ストック1

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うるさい雨音に包まれて、俺は地面に倒れている
なにも大雨の降る嫌な日にこんなことが起こらなくてもいいじゃないか
たぶん、俺が壊滅させた組織の残党かなんかだろうな
俺を刺し、ボスの仇をとってやったとか言って、立ち去ろうとしたところを、滑って頭をどっかに打ち付けて死にやがった
俺を刺しといてそんなドジな死に方するなよ
自分が殺した相手より先に死ぬって、なんの冗談だ
俺の傷はどうやらすぐ死ぬような傷ではないらしく、死はまだ遠いようで、痛みだけが続く
これが雨の日の深夜、人気のない道じゃなけりゃ、誰かが救急車を呼んでくれたのだろうが、期待はできんな
あーあ
世のため人のためとはいえ……相手が犯罪組織とはいえ、たくさん殺してきたからな
いつかこうなるんじゃないかと思ってたよ
でも、俺だってやりたくてこの仕事をやってたわけじゃない
ガキの頃に両親が死んで、引き取り手もなく、故郷の町じゃ児童養護施設もない
そもそも町が腐敗していたから、俺みたいなのは死ぬか、ゴミ漁ったりして死なないようにするか、非合法な後ろ暗い仕事をして生きるかしかない
そして俺は非合法な仕事を選んだ
生きるために悪事に手を染めたわけだ
で、そんな中、俺に仕事をさせていた組織を壊滅させた今の組織に拾われて、犯罪組織を潰す仕事をやらされたわけだ
俺の組織は、平和を守る存在ではあるが、正義の組織じゃない
俺には、今の組織に入るか、犯罪組織の末端として始末されるかの選択肢しか提示されなかった
迷うことさえ許されない内容だ
俺は前者を選び訓練を受け、正式な構成員となって仕事に励み、今ではトップクラスの実力を持つとまで言われるようになった
ひどい組織ではあるが、多くの人から感謝はされていたんだ
俺自身も
だがその結果がこれとはね
つくづく報われない人生だぜ
ま、なかにはムカつく奴もいたが、同僚がだいたい気のいい連中だったのは、ありがたかった
連中とつるむのは、なんだかんだ楽しかったもんな
あいつらと別れるのは名残惜しいぜ
はぁ、けどもういいか
俺は充分頑張ったよな
そろそろ休んでも、文句は言われないだろ
心残りがあるとすれば、引退した先輩から貰ったいいワインを飲めなかったことか
と思ったが、俺は酒の味はわからないから、意味ないな
なら、思い残すことはやっぱ無いか
次があるなら、温かい家庭で、幸せに暮らしたいよな
もう、人は殺したくない



「クレア、よくこんなハードボイルドな小説書けるよね」

「これが才能ってやつ?」

「うわー、言うね
でも本当、才能あると思うよ
だって、リアリティとかすごいよ!」

「お母さんとお父さんは、リアルすぎて引いてたけどね」

「あー、わかるかも
だってまるで自分が体験したみたいだよこれ」

「……まあ、そうだからね」

「ん?なんか言った?」

「いやいや、なんにも」

「そう?
それはともかく、せっかくだしどっかに応募してみたら?
絶対賞取れるって!」

「いやぁ、それはちょっとマズイかな
……実話だし
まぁとにかく、私はあくまで趣味で書きたいから、プロは狙わない!」

「もったいないなぁ
ま、本人がそれがいいって言うなら、私はなんにも言わないけどね
また書けたら読ませてよ」

「わかった
楽しみに待っててね!
……ふぅ
平和で、家族がいて、友達がいて
すごい幸せだなぁ、私」

6/11/2025, 11:43:28 AM