今日は特別な日だ
もっと特別感を出すと、special dayだ
そう、special day
とても特別なんだ
それはもう、信じられないくらい
夢かと疑いたくなるくらい特別な日
こんな幸せなことがあっていいのだろうか
だがこれは紛うことなき現実
嬉しすぎて倒れそうだ
一体何が特別かって?
それはほら、特別なことが特別なんだよ
special dayだから特別な日
逆に言えば、特別な日だからspecial dayとも言える
意味がわからない?
じゃあちょっと説明しよう
特別な日というのは誰が決めると思う?
人がこの日は特別だと感じた時、その人が特別な日に決めるよね
その特別の範囲については、なんとなくの傾向はあれど、明確なルールがあるわけじゃない
自然現象じゃないから、決まるための自然法則も存在しないんだよ
つまり、特別な日っていうのは誰かが特別な日だと思った瞬間、そうなる
だから今日、僕が叫びたくなるようなひどい目にあって、ストレスフルな状態になったから、そのストレスを解消する一環として普段しないようなバカ食いをするため、今日を特別な日だと決めれば、なんでもない日も即座に特別な日に早変わりする
つまり、今日は特別な日だと僕が決めたので、リミッターを外してバカ食いしてもいいspecial dayなんだよ
わかったら僕が並べたお菓子の袋たちを片付けようとするのはやめるんだ
食べなきゃやってられない心境だから
もう、特別な日だとかspecial dayだとか、そんなことはどうでもいいから
ただ食べてストレス解消したいだけなんだ
いや、やけ食いがよくないのはわかってるけど、他にいい方法が思いつかなくて
今日一日くらいいいじゃないか
え?一度やると癖になるからダメ?
そんな
あぁ、僕のspecial dayが始まる前に終わってしまった
溜まりきったこのストレス、どうすればいいんだ……
揺れる木陰を屋内の窓から見つめている
そこそこ風が強く吹いているので、木の枝がざわめいているのだ
それで木陰も揺れている
その黒く揺れる姿は、まるで怪物みたいだな
なんていうことを考えながら、やることもないのでひたすら見続ける
木の怪物か
ああいう怪物って、木の幹に鋭い目とギザギザの口があって、根っこや枝を武器にして、うねらせながら刺したり叩いたり、みたいなイメージがあるんだよな
しかし、僕はあえて火炎放射をさせたい
木なのに火を吹くのだ
ギザギザの口の中から炎が発射されるのを想像するだけで、すごいワクワクする
あと、自分の枝や根っこに火をつけて攻撃したら、かなり強いんじゃないか?
自分が燃えてるとか、細かいことは気にしないとして
倒された時は、青い炎に包まれて消えるんだ
なんてどうでもいいことを考えるのも、ひたすら暇だからだ
揺れる木陰を見て想像するのは、なかなか楽しいわけだから、構わないけれども
しかしそんなことを考えているうちに、日が陰って曇りになった
残念、黒い木の怪物は消えてしまった
別の暇つぶしを探そう
夢は夜見るもの、とは限らない
真昼の夢だってある
私は油断していた
少し疲れていたから、ちょっと横になろうと思ったのだ
そしてそのまま眠りに落ちた
夢の世界へゴーである
見たのはとてもいい夢
憧れの場所へ旅行に行くのだ
夢なのでおかしい部分はちらほらあるが、気分は最高
見たいと思っていた大迫力の城も見ることができた
しょせん夢の中なので、実際は全く迫力がなかったが
そうして満足のうちに目が覚めた私
時計を見たら夜七時
なんてことだ
とりあえず落ち着くために夕食の支度をして食べた
そして改めて今の状況を考える
今日は日曜日
明日は月曜日で、早起きしなければならない
だがいい夢を見た代償として、私は夜眠れない状態に陥った
絶対に朝方まで眠くならないし、徹夜しての外出はあまりに危険
どうすればいいか、私は悩んだ
悩んだところで、いい案など思いつかない
こうなってしまっては、やむを得ないだろう
まずは一度徹夜する
朝、眠気が来ても決して寝ないように気をつけながら、待機
時間まで耐えきったら職場に休みの連絡だ
こんなくだらないことで貴重な有給を使いたくはなかったが、他に手はない
頑張って暇をつぶしながら、朝を待つ
そしてそのまま眠りに落ちた
昼まで寝た
ついでに、再び真昼の夢を見た
今度は上司にこっぴどく叱られる悪夢だ
正夢になったのは言うまでもない
これは、戦い。
二人だけの。
彼女は正義のヒーローで、私は悪の王。
悪は正義に滅ぼされなければならない。
なぜなら、私がそれを望んだからだ。
倒されるために、私は悪の王になった。
すべては彼女のため。
彼女を、不幸のままでいさせたくはなかったから。
私は裏から手をまわし、彼女をヒーローに仕立て上げることにした。
悪である私を彼女が滅ぼせば、彼女は皆から認められる。
孤独に泣くことも、周りから蔑まれることもなくなるだろう。
誰かが共に笑い、誰かが共に悲しみ、誰かが守ってくれる。
一度そうなれば、彼女の本来の心の力で、その先もうまくやっていけるはず。
今まではただ、運がなかっただけなのだ。
きっかけさえあれば、彼女は輝ける。
そのきっかけを作るのだ。
しかし彼女は優しい。
私の目的を知れば、正義のヒーローとなることを拒否するだろう。
だから私は、目的を知られないよう、あらゆる手段で隠しきった。
私は絶対に、悪として正義の彼女に倒されて、退場しなければならない。
私が彼女にそこまでする理由。
それは大したものではない。
羨望だ。
彼女は、人に好かれる才能がある。
けれど、さっきも言ったように、ただひたすらに運が悪かった。
私は彼女の才能がとても羨ましい。
私もそんな才能が欲しかった。
だが、彼女はその才能を発揮できていない。
とてももったいないと思った。
勝手かもしれないが、彼女には、私の代わりに、私が望んだ幸せを掴んでほしい。
だから才能を発揮させようと決意したのだ。
ただ、それだけだ。
それだけの、くだらない理由だ。
さあ、始めよう。
私と彼女の、一対一の決戦。
彼女に倒されるための、最後の戦いだ。
夏だ
夏は暑い
暑くて嫌になる季節だろうが、虫が現れる季節でもある
俺たち害虫駆除業者はこの季節、暑さのストレスに追い打ちをかける虫どもから人々を守るため、日々戦っているのだ
要は夏が稼ぎどきというわけだな
さあ、今日はどんな依頼が来るのか
そろそろスズメバチとか、巣ごと駆除したい気分だ
俺はこの仕事が大好きで、依頼が来るとテンションが上がる
実は、仕事が多いという理由で、俺はこの暑い夏を最高だと思っているのだ
そんな中で、ようやく待ちに待った依頼の電話が来た
依頼主によると、緊急だという
その内容だが、イヤーワームの駆除だった
もう一度言うイヤーワームだ
説明しよう
イヤーワームとは、頭の中で同じ音楽が鳴り続ける現象だ
興味のない曲ほど耳から離れなかったりする、一度始まると意外とうざいアレのことだ
バカ言ってんじゃないよ、と思ったが、俺は別の名前の間違いではないかと聞き返した
だが間違いではないらしい
たしかにイヤーワームだの一点張り
とにかく、考えうる駆除の方法をいくつも持ってきてくれ、と言われた
断ってもよかったが、一応、何かの間違いの可能性もある
俺はいくつかのパターンを想定した道具を持っていった
そして、依頼主の自宅へ着いた俺は目を疑った
依頼主の男性の耳に、体と口のでかいミミズみたいなやつが引っ付き、大きめの音量で暑苦しい歌を流している
イヤーワームって虫だったの?
そんな疑問が浮かぶが、とりあえず仕事をしなければ
この夏の猛暑の中でこんな暑苦しい歌を耳元で流され続けるのはきついだろう
依頼主はゲッソリしている
スズメバチ並みに危険な害虫だ
俺はさっそく可能な駆除方法を試した
まず、イヤーワームは何をしても依頼主から引き離せない
こうなった以上、殺虫剤などは使えない
依頼主の健康を害するからだ
その制限の中で、他の方法を試したが……
無駄に終わった
やつは一切の物理的な駆除方法が効かなかったのだ
依頼主の許可を得て安全にビンタしたりもしたが、ピンピンしている
不死身かこいつは?
だが、俺は閃いた
一般的なイヤーワームの解消方法を試せば、こいつを駆除できるのではないか
俺はすぐに解消方法を調べた
いくつかあったが、俺は脳トレを選んだ
なぜなら、俺が車に置いておいた雑誌に、クロスワードパズルが載っていたからだ
脳トレで意識を逸らせば、イヤーワームを駆除できるかもしれない
結果から言おう
効果はてきめんだった
夏に聴くには暑苦しいあの歌が、依頼主がクロスワードパズルに夢中になっている間に小さくなっていき、イヤーワームの姿は透けていく
しばらくしたら歌もイヤーワームも完全に消えていた
なんとか、依頼達成だな
俺はこの仕事をしてきた中で、最も深く感謝された
ただ、害虫駆除の知識や技術が一切無意味だったので、複雑な気分だ
だがまあいいか
依頼主が報酬にかなり色を付けてくれたからな
しかしこんなにくれるとは、よほど追い詰められていたらしい
せっかくだから、今日は焼肉でも食いに行くか