「空恋」
彼は空に恋をしていた
日々移り変わり、決して同じ表情を見せない
そんな空が好きなのだ
晴れでも、雨が降っても、雪の日でも、毎日のように見つめては写真を撮る
さすがに嵐が吹く時は外へ出ず、撮っても屋内からだったが
しかし、心の中では外に出て撮りたい気持ちでいっぱいだっただろう
彼のフォルダは空の写真で埋め尽くされているらしい
そして、撮った写真を見ながらたまに絵も描く
その絵はなかなか上手かった
意外なことに、彼は飛行機やヘリなどで空を飛ぶことには興味がないようだ
彼曰く、空と一体になりたいわけじゃない、地上から空を見ていたい、とのこと
彼にとって空は、憧れながらも手の届かない存在であってほしいのかもしれない
ある日、彼はしばらく世界を回ることにしたと言い出した
自分の国以外の、様々な空を見たいそうだ
生活はどうするのか気になったが、彼は旅をしながら安定した収入を得られる目途がついた、と笑った
ちょくちょく帰ってくるから、と安心させるように言うと、空に恋する彼はワクワクした様子で旅に出た
彼は言った通り、外国を回っては帰ってくるを繰り返し、写真や土産話を持ち帰ってくれた
それはとても楽しい内容で、毎回聞き入ってしまう
しかし、彼は満足してはいないようだった
まだまだ空を観察し足りない
そう思っているようだ
きっと、その思いは一生続くのだろう
ある日、珍しく彼から写真付きのメールが来た
いつもは帰ってきてからのお楽しみなのだが、よほど嬉しかったようだ
それは、夕方の空で、浮かんでいるたくさんの雲のうち、大きい雲だけが黄金に輝いている写真だった
空にそれほど興味がなくとも、素晴らしく美しい景色だ、と思える
これはとても珍しい現象らしく、発生予測はほぼ不可能だそうだ
条件もある程度しかわかっていないという
こんな美しく、珍しい空を偶然見られたのだ
空に恋して、世界中を旅するほどに想いを募らせた彼は、きっと空の方からも愛されていたのだろう
そう思わずにはいられない一枚だった
7/6/2025, 11:01:24 AM