいぐるみなんだけど
ひとりで眠れなくて、いつもイルカの抱き枕と寝てたのも知ってるけど
いくら抱き枕を無理やり卒業させられたからって、呪いのぬいぐるみで代用はちょっと狂ってるよ君
いやいや、たしかに僕も呪ったりはしないよ?
君みたいな子を呪うほど落ちぶれちゃいないから
でも、僕ってヤバい存在でしょ?
普通は怖がることはあっても、一緒に寝ようなんて思わないって
うん、わかる
僕が喋れるから、話し相手が欲しかったんだろ?
君は寂しかったんだね
両親ともに君を厳しく育て……というか、自分たちの理想を君に押し付けてる感じがするもん
心を開いて話せる相手が欲しくもなる
友達は……親があの子はダメこの子もダメみたいに制限する感じかぁ
だからといって、呪いのぬいぐるみを友達にしようってのは不健全だよ
なんなら僕が君の両親を呪殺してあげてもいいんだけど?
それは嫌か
両親が嫌いなわけでも、死んでほしいわけでもないってことだね
洗脳系もアウトなわけでしょ?
となると……現状をよくするには、両親が心の底から反省して、自分自身を変えてもらうしかないね
おっと、呪いのぬいぐるみの僕が、出過ぎた真似をしようとしてしまった
そうそう、君が僕に望んでるのは抱き枕代わりだ
不本意ではあるけど、まあいいや
特にやることも呪う相手もいないし、しばらく君の抱き枕として、話を聞いてあげるよ
……知り合いにいるんだよなぁ
僕みたいに闇の存在じゃなく、光側のやつだけど、あの子を救えそうなのが
あぁー会いたくないよぉー
でも、いつまでも抱き枕ではいられないしなぁ
あいつなら、二つ返事で引き受けてくれそうだし、ちょっと頼んでみるか
性格いいし、他人の役に立つことを至上の喜びとするようなやつだからね
僕は眩しくて苦手なんだよ、あいつ
あいつの優しくも現実を見せつけてくる言葉にかかれば、あの子の両親も過ちに気づくさ
そうなれば、僕の仕事も終わり
はぁ、深入りするもんじゃないな
何日も一緒にいたせいで、情が移って離れづらいや
というわけで、君の両親は反省して優しくなったみたいだし、僕はそろそろ呪いのぬいぐるみ業に戻るよ
いつまでもここに留まるわけにはいかないからね
ちゃんと僕みたいなのじゃなくて、人間の友達を作るんだよ
もう、両親に口出しされることはないんだから
泣くなって
喜びなよ
僕が必要なくなったってことは、君は前に進めたってことなんだから
うわ、抱きしめないでよ
そんなことされたら、離れられなくなるだろ
え?
相談相手が必要?
いや、まあ、両親に言いづらいこともあるだろうけど……
抱き枕も必要?
そんなの買えばいいじゃない
……あー、わかったよ
まだまだ君のそばにいるよ
ただし、君が本当に僕を必要としなくなったら、その時はお別れだからね
君も、僕に執着するのはやめなよ?
じゃ、そういうことで、これからもよろしく