うるさい雨音に包まれて、俺は地面に倒れている
なにも大雨の降る嫌な日にこんなことが起こらなくてもいいじゃないか
たぶん、俺が壊滅させた組織の残党かなんかだろうな
俺を刺し、ボスの仇をとってやったとか言って、立ち去ろうとしたところを、滑って頭をどっかに打ち付けて死にやがった
俺を刺しといてそんなドジな死に方するなよ
自分が殺した相手より先に死ぬって、なんの冗談だ
俺の傷はどうやらすぐ死ぬような傷ではないらしく、死はまだ遠いようで、痛みだけが続く
これが雨の日の深夜、人気のない道じゃなけりゃ、誰かが救急車を呼んでくれたのだろうが、期待はできんな
あーあ
世のため人のためとはいえ……相手が犯罪組織とはいえ、たくさん殺してきたからな
いつかこうなるんじゃないかと思ってたよ
でも、俺だってやりたくてこの仕事をやってたわけじゃない
ガキの頃に両親が死んで、引き取り手もなく、故郷の町じゃ児童養護施設もない
そもそも町が腐敗していたから、俺みたいなのは死ぬか、ゴミ漁ったりして死なないようにするか、非合法な後ろ暗い仕事をして生きるかしかない
そして俺は非合法な仕事を選んだ
生きるために悪事に手を染めたわけだ
で、そんな中、俺に仕事をさせていた組織を壊滅させた今の組織に拾われて、犯罪組織を潰す仕事をやらされたわけだ
俺の組織は、平和を守る存在ではあるが、正義の組織じゃない
俺には、今の組織に入るか、犯罪組織の末端として始末されるかの選択肢しか提示されなかった
迷うことさえ許されない内容だ
俺は前者を選び訓練を受け、正式な構成員となって仕事に励み、今ではトップクラスの実力を持つとまで言われるようになった
ひどい組織ではあるが、多くの人から感謝はされていたんだ
俺自身も
だがその結果がこれとはね
つくづく報われない人生だぜ
ま、なかにはムカつく奴もいたが、同僚がだいたい気のいい連中だったのは、ありがたかった
連中とつるむのは、なんだかんだ楽しかったもんな
あいつらと別れるのは名残惜しいぜ
はぁ、けどもういいか
俺は充分頑張ったよな
そろそろ休んでも、文句は言われないだろ
心残りがあるとすれば、引退した先輩から貰ったいいワインを飲めなかったことか
と思ったが、俺は酒の味はわからないから、意味ないな
なら、思い残すことはやっぱ無いか
次があるなら、温かい家庭で、幸せに暮らしたいよな
もう、人は殺したくない
「クレア、よくこんなハードボイルドな小説書けるよね」
「これが才能ってやつ?」
「うわー、言うね
でも本当、才能あると思うよ
だって、リアリティとかすごいよ!」
「お母さんとお父さんは、リアルすぎて引いてたけどね」
「あー、わかるかも
だってまるで自分が体験したみたいだよこれ」
「……まあ、そうだからね」
「ん?なんか言った?」
「いやいや、なんにも」
「そう?
それはともかく、せっかくだしどっかに応募してみたら?
絶対賞取れるって!」
「いやぁ、それはちょっとマズイかな
……実話だし
まぁとにかく、私はあくまで趣味で書きたいから、プロは狙わない!」
「もったいないなぁ
ま、本人がそれがいいって言うなら、私はなんにも言わないけどね
また書けたら読ませてよ」
「わかった
楽しみに待っててね!
……ふぅ
平和で、家族がいて、友達がいて
すごい幸せだなぁ、私」
「美しいものを見たい」
なんてことを言うものだから、私は頑張ったわけです
友達のために美術館へ行こうと誘いました
美って書いてありますからね
美しい絵がたくさんあると思います
「いやぁ、美術館とかあんまり来ないけど、たまにはいいもんだね」
おお、なら満足できたんじゃないですか?
「うーん、でもなーんか違うんだよね
自分でもわからないけど」
違うそうです
ならイルミネーションを見に行きましょう
これなら友達も喜んでくれるはず
では次の土曜日に予定を入れます
「うわぁ、これはいいね
見慣れてるはずの街並みが、いつもと違う光景に変身してるよ」
これは手応えあり!
求めていた美しいものが今ここに!
「いい光景だけど、これは美しいというより、キレイって感じかな
すごく楽しいけどね
誘ってくれてありがと」
やっぱり違うみたいです
ならとっておきを出さないといけません
美しいといえば、いい景色!
2週間後に少し遠出して、山を登りましょう!
「いやぁ、気持ちいいね
ここが頂上かぁ」
どうです?
前に来て私が感動した景色です!
これこそ友達が求めていた美しいものに違いありません!
「これは美しいね」
来た!
やっぱりこういう景色でしたね!
「でも種類がちょっと違うかな?」
ダメでした
もう私の思いつく限りのものは出尽くしました
3つしか出してないですけど
もう限界です、残念です
「まあ、そんなに気にしないで
私もよくわかってないし、一緒に出かけて楽しかったから」
そう言ってくれてますが、悔しいですね
しかし残念な気持ちで山を降りて、帰りにまたこの間のイルミネーションを眺めていた時のこと
「あれ」
友達が1点を見つめています
親子連れです
お母さんとお父さんが嬉しそうな顔で、2人の子供を見ていました
そして……
「今日は2人に言わなきゃいけないことがあるの」
お母さんが子供たちに言います
子供2人は「なにー?」と、嬉しそうな両親を見て不思議そうに聞き返しました
「よく聞いてね
2人に新しいきょうだいができるよ」
それを聞いた子供たちは、ポカンとしたあと、キラキラした笑顔になってはしゃぎ始めました
「……うん
あれこそ、私が見たかった光景だよ」
友達がそう呟きました
見ている無関係な私たちも、なんだか嬉しくて心が暖かくなります
「美しいね」
友達が穏やかな笑顔でそう、言いました
そうですね
この光景は、美しいです
見たい光景、やっと見れてよかったですね
私は十数年ほど前から、神樹がゴーch.というチャンネルで、実況者神樹としてゲーム実況をやっている
チャンネル登録者数もなかなかのものだ
趣味で始めたことだが、一応利益も出ており、楽しく続けられている
顔出ししているわけだが、視聴者の反応から私がなかなかの美形らしいこともわかった
自覚はなかったが
そのおかげでついたファンもいるようだが、まあ、そんなことはどうでもいい
私には恐ろしく思っていることがある
それは、どうしてこの世界は勘の鋭い人々が多いのか、ということだ
SNSでちょっとエゴサーチをした時のこと
こんな内容のコメントをいくつも見つけた
「神樹さんの見た目、最初の実況動画から全然変わらないよね
もしかして不老なんじゃない?」
ハッハッハッ、なんでバレた
何を隠そう……いや、思い切り隠してるんだけど……私は異世界から追放され、この世界に150年ほど前に迷い込んだエルフなのだ
今は亡きある人に助けられ、魔法で尖った耳を丸く見せかけて(当時は屈辱だった)、普通に生活できるようになり、今に至る
しかし、バレたからにはしかたがない
フォロワーの皆さんにカミングアウトするとしよう
私はエルフです、と
『私を不老と言っている人たちがいるようですが、正直に言います
私は異世界から来たエルフです』
これでいい
打ち明けるのは緊張したが、もう隠さなくていいという解放感も感じ……ん?
「今日は4月1日じゃないですよ」
「神樹さんはエルフだったのかー(棒読み)」
「笑いました、冗談のセンスもあるんですね!」
「バーチャル配信者みたい
転身しちゃうんですか?w」
は?
えーと
不老とバレたわけじゃない?
冗談で言っていただけ?
これは、あれだな
図星だとたとえ相手が明らかに冗談で言っていたとしても、バレたと思い込んでしまう現象か
なんというか、恥ずかしいな
好意的なコメントがほとんどだけど、これでは痛いやつだぞ
消しはしないけど、無かったことにして、この件には触れずに実況活動を続けよう
『動画更新しました!
今回は久々にマツオカートやっちゃうぞ!』
「エルフの神樹さん、待ってました!」
「エルフの神樹さんの動画楽しみ!」
「エルフの神樹さんのマツオカート面白いんだよな」
「エルフの神樹さん、またヘイヨー使うのかな?」
「エルフの神樹さん、ダークボウルの続きまだですか?」
ギャアアア、いじられてるぅぅぅぅ!
忘れろぉ!
人の傷口に塩塗って楽しいかぁ!
あとダークボウルは難易度高すぎて無理!
クソォ打ち明けるんじゃなかった!
君と歩いた道も、とても長いものになった
共に様々な困難に立ち向かい、様々なことを達成してきた
苦労も多かったが、君と共に進んでいく時間はとても楽しく、僕にとっての宝だ
いつまでも、君と同じ道を歩んでいくのだと思っていた
けど、君は僕とは違う道を目指し始めた
きっと、君は僕の知らない新たな何かを見つけたのだろう
君は申し訳なさそうに打ち明けたけど、僕は不思議と嬉しかったんだ
君がそこまで本気になれるものと出会えたことが
君が別の道へ進むことには、寂しさもある
でも、君は勇気を出して僕に打ち明けて、本当にやりたいことへ向かって進もうとしている
僕はそれを、全力で応援したいと思えた
君は気にしていたけど、僕のことは心配いらないよ
新たな道へ進む君に負けないくらい、もっと頑張るから
だから、君も全力で打ち込んでほしい
僕と君の道は違うけど、会うことならいつでもできるから、お互いの道のりについて語り合おう
夢見る少女のように、私を憧れの眼差しで見る者たちよ
王の雛たちよ
私もかつてはそうだった
だがそれでは王にはなれぬ
憧れを己の強さと民への愛に変え、ここまで昇ってくるがいい
私は誰の挑戦でも受けよう
我ら魔族は実力主義
ゆえに勝ったものが王となる
しかし、己のために戦うなかれ
現王と戦うというのは、自らが王になるための行為ではない
あくまで王に相応しき者を決めるための儀式である
現王に勝ち、新王になったからには、民のために生き、民のために邁進し、民に信頼されねばならぬ
決して己の欲に飲まれず、王の使命を全うするのだ
そして、王として不断の努力を続け、その果てに敗れたならば、ただ去るのみ
それこそが我らの道
私はここに改めて、我が命を民のために捧げ、民がこの地で生き続けられるよう、この身を賭すことを誓おう
諸君も王を目指すのならば、民のための王であることを肝に銘じ、驕ることなく己を高めていくのだ
私が敗北し、王たる資格を失う日まで、私は王の名に恥じぬ存在で居続けよう
諸君も、王座に相応しき魔族となれ
炎の魔王 フレア・グラム
峰暦865年 6月1日 建国記念祭にて