ストック1

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6/6/2025, 11:43:19 AM

「散歩の時間だよ!
さあ行こう!」

絶対に散歩なんて行くものか
私はカーペットで横になって寛ぐんだ!

「ほら、おやつあげるよー」

私は誇り高きマルチーズとして、決してご主人の思い通りにはならないぞ
おやつごときで私の心は揺るがない

「ねえねえ、そんなテーブルの下に隠れないでよ
散歩好きじゃん」

たしかに私は散歩が好きだ
大好きだ
けど、今回ばかりは絶対に行くわけにはいかない
なぜなら、私はカーペットの上でゴロゴロしたい気分だから
散歩の気分じゃない
ちょっと眠い気もするし

「クーちゃん、寝るより散歩のほうが楽しいよ?
散歩しよ?」

いかにご主人が相手でも、その提案だけは受け入れられない
私はこの場から動く気はないんだ

「わかった
じゃあもう強制的に連れて行くよ!」

あっ、ご主人が本気の目をしている!
うわぁやめてぇ!

「ほら、さっさと出てくる!」

私は知っている!
本当は散歩じゃないんだ!
私にはわかるんだ!

「ほら暴れない!
どうせ車で行くから、抵抗されても多少は平気なんだよ!」

うわあああ!
やっぱり!
車で行くってことは絶対に散歩じゃないよ!
いやあああ!
病院には行きたくないいいい!
注射は嫌だあああ!
あああああ!

6/5/2025, 11:42:36 AM

水たまりに映る空は、暗かった
夜のように暗いわけじゃない
薄ら明るい空だ
見たことはないけど、宣伝番組で見たホラー映画の空って、昼でもこんな暗さじゃなかったっけ?
ということは、この水たまりの先はホラー映画の世界に繋がっているのではないか
そう考えると、なんか覗くのが怖いな
たとえば、水たまりに映る僕の後ろで、青白い顔を長い髪で覆った女の人が、髪の隙間から恨めしそうな目を覗かせてこちらを睨んでいるんだ
驚いて後ろを振り向くと、そこには何もいない
そうして安心して水たまりに視線を戻すと、やはりまた恨めしそうにこちらを睨む女の人がいる
けど、さっきと違って水たまりの向こうはとても明るくて、僕のいる方は、昼なのにいつの間にか薄暗い
慌てて顔を上げ、後ろを向くと、恨めしそうな目と僕の目が合ってしまい……
あぁ、考えただけでも恐ろしいね
ホラーが苦手なくせにこんなことを考えるなんて、本当に何をやってるんだか
たまにこういうことがあるんだ
普段は貧弱なのに、嫌なことを考える時だけ想像力が異様に強まることが
残念なことに自分の想像が全く頭から離れてくれない
怖すぎてしばらく水たまりを見たくなくなっちゃったよ
どうせ水に映るなら、水たまりに映る暗い空じゃなくて、ウユニ塩湖くらい鮮やかな空を見たいものだね
そこなら、ホラーな想像とは無縁だろう
それにしてもまったく、今日は眠るのに苦労しそうだ
僕はホラーが苦手なんだってば

6/4/2025, 10:42:48 AM

あの時、君が僕を選んでくれたのは、恋か、愛か、それとも……
だが、そんなことはどうでもいいのだ
過去の君がどんな気持ちで僕を選んだのか
それは今、二人が恋をし、愛し合うことに対して、なんの問題も生み出さない
だから、そんな顔はしないでほしい
君は過去の自分の気持ちについて、なにも気にする必要はない
今この時、僕と君の心が繋がっているのなら、それで充分だろう
もしかしたら君はあの日、傷ついた僕に哀れみから手を差し伸べてくれたのかもしれない
だからといって、僕たちの関係が嘘になるわけではないんだ
始めはどうでも、僕たちが育てた絆は、絶対に本物なのだから
君が後ろめたさを感じているのなら、僕がそんなことを考える気も起きないくらい、もっと楽しい日々にするよ
僕は君の笑っている姿が好きなんだ
だからもう、そんなことで悩まなくてもいい
君が幸せなら、僕はそれで満足だから

6/3/2025, 11:27:39 AM

厄災の化身
世界を滅ぼし、リセットするために現れる悪魔
その力を宿してしまった者は、破壊の意思に支配され、人類の敵となる
人でありながら、人類を抹殺する存在と化してしまうのだ
誰に力が宿るかは、誰にもわからない
ただ、誰であろうと、力が宿った者を止めなければ世界は終焉を迎えるだろう
悪魔の展開する恐るべき魔法が完成すれば、人はこの世から消滅する
だが、希望がないわけではない
世界を滅ぼす力に目覚めた者がいるのなら、反対に、世界を救う力に目覚めたものもいる
それが私だ
必ず、人であった悪魔の魔法を阻止し、世界を、人類を守る


「誰も私を止めることはできない
お前に世界は救えない
おとなしく破滅を受け入れ、残された時間を有意義に過ごせ」

悪魔は冷酷な声で私に告げる
凄まじい殺気と魔力
世界を救うのは、だいぶ骨が折れそうだ
だが、退くわけにはいかない

「救えるさ
私には負けない理由がある」

「理由?」

「約束だよ
覚えているか?
君がまだ悪魔になる前
私が力に目覚めた時、私は君と約束しただろう
必ずこの力で、みんなを救うと
私は果たせない約束はしないんだ
だから、私は絶対に負けないよ」

そう
約束したのだから、私は勝つんだ
勝って世界を救う
そして、君のことも救ってみせる
君を、悪魔の心から解放し、人間へと戻す
だから、全てが終わったら、また一緒に暮らそう
母として、いつまでも娘を厄災の化身のままでいさせるわけにはいかない
ほんの少しだけ待っていてほしい
君との幸せな日々は、必ず、取り戻すから

6/2/2025, 11:47:42 AM

傘の中の秘密を解き明かしたい
からかさ小僧という妖怪の話さ
傘に一つ目が付き、舌を出して一本足が生えている妖怪だ
唐突にどんな妖怪か気になったので、調べてみたんだけどね
驚くほど情報がない
馴染み深いあの見た目の絵はたくさん出てくるんだけど、どういうことをする妖怪なのかは、調べてもわからない
意外と謎が多い妖怪だ
いや、謎の塊と言ってもいいか
ここまで見た目以外謎だらけだと、神秘的なものさえ感じるよ
あまり共感されないかもしれないけど
情報がない以上、解き明かすためには直接会うしかない
さあ、僕の妖力をフル活用して、からかさ小僧を引きつけよう
僕の妖力はおいしいので、大抵の妖怪は釣られてくるはずだ

効果が出るのにそんなに時間は要らなかった
からかさ小僧が来てくれたのだ
途中、間違って釣られてきた一つ目小僧に、君のための妖力じゃないと言ったら、紛らわしいと蹴られたけど、まぁそんなことはちっちゃいことだ
妖力をご馳走した僕は、からかさ小僧に質問した

「君ってさ、どういうことをする妖怪なんだい?
調べても全然出てこないんだよね」

からかさ小僧は、それはそうだ、と笑い始めた

「妖怪がみんながみんな、特徴的な行動をするわけじゃない
僕はただ、普通に生活してるだけだよ
他者から見たら毒にも薬にもならない
人間で言うと、芸能人やスポーツ選手、政治家ではない、単なる一般人
それが僕という妖怪だよ」

それは僕にとってなかなかに衝撃的だった
妖怪はそれが善事であれ悪事であれ、特徴的なことをするものだと思い込んでいた
しかし、からかさ小僧はそういったことは何もしていない妖怪だという
それを聞いて、僕は妖怪も人と同じなのかもしれない、と思った
なにかを大きなことをする存在が目立って見えているだけで、実際は普通に過ごしているだけの妖怪のほうが多いんじゃないか
そして、そういう妖怪は、関わりがないわけだから、人からあまり認識されないのだ

「まぁ、僕の場合は一本足で跳ねながら移動するのが可愛いとかで、目立っちゃったけどね」

からかさ小僧は冗談めかしてそう言うと、僕にがっかりしないでよ、と笑いながら去っていった
がっかりするなんてとんでもない
おかげで妖怪について新たな知識と視点を得られたよ
からかさ小僧に会えてよかった
短いけど、充実した時間だったね

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