ストック1

Open App
7/6/2025, 11:01:24 AM

「空恋」

彼は空に恋をしていた
日々移り変わり、決して同じ表情を見せない
そんな空が好きなのだ
晴れでも、雨が降っても、雪の日でも、毎日のように見つめては写真を撮る
さすがに嵐が吹く時は外へ出ず、撮っても屋内からだったが
しかし、心の中では外に出て撮りたい気持ちでいっぱいだっただろう
彼のフォルダは空の写真で埋め尽くされているらしい
そして、撮った写真を見ながらたまに絵も描く
その絵はなかなか上手かった
意外なことに、彼は飛行機やヘリなどで空を飛ぶことには興味がないようだ
彼曰く、空と一体になりたいわけじゃない、地上から空を見ていたい、とのこと
彼にとって空は、憧れながらも手の届かない存在であってほしいのかもしれない
ある日、彼はしばらく世界を回ることにしたと言い出した
自分の国以外の、様々な空を見たいそうだ
生活はどうするのか気になったが、彼は旅をしながら安定した収入を得られる目途がついた、と笑った
ちょくちょく帰ってくるから、と安心させるように言うと、空に恋する彼はワクワクした様子で旅に出た
彼は言った通り、外国を回っては帰ってくるを繰り返し、写真や土産話を持ち帰ってくれた
それはとても楽しい内容で、毎回聞き入ってしまう
しかし、彼は満足してはいないようだった
まだまだ空を観察し足りない
そう思っているようだ
きっと、その思いは一生続くのだろう
ある日、珍しく彼から写真付きのメールが来た
いつもは帰ってきてからのお楽しみなのだが、よほど嬉しかったようだ
それは、夕方の空で、浮かんでいるたくさんの雲のうち、大きい雲だけが黄金に輝いている写真だった
空にそれほど興味がなくとも、素晴らしく美しい景色だ、と思える
これはとても珍しい現象らしく、発生予測はほぼ不可能だそうだ
条件もある程度しかわかっていないという
こんな美しく、珍しい空を偶然見られたのだ
空に恋して、世界中を旅するほどに想いを募らせた彼は、きっと空の方からも愛されていたのだろう
そう思わずにはいられない一枚だった

7/5/2025, 10:53:31 AM

プライベートビーチで気の合う友人たちとビーチチェアで寛ぎながら、パラソルの下、水着にサングラスのスタイルでグラスのジュースを飲み、波音に耳を澄ませて優雅なひとときを過ごす
そんな淡い夢を抱いていた時期もありました
まあ普通に生活していたら、そんなことをできる立場になるなんて不可能ですね
実際、指先すら少しも届かない、触れられない
むしろ夢への距離は離れるばかりって感じですよ
でもね、結局夏は海水浴客がたくさんいる海で気の合う友人たちとほどよくはっちゃけるのが一番楽しいんです
優雅に寝っ転がってリッチな時間を満喫するなんて、性格上不可能ですね
波音より大きい周りの客のはしゃぐ声に自分たちも混じって遊び、海の家で焼きそばを食べる
それが最高
あのお祭り感は、プライベートビーチじゃ味わえない
プライベートビーチで寛いだことはないので、実際の楽しさは比べようがないのですけど
でも少人数で静かにビーチを独占するよりも、うるさいくらいの客たちとビーチを共有する一体感みたいなのを感じるほうが、心地良いと思うんです
そういう人間なんですよ
静かに楽しむのが好きな人にとっては、プライベートビーチは最高なんでしょうけど
波音しか聞こえない中で癒やされるのもいいって気持ちもよくわかります
ただ、喧騒の中が心地良い人間は、やっぱり海水浴場一択になってしまいますね
というわけで、今は波音と、騒がしい他の客や友人の声に耳を澄ませて、シートの上で気持ちよく寝っ転がってるわけです
お金で買えない、ある意味リッチなひとときですよこれは

7/4/2025, 11:26:54 AM

「青い風を表現してみてくれ
ただし絵の場合、青色は使ってはいけないよ
言葉でも、直接風の色が青色をしていると説明するのもダメだ
青いものを挙げて、それと同じ色をした風だと言うのも、もちろんアウトだからね」

伯父がなんか思いつきを口にした
ここが芸術大学とか、そういうところならわかるんだけど、僕たちは芸術とは縁がないし、今はこの人の提案でババ抜きをしている
ババ抜き中に何を言っているのか
周りの友人たちはハァ?みたいな顔をしている
僕もしている
この人はたまに僕たちにわけのわからないことをさせたがる
そしてなんだかんだ、最初こそ不満だが結局僕たちは楽しんでしまうのだ
それがよくない
伯父は味をしめてまた変なことを言い出すのだ
つまり、楽しんでしまう僕たちも悪い
ある意味自業自得だ
で、何?
直接色が青いと描かず、言わず、青い風を表現?
残念ながら僕は今の時間で思いついてしまったよ
絵ではなく、文章で攻める
風の色が青色であると言わずに青い風を表現してみせよう


その北風は若く、うまく吹くことができなかった
落ち込む若い北風に、先輩の北風は言った

「お前はまだ経験の浅い青二才だ
これでうまく吹けたら天才どころの騒ぎじゃない
だからまだまだ若くて青い風のお前は、落ち込まなくていい
努力を続ければいつか上手く吹けるようになるさ」

若い北風は先輩の言葉に励まされ、より一層やる気を出したのだった


とかどうだろう
色が青い、ではなく、未熟という意味の青を使い、青い風を表現してみた

「あー、なるほど」

友達たちはちょっと感心してくれてる
さて、伯父は?

「いやあ、風を擬人化したか
なかなかロマンチストだね」

ロマンチックかな、これ?
ロマンチック要素はないような

「君はこういうファンタジーなことをけっこう言うね
私は君のそういう発想、好きなんだよね」

評価してくれるのは悪い気しないな
あまりこういうもので褒められる機会ないし

「いやいや、おかげで満足できたよ
青は確かに、未熟って意味もあるもんね
うまいぐあいに風を青くしたね」

伯父は言葉通り満足げだ

「よかったら君たちも作ってみてね」

伯父はまだ考えついていない友達にも、引き続け考えることを勧めた
僕も他の二人がどう表現するのか気になる
やるかどうかはわからないけど、楽しみにしておこう
そんなことを考えていると伯父がトランプを集め始めた

「満足できたし、とりあえず今度はジジ抜きをしよう」

本当にこの人はマイペースだな

7/3/2025, 11:14:01 AM

私は確かに遠くへ行きたいと流れ星に願った
それは間違いない
もう生活に疲れ果てて、全て捨てて誰も知らない場所に行きたいと思ったのは認める
けど、これはおかしくないかな?
最初タイムリープしたかと思ったんだよ
流れ星に願った直後に意識が遠のいて、気がついたら十年ちょっと前の小学生時代の実家で目が覚めたから
でもタイムリープじゃなかった
じゃあなんなのか、って話だけど、それはとりあえず置いといて
やった、これで人生やり直せる、とかちょっと思ったけど、よく考えたら今まで築き上げてきたものも消滅したじゃん!とすぐに絶望したよね
私は、そうは言ってもそこまで追い詰められてなかったんだよ
疲れが溜まって弱気になってただけでね
だから、時間的に遠くへ飛ばされるなんて本位じゃないわけ
まあでも、それならそれでしかたないか、いい感じにやり直すか、と思ったんだけど
さっきも言った通り、タイムリープじゃないんだこれが
私の名字、柳瀬なのにさ
表札見たらなんて書いてあったかって
瀬能だって
下の名前は同じだった
……と思いきや、ノート見たら私の名前、実優が水優なってたよ
読みは同じで漢字が違う
柳瀬 実優が瀬能 水優
つまり、パラレルワールド
もとの瀬能 水優がどこに行っちゃったのか、そもそもこの世界が今始まったのか
元の世界はどうなってるのか
それはわからないけど、あまりにも遠すぎるし、これ絶対帰れないよね
私、疲れてたけど、元の世界に愛着はあったのにな
まあ、でもこうなったからには、スパッと諦めて新しい生活を始める方がいいかもね
もしかしたら、全部リセットして新しい世界で人生をやり直したほうが、幸せになれるってことなんじゃないの?
そうでも思ってないとやってられないよね
前の世界より幸せになってやるぞ!
……ん?
よく考えたら私、小学生なんだよね
まずい、子供らしい態度とかちゃんとできるかな?
うまくやらないと周りから浮きそうだよ
そもそも、パラレルワールドだから自分がどういう状況かわからないし
家でどう過ごしてることになってる?
交友関係は?
あー、めんどくさ!
初っ端から波乱の予感!
よし、こうなったら様子を見つつ、記憶喪失だってことにしよう!
それがいい!
ま、なんとかなるでしょ

7/2/2025, 10:40:24 AM

たまたま立ち寄った店に、マジッククリスタルという商品が売っていた
上下に先端のあるクリスタルの結晶のような見た目の、半透明なプラスチック製品だ
これはまた懐かしいものが売られてるな
色も何色かあって、それぞれの属性を表してるんだよな
昔流行ったけど、まだ生産してたとはね
子供の頃、よくこれでごっこ遊びみたいなことをしてたな
自分は魔道士で、普通はひとつの属性しか使えないんだけど、クリスタルに選ばれた存在だから全属性使える、みたいな設定で
魔法の名前や効果、呪文詠唱なんかも考えて、紙に書いてたっけな
もう具体的な内容も覚えてないけど
あれはいつ頃だったかな
たしか、小学校中学年くらいにやってたのかな
で、高学年に入ってすぐやめたんだった
そのあと中学に入ってから、書いてた頃の紙を発見して、それをもとに内容のレベルを上げて、また色々と設定を作ったんだよね
その一環で自分の設定を、かつて勇者に倒されて異世界から転生してきた魔王とかに変えて、クリスタルの力で再び魔法が使えるようになった、とかにして……
いや、この先は思い出さないほうがいいな
なんだか嫌な、もとい痛い予感がする
それにしても、このマジッククリスタル
世界観設定が加えられて、クリスタル以外にも、ファンタジー的な商品を展開するシリーズになってるんだな
うわぁ、それ俺が子供の頃にやってほしかったな
三頭身の勇者や魔王のおもちゃとか、魔道書、ドラゴンなんかもあるのか
で、商品はキャラやアイテムごとに世界設定が書いてある、と
へぇ、その設定をもとに今度アニメ化もされるんだ
これはちょっと見たいぞ
大きなシリーズに成長していて、なんか嬉しいな
久々にどれか買ってみよう

Next