ストック1

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夏だ
夏は暑い
暑くて嫌になる季節だろうが、虫が現れる季節でもある
俺たち害虫駆除業者はこの季節、暑さのストレスに追い打ちをかける虫どもから人々を守るため、日々戦っているのだ
要は夏が稼ぎどきというわけだな
さあ、今日はどんな依頼が来るのか
そろそろスズメバチとか、巣ごと駆除したい気分だ
俺はこの仕事が大好きで、依頼が来るとテンションが上がる
実は、仕事が多いという理由で、俺はこの暑い夏を最高だと思っているのだ
そんな中で、ようやく待ちに待った依頼の電話が来た
依頼主によると、緊急だという
その内容だが、イヤーワームの駆除だった
もう一度言うイヤーワームだ
説明しよう
イヤーワームとは、頭の中で同じ音楽が鳴り続ける現象だ
興味のない曲ほど耳から離れなかったりする、一度始まると意外とうざいアレのことだ
バカ言ってんじゃないよ、と思ったが、俺は別の名前の間違いではないかと聞き返した
だが間違いではないらしい
たしかにイヤーワームだの一点張り
とにかく、考えうる駆除の方法をいくつも持ってきてくれ、と言われた
断ってもよかったが、一応、何かの間違いの可能性もある
俺はいくつかのパターンを想定した道具を持っていった
そして、依頼主の自宅へ着いた俺は目を疑った
依頼主の男性の耳に、体と口のでかいミミズみたいなやつが引っ付き、大きめの音量で暑苦しい歌を流している
イヤーワームって虫だったの?
そんな疑問が浮かぶが、とりあえず仕事をしなければ
この夏の猛暑の中でこんな暑苦しい歌を耳元で流され続けるのはきついだろう
依頼主はゲッソリしている
スズメバチ並みに危険な害虫だ
俺はさっそく可能な駆除方法を試した
まず、イヤーワームは何をしても依頼主から引き離せない
こうなった以上、殺虫剤などは使えない
依頼主の健康を害するからだ
その制限の中で、他の方法を試したが……
無駄に終わった
やつは一切の物理的な駆除方法が効かなかったのだ
依頼主の許可を得て安全にビンタしたりもしたが、ピンピンしている
不死身かこいつは?
だが、俺は閃いた
一般的なイヤーワームの解消方法を試せば、こいつを駆除できるのではないか
俺はすぐに解消方法を調べた
いくつかあったが、俺は脳トレを選んだ
なぜなら、俺が車に置いておいた雑誌に、クロスワードパズルが載っていたからだ
脳トレで意識を逸らせば、イヤーワームを駆除できるかもしれない
結果から言おう
効果はてきめんだった
夏に聴くには暑苦しいあの歌が、依頼主がクロスワードパズルに夢中になっている間に小さくなっていき、イヤーワームの姿は透けていく
しばらくしたら歌もイヤーワームも完全に消えていた
なんとか、依頼達成だな
俺はこの仕事をしてきた中で、最も深く感謝された
ただ、害虫駆除の知識や技術が一切無意味だったので、複雑な気分だ
だがまあいいか
依頼主が報酬にかなり色を付けてくれたからな
しかしこんなにくれるとは、よほど追い詰められていたらしい
せっかくだから、今日は焼肉でも食いに行くか

7/14/2025, 11:15:59 AM